その71
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文化祭期間が本格的になってきて、俺のカメラマンとしての忙しさも極まってきた。
やらなきゃいけないことは多いし、時間が過ぎるのは早い。
ただ、それなりの充実感もある。
花火大会の写真を超えられている気はしないけれど。
この期間中に、タッキーの恋路のための相談もしていた。
夏祭りの時に話していたことだ。
俺は正直、あの時にはほぼ必勝と考えられる作戦を思いついていたから、共有しておかなければならないと考えていたのだ。
2人とも、放課後も部活の時間までは忙しい。
最終下校の時間を過ぎて、駅前のファストフード店で待ち合わせて話をすることにした。
タッキーと2人で話すときはいつもここになる気がする。
「ごめん、待たせたか?」
「いや、全然? ドリンクが半分なくなるくらい」
「結構いるってことじゃないか」
「まだポテトはたくさん残ってるから、気にしないで」
タッキーがからかうようにそう言って笑う。
さわやかにこういう発言をして、嫌味じゃないのがイケメンの強みだなといつも思う。
「また、宮本さんと大野さんと駅まで?」
「いや、今日は白河さんも一緒だよ」
「両手以上の花だね」
「そんなんじゃないよ。なんか、コミュニティが狭いだけなんだよな。昔から、周りに女の子は多かったし。それでいて彼女はできなかったし。もういいけど。男子はそこまで仲良くしてくれないんだよ」
「なんか嫌われることでもしたんじゃないのか?」
「よしんばそうだとしても、タッキーは嫌わないでくれよな」
「さあ、それはどうかな」
笑いながらタッキーは言う。
こういうのがほかの男子とはできない会話だったんだよなあ。
中学までは。
高校からはそんなこともない感じがするけど、あの男子特有の大声で騒ぎ立てるようなノリが嫌いだ。
ついていけないし、疲れる。
だからきっと、女の子の知り合いが多かったんだろうと思うけれど。
「ま、そんなことはいい。今日話したいのは、タッキーの恋が成就するための作戦だよ」
「ああ、そうだった。必勝だって? 確かに協力はしてほしいけど、必勝って聞くと胡散臭いなあ」
「まあ、そう言うなって、ちょっときいてくれよ」
俺は苦笑いを引っ込めて、少し真剣な表情をつくって言う。
「多分、これは俺の推測だけど、あいちゃんは積極的にタッキーを拒むってことはないと思う。そりゃ、学年が違うってことでちょっとしたためらいはあるかもしれないけど、好感度が低いってことはないと思うんだ。すごい仲良さそうだったしな」
「そうだとうれしいけどね」
「だから、問題はタッキーが言ってたように、この後会うのが難しくなるとか、物理的な距離が開いてしまうとかそういうところに、安心感を抱かせられるかってことだと思うんだよ」
「まあ、うん。で、そのための作戦なんでしょ?」
「そう、その作戦だが……タッキー、あいちゃんとちゃんとデートしてこい」
「は?」
タッキーが珍しくぽかんとした顔をしていた。
俺はそれを内心面白がりながら、続きを話す。
「デートはさすがにしたことないだろ? なに、ロマンチックなことをしろって言ってるわけじゃない。1対1でたくさん話をする時間をとってみたらどうだって話なんだよ」
「なる、ほど……でも、一体どうして?」
「簡単な話だよ。お前が真剣にあいちゃんのことが好きなのが伝わると思うからだ」
多分、俺のこのときの顔は結構真剣だったと思う。
慎重に考えるような表情のタッキーに、さらに言葉を伝える。
「いいか。俺は、イケメンでいい奴なお前は、幸せになるべきだと思ってるし、お前と付き合う女の子はちゃんと幸せになれると思ってる。この前の話を聞いててもそう思った。だから、それをちゃんと本人に伝えるべきだと思うんだよ」
「……タカリョーが俺のことをそんな風に思ってくれるのはうれしいけど、その、重くないか? 俺がどれだけ好きか伝えるかっていうのとか」
うむ。
確かに重いっていうのはあるかもしれん。
正直、俺は女の子の気持ちを理解してるとはいえんから、下手なことは言えない。
確か、前の学校で彼女がいた知り合いも2パターンいたな。
彼女が重くて、もっと気持ちを伝えてほしいとねだられている奴。
自身が重くて、彼女に避けられ始めてた奴。
当然後者はそこそこ経ってから別れたけど、でも、前者の女の子だったら重い方が正解なわけで、人によるとしか言えないだろう。
だから、わからんというのが正解だな。
「うん、わからん。重いかもわからんし、お前がどういう話をするのかもわからんからなんもわからん」
「なんだよそれ」
タッキーは苦笑する。
「いや、でもな、デートするというか、ちゃんと2人で話す時間をつくるっていうのは大事だと思うんだよ。だって、言葉にしないと伝わらないじゃんか」
「それは確かにそうなんだけど」
「大丈夫。お前の社交性は高い。不快じゃない程度で、気持ちが伝わる程度の重さのある言葉を選んで伝えられるだろ」
「なんだそれ。結局、俺自身に投げていく感じなのか」
「それはそうだろ。タッキーの問題だから。でも、作戦ってそういうもんだし、舞台も考えてあるぞ」
「舞台?」
首をかしげるタッキーに俺は畳み掛けるように言う。
「そう、舞台。サッカー部、文化祭どうこうじゃなくて、選手権が近くて忙しいだろ? ほとんど休日がないことも知ってる。だから、休みの日にデートなんてできないだろう。そこでだ、文化祭の時間をデートに使うのが絶対に有効だと思うんだよ。ちゃんと、お店もある、楽しめるところもある、最高のデートスポットじゃないか」
「いや、まあ、それは確かにそうだけど」
「だろ? 多分、今から誘えばチャンスはある。最悪、2日間ある文化祭のうち、どこかの時間だけでもいい。そう言って誘ったら、たぶんきっとおそらく、OKしてくれるだろう」
「すごい予防線はるじゃん」
タッキーは苦笑いを浮かべながら、そんなことを言う。
だが、ドリンクをひと口含んでから、でもまあ、と続けた。
「悪い作戦じゃないように思ったよ。うん。……善は急げというし、今、連絡しちゃうか」
そう言うとタッキーはケータイを取り出して、メッセージを打っていた。
「それ、今、あいちゃんに?」
「そうだよ。誘ってみた」
「行動早すぎだろ。俺はもうちょっとためらったりするのかと思ってたよ」
「なんでためらう必要があるんだ。俺のために考えてくれたんでしょ?」
「それはそうだけどな」
「じゃあ、ちゃんと信頼してるから大丈夫だよ」
「それはそれでちょっと怖いな」
今度は俺が苦笑する番だった。




