30 幸せを眺める者
卒業パーティーの開催日。
この日はいつも晴れている。
いつもいつも、変わらず太陽が降り注ぎ、なんの憂いもないかのように、学生達は華やいだ顔をしている。
どうして、みな、そのように幸せそうなのだろう。
ゆっくりと目を瞬いた――は、もはや8回目となるその光景を、疑問と諦観のこもった瞳で見つめる。
パートナーのいる者たちは、お互いの色を纏い、エスコートされながら、幸せそうに入場している。
パートナーがいない者も、煌びやかな衣装に身を包み、誇らしげな顔をしている。王国随一の学園であるプリムローズ学園の卒業生となることを自慢に思っているのだろう。みな、話をしながら、喜びと安堵に満ち溢れていた。
学園の卒業。
自由な時間の終わりを告げるそれに、何故そのように歓喜することができるのだろうか。
――は、ふう、と一つため息をついた。
みな、今見える自分の将来に満足しているのだ。
――のいるクラスは、プリムローズ学園の特進クラスだ。高位貴族の子に生まれ、優秀さを競ってきた令息、令嬢たち。彼らはみな、世襲貴族として、官僚として、その配偶者として、国の頂に立つ存在となる。
そこに不満はなく、明るい未来しか見えていないのだろう。
ここに居る――以外は。
そして、――はクスリと微笑む。
今からここは、ラインハルト第二王子による催し物の会場となる。
アンジェリーナが死んでしまったあの回以外は、ずっとそうだった。
ここにいる幸せそうな令息たちや令嬢たちの空気に水を差す存在が現れると思うと、少しだけ仄暗い喜びが――の胸の内に広がった。
同時に、罪悪感も生まれる。
アンジェリーナ。
――は、彼女を傷つけたいと思っていなかった。
不測の事態だったのだ。
アレの執着が、まさか彼女をこんな目に遭わせるとは思ってもみなかった。
なんとかしたいと思うけれども、――の知識では、彼女を救うことができない。
そもそも、――のやりたいことをすると、彼女の命が危うくなる。仕方なく――は今、やりたいことを中断しているのだ。
けれども、中断している間は、アレのせいで、アンジェリーナが時間を遡ってしまう。
実は、――は頭を抱えていた。
――は、アレが、毎回毎回、飽きもせずにこのようなことを繰り返すとは思っていなかったのだ。
いつか諦めるだろうと、そう思っていた。
いや、アンジェリーナも悪いのだ。
そもそも何故彼女は、外に出るたびに毎回毎回勝手に危険な目に遭うのだ。
家にいると思ったら、家族に軟禁されていたりするし、引きこもりになって、太っているから外に出たくないと呟いたりする。
酷い時は、家の中で殺されている。
まるで、時を遡れと言わんばかりの状態だ。
そういうことをするから、アレが張り切って時を戻してしまうのだ。
こうなったらもう、アンジェリーナに自力で助かってもらうより他はない。
――には、どうしようもないのだ。




