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3 自覚



 そうして、アンジェリーナはいつもどおりに、日常を過ごした。


 第二王子と男爵令嬢マリアンヌが寄り添っているのを見かけては、二人の距離が近いことに苦言を呈した。

 そして、いつもどおり第二王子とマリアンヌに口汚く罵倒され、校舎裏でこっそり落ち込んでいるところに、カルロスとマルセルが登場し、愚痴を聞いてもらう。

 オルトヴィーンが図書室の奥で自主研究に勤しんでいるところに顔を出し、趣味の研究についてお互いにこっそり情報交換をする。

 案内役の第一王子や第一王子妃が多忙な日は、クラスメート達を何人かつれて、隣国出身の留学生のエスコート役を勤める。本来は第二王子の仕事だが、彼はもっぱらマリアンヌに夢中で仕事をしないので仕方がない。

 そして、カルロスはアンジェリーナに、卒業パーティーのエスコートを申し込んでくれた。アンジェリーナは、既視感を覚えながらも、その申込みを断る。


 そうして卒業パーティー当日を迎えた。


(ラインハルト殿下には、エスコートもしてもらえなかったし、ドレスの贈り物すらなかった。これだけわたくしを粗雑に扱い、マリアンヌと懇意にしている事実があれば、婚約解消でしょうね)


 夢の記憶のときのように、卒業パーティーで婚約破棄宣言などという滑稽なことをされるとは思わない。

 けれども、卒業パーティーで婚約者のアンジェリーナを一人入場させ、男爵令嬢マリアンヌのエスコートするのだ。この事実があれば、第二王子との婚約を解消することができるだろう。


 この数年、アンジェリーナは父のアンダーソン侯爵に対して、第二王子との関係が破綻していることについて訴えてきた。しかし、権力に目が眩んだ父は、アンジェリーナに第二王子を取り戻せと促すばかりで、婚約解消の打診すらしてくれなかったのだ。


 それでも、これだけあからさまな不貞の事実があれば、さしもの父も諦めてくれるだろう。

 実際、あの偏屈な父も、卒業パーティーのドレスすら贈ってもらえなかったアンジェリーナを見てようやく、この婚約を貫き通しても第二王子妃としての旨味を得られる可能性が低いという事実に気がついたようだった。


 客観的証拠が残るくらい()()()()()にされているとは情けない話だが、これが現実なのだから仕方がない。


(とにかく、この婚約を解消できればなんでもいいわ。……夢に見たの1ヶ月のときは、こんなに平静でいられなかった。やっぱり、心の準備って大切なのね)


 忘れると決意したはずなのに、なんだかんだとあの記憶に助けられている。

 アンジェリーナは自分の小狡いところに失笑しつつ、卒業パーティー会場に入場した。




「お前との婚約は破棄する! そして私はこの場をもって、心優しいマリアンヌと婚約する!」



「……え?」



 そして始まる断罪劇。


 第二王子とマリアンヌ、その取り巻きの令息達からの罵詈雑言。


 アンジェリーナは、呆然とするばかりだった。


 第二王子の発言の内容に驚いたからではない。

 これはまるで――夢に見たあの記憶と、そっくりそのまま、同じではないか。


 あまりに驚きすぎて、言葉を発することができないアンジェリーナ。

 そんなアンジェリーナの様子に、なぜか第二王子が焦りを見せる。


「なんだ、反論もせずに大人しく連行されると言うことは、自分の罪を認めるということか!」

「……あ、わ、わたくし…………」


 身を固めて声を震わせているアンジェリーナに、衛兵が近づいてくる。

 衛兵がアンジェリーナの両手を拘束し、引きずられるようにアンジェリーナは扉に向かわされた。


「――待て!!」


 そして何故か、そんなアンジェリーナと衛兵を止めたのは、衛兵に対してアンジェリーナを連行しろと命じたラインハルト第二王子本人であった。


「だめだ! だめだだめだ、そのまま行くだと!? それは許さない!」

「……殿下?」

「で、殿下、どうしたんですかぁ? 無理は良くないですぅ!」


 様子のおかしいラインハルト第二王子に、アンジェリーナだけでなく、男爵令嬢のマリアンヌも気遣いの声をかける。

 けれども、第二王子には、アンジェリーナの声もマリアンヌの声も届いていないようだ。


「……罪人の証に、この場で耳を落としてからだ」


 会場から悲鳴が上がる。衛兵達の静止の声が、遠く聞こえる。

 衛兵の一人が腰に携えていた剣を抜いて、アンジェリーナに近寄ってくる第二王子。


 なぜ。

 なんで、どうして。


 これは、一体、どういう――。




「逃げろよ、ばか」




 アンジェリーナの耳元で聞こえたのは、夢の記憶でも聞いた、その言葉。


 今度こそ、アンジェリーナは目を見開いて、黒いその影を見た。


 剣を振りかぶられているアンジェリーナを庇うように立ちはだかった、その人。


「あ――」


 声をかけようとしたその時、目の前に幾重にも重なった魔法陣が現れる。



 その直後、アンジェリーナはやはり、意識を刈り取られてしまった。




****




 そして、目が覚めると、そこは1ヶ月前の自室のベッドの上。


 さすがのアンジェリーナも、気がつかない訳にはいかなかった。


「わたくし、時を遡っているわ……」


 アンジェリーナは呆然として呟いた。





【獲得情報】

繰り返すだけでは、時戻りは終わらない。



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