かけもち監督? 6
フサエちゃんのチームの練習時間が午前中だったため、陽介は13:30頃自宅に帰ることが出来た。
帰宅して直ぐに「監督は出来ません!」とフサエちゃんに電話をすると、さすがに感じが悪いだろうと思い、土曜日で仕事が休みだった陽介は、缶ビールを1本飲み干し昼寝に入った。
しかしこの昼寝が災いした。
日頃の疲れもあり、また1本とは言え缶ビールの影響もあたっか、18:00頃まで爆睡してしまった。
「イッけね~!、早く電話しないと相手も夕食の時間になっちゃう。」と言いながら、慌てて携帯に手を伸ばしフサエちゃんに電話をしようと電源を入れた。
すると待ち受け画面に着信履歴が2件。
いずれもお仲人さんの奥さんからだった。
陽介は直ぐに奥さんに電話をした。
すると2~3コールで奥さんが出た。
「こんばんわ。陽ちゃん。今日フサエのチームに行ってくれたんだって!、本当にありがとう。それでねフサエが言うには、チーム全員が陽ちゃんの指導に感銘を受けて、是非監督になってもらいたいって言ってるんだって。だから私から陽ちゃんに重ねてお願いをしてもらいたいって言われちゃって…。私は陽ちゃんも実際にチームのメンバーや練習状況を見て色々と思う所もあるだろうから、無理強いは出来ないわよ!。一応陽ちゃんには電話をしてみるけど…。と言ったの。それで陽ちゃんはフサエのチームの監督にいつから就任するの?」と、相変わらず相づちも返事もさせない一方的に勢いよく話す話し方で、陽介に言った。
しかも、遠回しに陽介に気を遣ってくれたような内容だが、どう考えても陽介が監督をすることが前提になっている。
聞けば、フサエちゃんからの電話は、12:00過ぎだったとのことで、要するにフサエちゃんは練習終了後直ぐに奥さんに電話をしていたということだ。
陽介は、自分の気遣いを後悔した。
もっとも、先に奥さんに電話をしてしまえば、義理があるだけに奥さんに説き伏せられる可能性がある。したがってフサエちゃんに最初に電話をして、『監督を引き受けない』という結果を奥さんに報告するだけの電話にする予定だった。
しかし、着信履歴が2件。しかも奥さんからの電話だったので、早く電話を返さなければ失礼にあたると思い、自分が考えていた段取りをすっかり忘れて電話してしまった。
また、それよりも何よりも、練習の帰り際に『監督を引き受けない』ということを、気を遣って言わなかったことがマズかった。
陽介が、電話口でそんなことを考えて無言になっていると、奥さんが「色々考えるところがあると思うけど、きっと陽ちゃんはフサエのチームの監督になってくれるよ!って言っておいたから、次に練習に行く日を連絡してあげてネ!、じゃぁまたね。」と言って、一方的に電話が切れた。
陽介は、「いつもの事ながら、一方的に電話が切れたなぁ。でもさすがにフサエちゃんのチームの監督になるのはキツイ。どうやって断ろうかなぁ?」と、しばし思案した。
10分位経ったであろうか。陽介は再び奥さんに電話をした。
奥さんは直ぐに電話に出てくれた。
そして、「奥さん、本当に申し訳ありません。フサエちゃんのチームが好きとか嫌いとかいう事ではなく、このチームを試合に勝つためのチームにして行くためには、長期間の練習が必要だと感じました。つきましては、今監督しているチームのこともあって毎回練習に行くことも難しく、僕がフサエちゃんのチームが満足してくれるような監督になるのは無理だと思います。」と陽介が話そうとしたその時、「陽ちゃん良かったわ。今フサエに電話したところよ。さっきの電話の様子だときっと監督になってくれるって話したところ。何か陽ちゃんが帰る時に次の練習日を伝えてあるって言ってたけど…。宜しくネ!」と先に話し始めた。
陽介は慌てて、「いや、違うんです。色々考えたんですが僕は監督を引き受けないことにしたんです。申し訳ありません。」と言った。
すると奥さんは、「何で?」と優しく聞いてきたので、さっき先に話そうとしたことを伝えた。
陽介は、本当に心苦しかった。
散々お世話になったのに、奥さんの意向にそうことができなかったからだ。
奥さんは、「陽ちゃん、今から時間ある?」と尋ねて来た。陽介は明日も仕事が休みなので、「大丈夫です。」と答え、以前ご馳走になった池袋の高級焼き鳥の店に向かった。