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絶対に恋したくない俺VS絶対に恋をしたい私【完結済】  作者: しゅしゅく
高校2年、文化祭
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その80 side 滝沢涼太

小さいころから、要領はいい方だった。

何をしても、教えてもらえれば人並みにはできたし、努力すれば上に行くこともできた。

だから、好意的な視線には慣れていた。


でも、好意的な視線を集めるというのは嫌な視線にもさらされやすくなるということと同義だった。

年齢が上がれば、周囲の社会性も発達してくる。

その視線同士の交錯がひとつのコミュニティの根底にあって、自身が面倒な立ち位置になることが多くなっているのも自然と理解できていた。


そういったことをなんとなく自覚してからだろうか。

自分に向けられる好意的な視線が煩わしいと感じ始めたのは。

視線が嫌だとかいうわけではないのだ。

もちろん、褒められたり、尊敬の視線を向けたりしてくれるのはうれしい。

人間だから。

ただ、それ以上に、その視線の裏に何かがあるのではないかと疑ってしまう自分自身につかれてしまったのだ。


嫌ならやらなければいい話であるが、しみついてしまったものは仕方ない。

かといって、これまで集団の中で生きてきたから、今さら一人になって、だれも寄せ付けないで生活するというのは難しかった。

周囲の抱く自分のイメージを壊すのもなんだか怖かった。

なんだかんだ、優等生で誰にでも紳士的に接する男という像は、学校生活を円滑に進めるために役立っていたからだ。


だが、高校生になってから、2つの大きな出会いをした。

1つは、今年の春、今ではすっかり仲良くなった転校生との出会いである。


正直、はじめに話しかけたのは打算だった。

自分のことを全く知らない存在ならば、外面を繕い続けなければならないという煩わしさは少し薄れるのではないか。

新しいクラスで新しい人間関係をつくるのにいい起点になるのではないか。

そんな思いがあった。


まあ、実際のところ、自分の中にしみついた優等生としての在り方は、変わることはなかったし、人間関係も今まで通りのことも多かった。

ただ、確実に変化があった。

彼は、タカリョーは、自分と同じく、周囲の視線をとても気にする人間だった。

そのくせ、過度に好意的な視線に対して、距離をとるような、珍しい人間だったのだ。


能力がある人間ほど、好意的な視線を嫌がらないものだと思っていた。

でも、彼は明確に嫌がった。

何が彼にそうさせているのかはわからなかったが、自分と他人の間には明確に違いがあって、いかにも日本人的な、同質の人間ばかりの間で交わされるやり取りを好まなかった。

自分は動けるくせに、その能力を発揮することを嫌がった。

なかなかできることじゃないと思う。

素直に尊敬した。


そんな友人は、なぜか全幅の信頼をこちらに寄せてくれている。

だから、もうひとつの出会いについて、片倉愛莉との関係について、とても応援してくれている。

ありがたいことだけれど、友人として、あの熱心さを他人の恋愛に向けるのはどうかと思う。

まあ、俺は不快じゃなかったからいいのだけれど。


片倉先輩は一つ上。

サッカー部のマネージャー兼料理部なのだという。

というか、サッカー部のマネージャーの方がおまけらしく、部活に入った当初からその存在を知っていたわけじゃない。


1年生ながら、レギュラーに混じって試合に出ることになったとき、その遠征先で出会ったのだ。

試合の前だったと思う。

うちの部のジャージを着ているのに見知らぬ顔を見つけた。

あちらも視線に気づいたようで、何かを察して話しかけてきた。


「はじめまして。料理部兼ヘルプのマネージャーの2年、片倉愛莉です。1年生でレギュラーだって? すごいなあ」


一目惚れ、というのだろうか。

好意的だけれど、何の裏もないまっすぐな視線にさらされることに耐性がなさすぎたのだろうか。

とにかく、俺はひとことで目の前の先輩が好きになってしまった。

正直、その後の会話も覚えていないくらいに。


恋をするという感覚をちゃんと知ったのははじめてだったから、緊張してしまったのだろう。

しかし、なぜか、それがいい方向に働いて、試合では結果を出すことができた。

それを無邪気に、自分のことのように喜んでくれる先輩もまぶしかった。

そのとき、サッカー部をやめないことを誓ったし、部活を続ける中で先輩と仲良くなりたいと思った。


だが、高校生の部活をしている期間というのは意外と短いものだ。

ヘルプのマネージャーだと、なおさら。

去年の俺には、いきなり遊びに誘ってしまえばいいというような、三雲さんのような発想はできなかったから連絡先を交換することができていたのはほとんど偶然といってもいい。

それでも、その偶然を生かして、それなりに話をしてきたつもりである。


人の好意の視線にはそれなりに敏感であるが、自分の好意の視線がどうとらえられているのかは、正直よくわかっていない。

ほとんどメッセージだけのやり取りだけれど、好意というのはあふれ出るものだと思う。

少なくとも、プラスの感情を抱いていることは知られているだろう。

ただ、そこから先に進む勇気というのはなかなかでないものだった。

今回だって、タカリョーからの後押しがなければ、こんな作戦をしようとは思わなかったかもしれない。


見え方というのは大事だ。

片倉先輩と文化祭を回るということは、特別に仲の良い男女とみられてもおかしくない。

それなのに、片倉先輩は結構簡単に誘いに乗ってくれた。

いつもどおりのまっすぐなまぶしさで。

俺は、今日、そのまっすぐさについて聞くつもりだった。

なによりも、先輩の重りにはなりたくなかった。

先輩の在り方が好きだった。

俺の存在が俺の好きな先輩を殺してしまうなら、俺の想いを殺すことにしていた。


だから、タカリョーの言う通り、話がしたかった。

じっくりと、片倉先輩という人をもっと知るための話が。


「おはよー、滝沢くん。今日はよろしくねぇ。何か行きたいところに目星はつけてきた?」


いつも通りの気軽さであらわれたこの人の本音を聞くのは、やっぱり骨が折れるかもしれないな。

そんなことを思い、心の中で苦笑をしつつ、外面は、鍛え上げた爽やかな笑顔で答えた。


「おはようございます。何か所かありますけど、先輩の行きたいところを優先するのでいいですよ」


「ほんとに? 遠慮しないけどいいの?」


「もちろん、先輩にとっては最後の文化祭じゃないですか」


そう、これは勝負なのだ。

先輩と過ごせる最後の行事に、自分の想いを乗せた、自己満足の戦い。


最初で最後の、本音で挑む勝負なのだ。



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