始まり、あるいはとうに始まっていた。
「うひゃひゃひゃ」
「うっほ!これも中々」
「ふむふむ。なるほど」
「さてさて。ここまでか」
カバンを閉じる。私達の宝物が中に飲み込まれて消える。どうにも名残惜しいが時間なので仕方がない。
「ふむ、あと少しばかりコレクションが欲しかったかな」
そう一人呟く。応えるものはもう何も居ない。応えたとしても気にする必要もない。
「はてさて、次はどんなものに出会えるか楽しみだ」
「では、お世話になりました。次は来世で頑張って下さいね」
そう床に落ちた肉塊に一声かけて座っていたテーブルから立ち上がる。何が起こるわけでもなかった。苦し紛れの一撃は結局のところ何も生むことは無かった。
「シーユーネクストタイムー。で合ってるだろうか?死人に言うのはおかしいかな?」
扉を開けて外へと出る。空は鈍く薄暗い灰色の雲で覆われ、太陽なんてどこにも見当たらない良い天気だ。
「あー、やっぱり曇りは良いねぇ。雨も良いけど今にも降り出しそうなこの感じ、たまらない」
「行先に幸せが待っている証拠に違いないねぇ」
とても良い気分だ。世界が終わるその時だと言うのに、とてもとても良い気分だ。
あと何秒?何分?何時間?分からないけど関係無い。今日で世界は終わる。そんな小さな事を考える必要なんてない。
そしてその時は唐突に来た。
「ぁ………」
声はほとんど出なかった。一瞬の内に体の七割を喰われた。痛みを感じる事すらなかった。ただ失ったことへの喪失感だけが満ちた。
「……ふ、ふ…」
そしてその笑いの吐息が世界に、最後に響いた音だった。
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食べる。
食べる。
食べる。
食べて食べて食べる。私は食べる。全部食べる。一欠片も残さないで。塵一つ遺さずに。
齧る?啜る?噛む?ちぎる?
どうでもいい。食べる。
目の前に小さな一つの光の点。やっと食べれる。お腹が空いて仕方ない。
飲み込む。吸収する。全く足りないのでまた近くに来たものを食べる。
食べて食べて食べて食べて食べる。
美味しい?不味い?
どうでもいい。食べろ。
いつの間にか小さな光の点は見えなくなってしまった。
だけど気づいた。
食べないといけない。
私は食べる。終わりの時まで。
そして終わった。食べ終わった。
だけれどまだ足りない。
体が千切れる。無数に別れて無数に消えた。
終わりかどうか。始まりなのか。
知らない。食べられない。
終わりなんだ。
その思考も食べ尽くして、私は消えた。