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かけもち監督? 5

 あまり気の進まなかった陽介だが、イッちゃんの切実なお願いを受け入れコートに向かい、ネットを越えることが少ないサーブを打っている面々の練習を止めた。


 するとイッちゃんが、「これから監督がサーブの打ち方について、指導してくれます。皆で聞きましょう!」と言った。


 陽介は、「繰り返しますが、僕はまだ皆さんのチームの監督を引き受けていません。そこのところは理解してもらった上で聞いて下さいネ!」と、苦笑いをしながらサーブについて話し始め、「先ず、サーブに対する僕の考え方を言います。サーブは最初の試技ではなく最初の攻撃だと思って打ちべきだと僕は思っています。強くて速くて低くてエンドラインまで届くサーブを打てば、エースを取れる確率が上がり点数を取れます。なぜそういうサーブが必要だと思いますか?」と皆に聞いてみた。


 しかし皆寡黙になり何もしゃべらない。


 もちろん陽介はこうなることは承知していた。


 「時間もあまりないので、誰かに聞いてみましょう!」と陽介は言い、その言葉に全員がうつむいたメンバーを見て、陽介にサーブの指導を懇願したイッちゃんを指さし、「イッちゃん、どうでしょう?」と尋ねた。


 イッちゃんは、嫌~な顔をしながら「サーブを強くエンドラインまで届くように打てば、当然力も必要になり速いサーブが打てるし、ネットも越えるようになるからだと思います。」と答えた。


 陽介は、「それでは僕がさっき言った、強くて速くて低くてエンドラインまで届くという言葉をそのまま字面に合わせて言っただけです。僕が思うには、強くて速くて低いサーブはレシーブする者にとって極めてレシーブしずらいことになります。そしてエンドラインまで届くように打つ理由は、前衛でサーブレシーブしようとしている者がそのサーブを後ろにはじいても、後衛の選手がそれをカバー出来る可能性がありますが、後衛の選手がそのサーブをはじけば後ろには選手がおらず、サービスエースをとれる可能性が高いからです。そしてその時点で1点を取ることが出来ると考えているからです。」と説明した。


 皆は、『なるほど!』といった表情で首を何回も縦に振りながら「うん。うん。」とうなずいていた。


 そして陽介は、「では、どのようにサーブを打てばそういったサーブが打てるのか?、これから説明しますネ。」と言い、陽介本人がサービスエリアにボールを持って立った。


 陽介は、強くて速くて低くてエンドラインまで届くサーブを、アンダーサーブ・サイドサーブ・フローターサーブ等で打って見せた。


 その上で、「そもそも安定したサーブを打つためには、サーブを打つために上げるトスを一定の高さにすること。またサーブをヒットする位置を常に一定にすることが重要です。これが出来るようになれば安定したサーブを打つということに関しては、80%は完成です。そして各々の技量や試合状況によってサーブを何処を狙ってうつのか?、或いは変化させるのか?などが出来るようになると思います。」と言った。


 皆またしても首を縦に何回も振りながら「うん。うん。」と大きくうなずいた。


 しかし陽介は、「ただ皆さんのサーブを見ていると、先ずはネットを越えるサーブを打つことを練習した方が良いかもしれません。それが出来るようになってから先程言ったようなサーブを練習をするのが良いと思います。やみくもにサーブを打つ練習をしても、それは練習ではありません。練習して来た結果を試合等に出せるようにするのが練習だと僕は思っています。」と言い、「それでは皆さん、先ずはネットを越えるサーブを打つために、サービスエリアから片手でボールを相手コートに入るように投げて見ましょう!」と言いながら皆を起立させ、サービスエリアに横一列に並ばせた。


 そして、「取り敢えず力一杯ボール投げて見ましょう!」と大きな声で指示をした。


 各々が持っているボールを、それぞれの投げ方で投げた。


 陽介は、その様子を見て下を向いた。


 実際に投げたボールがネットを越えたのは、イッちゃんとユッケちゃんとフサエちゃんの3人。


 しかも思いっきり投げたのにもかかわらず、恐ろしく弱々しかった。


 陽介は、「サーブ以前に、バレーボールを使用したキャッチボールから始めて、ボールを投げるフォームから練習しないとダメだな!」と思った。


 ボールを投げるフォームは、サーブを打ったりアタックを打ったりするのに、多くの共通した筋肉を動かすからだ。


 陽介は、「練習をこうしたことからスタートをしなければならないチーム状況では、例え優秀な監督が就任しても、このチームの練習時間から考えて良いサーブを試合で打てるようになるまで最低半年、場合によっては1年はかかる。監督を引き受けるのは絶対にやめよう!」と決意した。


 そしてその日、サービスエリアから思いっきり投げたボールがネット越える者は前述の3人以外はいなかった。


 時計の針を見ると、練習時間が間もなく終わる。


 陽介は、必死にボールを投げているメンバーを横目で見ながらフサエちゃんに、「じゃぁ、僕はこれで帰ります。皆さん頑張って下さいネ!」と言い、体育館を去ろうとした。


 するとフサエちゃんが、「皆、集合!!!」と言い、帰ろうとしている陽介の前に整列をした。


 フサエちゃんが、「監督、今日はご指導ありがとうございました。今後共宜しくお願い致します。」と言うと、全員が「宜しくお願い致します!」と言った。


 陽介が、「監督ではありません!」と言おうとしたその時、「次の練習日は○○日の土曜日、9:00~12:00です!宜しくお願い致します。」とイッちゃんが言い頭を下げた。


 陽介は、「今ここで監督になるつもりはありません。」と言えば色々と面倒だと思い、「ただ、お疲れさまでした。」と言い置き、体育館を出た。


 そしてその晩、フサエちゃんに電話を入れることにした。

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