その70
遅れました。だから、予約投稿をしろとあれほど……。
夏休み特別号の新聞は、学校各所の掲示板に大判で張り出されたほか、クラスに1枚ずつ配布された。
まあ、これはいつものことなのだが、特別号は基本的にカラーで刷られる。
ただ、特別号は年に数回しか発行されない。
その珍しさからか、生徒のほとんどが一度は目を通す。
その、たまたまみんなが目を通す新聞に、たまたま上手く撮れた俺の写真が載っていた。
満開の花火。
その下で橋の手すりにもたれつつ、夜空を見上げる少女が二人。
彼女たちの姿は、花火の逆光で半ばシルエットになっているが、清涼さと妖艶さが感じられる仕上がりになっていた。
最も、そうなったのは偶然だし、俺の力なんて言う気もさらさらない。
奇跡の一枚的な、そういうノリの産物である。
だが、なぜかそういうことにはならなかった。
「いやー、すごい人気だよ。この写真。写真部にも引き抜きたいって言われちゃったからね」
そうやって語るのは葉山先輩だ。
なぜか結構な上機嫌である。
「もちろん断ったよ? うちの貴重な戦力だからさ」
「いや、そんな持ち上げられても……たまたまいい感じに撮れただけですし、被写体がよかったんですよ」
「ラッキーパンチでも、一発いいの決めて、成功してればそれでもいいの。それすら使ってさらに上にいくの。向上心もっともって!」
パシンと背中をたたかれる。
部室にいる宮本やほかの部員は苦笑いだ。
俺も苦笑いの意味はよくわかる。
「ってことで、各部活、各クラス、その他団体の出し物のカメラマン、指名って感じでいっぱい来てるから、全部よろしく!」
「全部……ほんとにできますかね……」
「できるできる! 記事とか雑事は最小限でいいから、まずは需要にこたえちゃって! 各出し物の記事の担当者と打ち合わせしたら、走って回るよ!」
とんでもないブラックである。
全員から同情の視線を感じている。
同じ2年生はみんな解散した後に、肩に慰めるように手を置いていった。
宮本はそれに加えて去り際に一言。
「私たちが美人なせいでごめんなさいね」
花火大会の時の無邪気さはどこにいったのか。
通常運転の皮肉屋っぽい宮本にもどっていた。
もちろん、皮肉じゃなくからかいだと分かっているから、俺は小さく笑うしかなかったのだけれども。
そういうわけで、新学期早々、目が回る忙しさなのである。
やはり、文化祭が近いというのが大きい。
うちの学校は、夏休みが明けてすぐに文化祭をもってくるタイプの学校である。
まあ、そうすると、受験期の3年生などは、早めに勉強への切り替えができてありがたいらしい。
でも、その分、新学期のはじめの期間が最高に忙しくなるわけである。
さて、そんな時期に新聞部は何をするのか。
わかり切ってはいるが、取材をするのである。
文化祭は参加団体の多い一大イベントなだけに、取材のほうも大変である。
学校としても、新入生に楽しい学校生活をアピールする場であるから、協力体制もすごい。
よって、主に写真を撮ることになった俺は、校舎中を駆け回ることになる。
放課後になれば、まずは各クラスの準備の様子を撮りに行く。
部活に行く生徒や帰ってバイトをする生徒も、放課後の早い時間だけはクラスで準備していることが多いからだ。
人がなるべくいる時間帯に行って、写真に楽し気な準備の様子を収める。
クラスのプレートを、準備の様子を撮り始める前に撮っておくと、後でプレビューした時に、迷わなくてすむということも学んだ。
できれば、何らかの形で、クラスごとの準備の記録を共有してあげられたらと思う。
クラスの準備の時間中の反応は様々だった。
自慢げに作っているものを見せてくれるクラスや、本当に思い出づくりのように、俺のカメラに写ろうと数人が集まるクラス。
むしろ、本番まではお楽しみだといって、情報をほとんど開示してくれないクラスもあった。
そういうクラスは、とりあえず代表の人の写真とかを撮らせてもらっていた。
クラスを回るごとに、なんとなく本番が楽しみになってくるくらいには、俺も文化祭に気持ちが入ってきていた。
文化部の取材は、日ごとに決まっている。
普段の活動をしつつ、文化祭の準備をしているところも、文化祭に向けて一直線なところも様々であるため、都合を聞いておかないとこちらもあちらも大変だからである。
今日は、そんな文化部と同じくくりで取材を進めている生徒会と文化祭実行委員のほうに取材をした。
そこで、面白い情報を聞くことができた。
「そうそう、この後正式に発表されるけど、今年の後夜祭はキャンプファイヤーと花火の二本立てで行くことになったよ」
「えっ、花火ですか? よく許可が出ましたね」
今日ペアを組んで、取材を担当していた宮本が驚いて会長に聞き返す。
会長は、朗らかに笑って言う。
「まあ、そんな大層なもんじゃないよ。市販の打ち上げ式のやつ。屋上がちょっと派手に見せられるくらいかな。この学校、敷地も広いから、先生の監督の下でなら火気の取り扱い許可も出て、来年からは通例にもできそうな感じだよ」
「それはすごい。花火の管理は、生徒会がやるんですか?」
「いや、それは文化祭実行委員会のほうで受け持つことになってる。なにしろ、キャンプファイヤーのほうの仕切りもしなくちゃいけないからね。実行委員は特に挨拶もないから裏方で動こうかなって」
横にいた文化祭実行委員長がそう答えてくれた。
ふたりとも3年生だからか、互いに信頼しあっていいものをつくろうとしているのが伝わってくる。
宮本がそれに神妙な顔でうなった。
「実行委員会のほうで担当を割り振るなら、正直、渋る人もいそうですね……」
ただの感想という感じではあったが、うちのクラスの実行委員は学級委員が兼任している。
まあ、メンバーを見た感じ、基本的にはどこのクラスもそうみたいだった。
2人以上選出という条件だから、増員しているクラスもあってそういうクラスは学級委員以外がやってるみたいだけど。
まあ、基本は学級委員なんて雑用係だからそこまで忙しくない俺と宮本は普通に兼任しているって状態。
宮本の心配は、ただでさえ雑用係なのに、メインイベントに参加できなくなるというのをよしとする人がいるのかという話だろう。
実行委員長もそれに同意するようにうなずいた。
「それなんだよなあ。まあ、でも、最悪、実行委員じゃなくてもいいらしいから、屋上でイベントの時間過ごしていいっていう稀有な奴を探すことにするよ」
「なるほど。まあ、どこかにはいますもんね」
俺みたいなやつが、という言葉は飲み込みつつ、俺が引き取って答えた。
そのやりとりを聞いた宮本は、考え込むような顔でうなずいていた。
と、思いきや、会長と実行委員長に向き直って言う。
「と、いうことは、これ、まだ記事にできないですよね?」
「あー、まあ、明日には発表するから、記事にしてもいいよ。インパクトはそんなにないだろうけど、功績を残せたっぽく、会長が語っていたなんていうことは、面白くかけそうな内容じゃないか?」
実行委員長がからかうように言った。
会長はそれを軽く流しながら言う。
「どう書いてもいいよ。俺はもう、文化祭終わったら引退するだけだからな。今更誰に何言われたって気にならないよ」
それはもう言われ慣れているというような口ぶりだった。
会長の評判を小耳にはさむ感じ、そういうあっけらかんとしたところが、それなりの人気の要因だったのだろうと思う。
嫌味じゃなく、自慢めいたことを堂々と言えるのに、俺はちょっとあこがれるなと思った。




