かけもち監督? 1
後日お仲人さんの奥さん同席のもと、『その娘』とチームメイト1人と会うことになった陽介は、18:00に都心のホテルラウンジで待ち合わせることになった。
陽介はお仲人さんの奥さんもいるので、絶対に遅刻することは許されないと思い、17:30に待ち合わせ場所に到着し、一行を待っていた。
しかし、18:00を過ぎてもそれらしき姿が現れない。
お仲人さんの奥さんは、知っている人が見れば直ぐに分かる御姿である(これ以上説明をすると問題があるので黙ります)。
だが、待てど暮らせどそれらしき姿は現れない。
陽介は自分が待ち合わせ時間を間違えたのではないかと不安になって来た。
時刻は18:30を過ぎたであろうか、陽介は未だ現れないお仲人さんの奥さんにシビレを切らせ、電話をした。
すると電話に出たお仲人さんの奥さんが、「陽ちゃん、遅いわよ!、ずーっと待ってるんだからね!」と言った。
陽介は、「○○ホテルのラウンジに18:00の約束ですよね?、僕17:30からそこにいるんですけど奥さんは何処にいらっしゃいますか?」と尋ねた。
奥さんは、「あらっ、私達は17:50頃来てたわよ!」と言ったが、陽介は「じゃぁ、すれ違ったのを気付かなかったのかも知れません(絶対に気付かないと言う事はありえないというほど、奥さんの容姿には特徴があるが、なぜ気付かなかったのか未だに分からない)。ところで今どこにいらっしゃいますか?」とあらためて聞いた。
奥さんは、「4階の△△というレストラン。陽ちゃん直ぐに来てネ!」と言い、一方的に電話が切れた。
陽介は、「ラウンジで待ち合わせって言ったのに~。」と思ったが、仕事帰りにわざわざ出向きお腹も減っているが故のことなのだろうと、致し方なしと自分に言い聞かせ指定のレストランに入った。
さすがに都心のホテルのレストラン。豪勢なたたずまいである。
黒服を着た係の人が、「ご予約のお客様ですか?」と尋ねて来た。
陽介が、「このお店に来るように言われて来ました。既にお店に入ってると言ってました。ちなみに3人の女性です。」と言うと、係の人が「あぁ、いらしております。ご案内致します。」と言って陽介を先導してくれた。
まだ数名の客しかいない店内の、外の景色が良く見える窓の側に、その御一行が既にワインを飲みながら大きな声で笑っていた。
陽介がテーブルの脇に立つと、係の人がイス丁寧に引き陽介がイスの前に立つとこれまた丁寧にイスを押してくれた。
陽介が席に着くと、奥さんが「陽ちゃん、久しぶりネ!元気だった?、少し瘦せたかしら?」と言い、続けざまに「こちらがこの間電話で話した、フサエちゃんとチームメイトの代々木さんです。」と紹介してくれた。
2人はご丁寧に席を立って挨拶をしてくれようとしたが、奥さんが「こういうレストランでは、女性が席を立つとテーブルに座っている全員が立たなくてはならなくなるから、座ったままにしましょう!」と言い、陽介も「そんな礼儀とかテーブルマナーがあったんだ!」と奥さんをあらためて尊敬したが、いささか尊敬するのは早かったようだ。
奥さんは、「リチャードギア主演の映画、プリティーウーマンの中でそういう場面があったから…。」と笑って見せたが、そういった礼儀やテーブルマナーをしっていたのは映画の受け売りだったようだ。(本当にそういった礼儀やテーブルマナーがるのか、筆者はしりません)
しばらくすると、ギャルソンであろう人が「お飲み物は如何致しますか?」と陽介に聞いて来た。
陽介は、このレストランがフレンチなのか?・イタリアンなのか?分からずに席に着いてしまったので、どのように飲み物を頼んでいいか悩んだ。もちろんチャイナ服でのおもてなしはないようなので、このレストランが中華でないことは分かったが…。
ただ、陽介以外の3人が既にワインを飲んでいる所を見ると、ここがフレンチかイタリアンではないかと思った。しかしフレンチもイタリアンも普通は後から出てくる料理に合ったでワインを、ソムリエが勧めて飲んだりするものだと理解していたが、どう考えても料理をたのんでいる様子はない。
なぜならば、ワインと一緒にテーブルの上にあったのは、ミックスナッツとクラッカーの上に何か乗っている簡単な食べ物だったからだ。
陽介は、「取り敢えず皆さんと同じものをお願いします。」と伝え、ギャルソンらしき人がテーブルを離れたの確認した後、奥さんに「このレストランはフレンチですか?」と聞いてみた。
すると奥さんは、「高級フレンチレストラン!」と言った。
陽介は、「でも、まだ料理とかたのんでないですよネ?、それに高級フレンチレストランだとすると、良いんですかこんな飲み方をして?」と、若干顔を引きつらせて奥さんに聞いた。
奥さんは、「良いの!良いの!」と笑いながら言っていたが、結局は豪華なたたずまいではあるが一般的なレストランであることが、分かった。
ただいくら一般的なレストランとは言え、都心のホテルの中にある。
さすがにガード下の居酒屋と同じ様には振舞えない。
そして奥さんが、「フサエ!、陽ちゃんが監督をやるって言ってくれたんだから、ちゃんとお礼を言いなさいよ!」と笑顔で言うと、『その娘』とは名ばかりのどう見ても陽介より年上のオバサンが、酒焼けした声で「この度はありがとうございます。これから宜しくお願いします。」と言った。
陽介は、「あのぉ~、奥さんの前で誠に恐縮ですが、まだ監督を引き受けるとは言ってないです!」と言った。