表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/76

22 ラインハルト第二王子(前編)



 遠く視線の向こうには、マリアンヌと取り巻き達。


 そこはとある空き教室、中にいるのは、アンジェリーナとニコラスと、もう一人。



「なんだ。どういうことだ。私をこんな場所につれてきて、大した話でなかったらどうなるか分かっているんだろうな」



 ラインハルト第二王子は、チラチラとカーテンの影からマリアンヌを気にしながら、居丈高にそう(のたま)った。


「ラインハルト殿下、呼び出しに応じていただき、誠にありがとうございます」

「下々の嘆願に応じるのも王族の勤めだからな」

「素晴らしいお考えですね。さすがは王子殿下だ」


 そう言うと、ニコラスは第二王子に対して見せるように、机の上に紙を差し出す。

 その紙に書かれた内容を見て、第二王子は大きく目を見開いた。


『あなたに伝えたことは、マリアンヌに自動的に伝わりますか?』


 震える手でその紙に触れた第二王子は、しっかりとニコラスの目を見る。


「これは私の独り言だが……そのようなことはないが、真実の愛の前で隠し事はないな」


 その言葉に、ニコラスは頷いた。


 要するに、監視魔法などで常に見張られている訳ではないが、マリアンヌに直接尋ねられてしまった場合、魅力魔法によって答えを言わざるを得ないということだろう。


 だから、彼はわざとこのような話し方をしている。

 マリアンヌに「何か秘密を話したか」と聞かれても、()()()()()()()()()()()()「話していない」と答えられるように。


「殿下」

「なんだ」

「わたくし、分かっています。殿下の置かれている状況も、殿下がわたくしを庇いながらも、ずっと助けを求めていたことも。お伝えするのが遅くなってしまって申し訳ございません」


 アンジェリーナはそれだけ言うと、ラインハルト第二王子の目を真っ直ぐ見た。

 ラインハルト第二王子は、一瞬泣きそうな顔をした後、机の上の紙に視線を移す。


「私は何もできなかった。そして、これからも」

「殿下」

「けれども、このままにはできない。このまま、いいようにされる訳には……」


 ラインハルト第二王子は、耐えるように、固く手を握り締めている。

 その手からつう、と血が滴って、アンジェリーナは慌ててその手をとった。


「殿下、いけません!」

「気にするな」

「そんなことできません! 御身を大事にしてください」


 アンジェリーナは自分のハンカチをラインハルト第二王子の手に巻く。

 そんな彼女の様子を見ながら、第二王子は「こんなことをしてもらう資格はない……」と呟いていた。


「そろそろいいか?」

「えっ?」


 振り向くと、手を組んだニコラスが、面白いものを見るような目でアンジェリーナとラインハルト第二王子を見ていた。


「悪いな。婚約者同士、色々積もる話もあるだろうが、時間がない。俺も素で話をさせてもらうぞ。殿下も構わないだろう?」

「……いいだろう。それで、何が理由で君はここにいる?」

「俺がここにいるのは、俺がアンジェリーナの味方であると自分で決めたからだ。なあ、リーナ」

「はいっ!?」


 いきなり話を振られて、動揺するアンジェリーナ。

 第二王子は、そんなアンジェリーナとニコラスの様子に、ビキビキと血管を浮き上がらせた。


「ほう。人の婚約者を愛称で呼ぶとは、ラマディエール王国では風紀が乱れているようだ」

「あんたに風紀の話をされるとは、世の中何があるか分かったもんじゃないな」

「ちょっと、ニコラス卿!」


 暗にマリアンヌとのことを指摘され、青くなったラインハルト第二王子を見て、アンジェリーナは非難の声を上げる。

 ニコラスはケラケラ笑いながら、「悪い悪い」と手を挙げて降参した。


「友人を愛称呼びするのは、俺の育ちが悪いからだな。まあその辺があるからこそ、協力できると言っても過言じゃないから、見逃してくれ」

「――廃嫡予定の嫡男。ニューウェル公爵家の長男、ニコラス」


 ラインハルト第二王子の言葉に、ニコラスは目を細める。


「へえ。よく知っているじゃないか」

「うちの国に留学にくると分かって、国内上層部もざわついたからな」

「……国内、上層部……?」


 なんのことだか分からず不安そうな顔をするアンジェリーナに、ラインハルト第二王子は微笑む。


「そうだ、アンジェリーナ。この男はただの公爵家の令息ではない。()()()()()()()()()()()使()()()だ」

「……ん? いや、そこまで有名では」

「ラマディエール王国の聖女出現が絡んだ一件、近隣諸国で知らない国はない。高レベルの闇魔法耐性を有し、精神魔法や認識阻害魔法が効かない高位貴族の令息。その存在にどれだけの価値があるのか、アンジェリーナにも分かるだろう」


 ラインハルト第二王子に言われたことを、アンジェリーナは頭の中で咀嚼する。

 精神魔法に影響されない彼が、側近として――身内として存在してくれていたら、それはどれだけ心強いことだろうか。特に、マリアンヌが開発したような、魔法探知を掻い潜るような洗脳魔法が存在するなら尚更だ。実際、アンジェリーナはこれほどまでに、彼の存在に助けられている。


 しかし、納得するアンジェリーナとは正反対に、ニコラスは嫌そうに眉を顰めた。


「大袈裟にするな」

「ニューウェル卿」

「俺はただ、小さい頃から闇魔法で遊んでいただけの不良学生だ。聖女はともかく、俺自身は大した存在じゃない。これ以上ここでその話をするなら、俺は手を引かせてもらう」

「えっ!?」


 真っ青になって振り向いたアンジェリーナに、ニコラスは少し驚いた後、苦笑する。


「俺のことはいいから、本題に移ろうってことだよ」

「ほ、本当に?」

「……まあ、第二王子殿下次第だな」


 ニコラスがラインハルト第二王子に視線を投げる。

 第二王子はその視線を受けてしばらく考えていたが、最終的に長いため息をついた。


「いいだろう、ニューウェル卿。話を進めたまえ」


 ニヤリと笑った自称不良学生は、アンジェリーナに話をするようなそぶりで、ラインハルト第二王子に聴こえるように今までの経緯を語った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ