その5
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翌日。
俺は約束通り、宮本と新聞部の部室にいた。
超気まずいが、あっちは全く気にした様子もなく、普通に話しかけてきてびっくりしたけど。
俺と彼女以外にそこにいた生徒は5人。
部長の葉山佳乃。
副部長の山本祥太。
2人と同じ3年生の南花。
同じクラスの吉岡誠。
1組の白河蓮華。
俺は、新入部員として紹介され、さらりと新入生勧誘作戦会議に紛れ込んだ。
もちろん、完璧(に無難)な自己紹介は、済ませたあとである。
この会議を主導するのは、当然部長の葉山先輩だ。
「よし、高山くんも入ったことだし、張り切ってやらなくっちゃ! 勧誘は今日の放課後からしていいっていうのは前にも言ったけど……」
葉山先輩は、ゆるふわなボブの髪に、キラキラとした瞳、よく笑顔を見せる口元で、サラサラと説明をしていった。
いや、見惚れてたわけじゃない。
ちゃんと聞いてたよ。
この高校のシステム的に、今日の4時間目の生徒集会で、部活のアピールタイムがあり、その時からが勧誘可能期間になるということらしい。
アピールタイムの内容は詰め終わっているようで話題には上がらなかったが、その後の勧誘をどこでどうやってどの程度行うのかが主な議題だった。
「……ということで、2人1組ぐらいで、掲示板前、1年生の教室前、昇降口前の3箇所に立って欲しいの。やる事はビラ配りとか、単純な事だけど、昇降口は激戦区だから3人にしたいわね」
「授業が一番早く終わるのは3年生だろ? 今日はアピールに立つ人間が多いから、4時間目の前にホームルームもやると聞いたぞ?」
メガネを直しながら、手帳を確認しているのは山本先輩だ。
なんか、クールで仕事ができそうな人でカッコいい。
裸眼で1.5ある俺にはメガネはいらないけど、憧れるなあ。
「そうだった! そうしたら、昇降口は3年生チームで早めに行って抑えちゃうか!」
葉山先輩が元気に声を上げる。
南先輩が続く。
「りょーかーい。私は、はやちゃんとしょうちゃんとクラス違うけど、おんなじようなもんだからなるはやで行くねー」
あくびまじりのような眠そうな声。
しかし、そこにグッと来てしまう……。
なんだろう、癒し系?
先輩なのに、愛でたいタイプの、この感じ……。
アホ毛っぽいのが見えるのも、ポイント高いです。
眼福。
美少女だらけか、東京。
なんて、馬鹿な事を考えていると俺の役割も決まっていた。
宮本と一緒に、1年生の教室前らしい。
「私以外は、知らない人も同然でしょ? もちろん、吉岡くんや蓮華ちゃんがタカリョーと組みたければ譲るけど」
「僕は、個人的に話してみたいけど、教室で話すことにするよ。いきなりふたりってなっても、話すことがないかもだし」
吉岡くんは、優しそうな顔をしている。
昨日も思ったけど。
こう、纏う雰囲気がほわほわしてるんだよな。
癖っ毛なのも関係あるのか?
子犬系?
まぁ、知っての通り女子人気高そうなタイプよな。
顔はイケメンじゃないけど、なぜか好感度高いタイプのやつ。
モテてるわけじゃないんだけど、人気あるってなんか羨ましいよな。
「私もどっちでもいいよ。優香がまた変なこと語りだしそうだから、高山くんとは組んでもいいけど、優香とは嫌って先に言っとくね」
「蓮華ちゃんが優しくない!」
「日頃の行いよ」
白河さんはサバサバした感じの女の子だなあ。
でも、物言いから宮本と仲良しなのは伝わってくる。
宮本の本性を知ってそうだから、後で話しておきたい。
明確に美少女!って言われないけど、絶対男に惚れられてるタイプだな。
間違いない。
俺が仲良くなったら、精神統一が何度か必要になりそうだ。
惚れないように気をつけよう。
「はぁ、まぁいいわ。タカリョーは私とでいいよね?」
「お、おう。まあ、誰でもウェルカムみたいなとこあるからな」
はい、嘘でーす。
ウェルカムなわけないでーす。気まずいでーす。
もはや虚勢の、“いい人”アピールでーす。
「そう、じゃあそういうことで」
「いやぁ、2年生は仲がいいにゃあー。私たちももっと愛を育まないかい?」
南先輩が、机に伏せながら山本先輩と葉山先輩の方を見た。
山本先輩は鼻で笑ったが、葉山先輩は満面の笑みで返す。
「私たちはもう最高にラブラブだから心配しないで、花ちゃん」
破壊力の塊だった。
南先輩も若干照れ臭そうに、敵わんなぁとか呟いてる。
「さて、それじゃ、朝の打ち合わせはおしまいね! 4時間目から、勝負よ! 目指せ、新入部員5人獲得! えいえいおー!」
おー!と葉山先輩が挙げる手に、2年生は慌てて拳をあげた。
南先輩は、机に伏したまま、だらんとあげているだけ。
もはや山本先輩は鞄に物をしまっていて無視である。
けれど、葉山先輩は気にした様子もなく、さっさと片付けを始めてしまった。
俺は、この朝の少しの時間で、なんとなくこの部活の雰囲気がわかった気がした。
3年生は、アピールの準備を先に体育館に持っていくらしく、パタパタと部室を後にした。
残された2年生は、とりあえず俺の自己紹介を中心に、時間まで雑談をする流れになった。
ちょうど、予鈴の10分前になったぐらいだろうか。
部室にノックの音が響いた。
「誠ー? もう終わってるー?」
こちらの返事も聞かずに扉を開けて入ってきたのは、加賀美さんだった。
後ろには、大野さんもいる。
彼女は、部室に俺がいることを見て、あ…と固まってしまった。
吉岡くんは全く気にせずに返した。
「あー、明梨ちゃん。もう終わってるよ。いつもごめんね。母さん、早起き苦手なのに、弁当は作りたがるから」
「あ、いやー、うん、全然大丈夫よ!」
「どうかした?」
「なんでも!」
吉岡くんと話す加賀美さんは、照れ臭そうな雰囲気を出している。
だが、明らかに俺の存在を気にしているので、邪魔をしてしまったのだろう。
うん、確実に恋してますね、これは。
昨日惚れなくてよかったと安堵するとともに、俺の作戦の正しさがこれで証明された。
ガッカリ感が微塵もないのは大事だ!
いや、昨日は色々あって心がビックリしてるから、ガッカリ感はなおさらないのかもだが!
応援してやろうじゃないか!
ただ、加賀美さんは明らかに意識してるけど、吉岡くんはそんなことない、のかな?
ちょっと聞いてみるか。
「ねぇ、弁当がどうとか言ってたけど、2人はどんな関係なんだ?」
俺は宮本に耳打ちで疑問を伝えた。
すると、同じく耳打ちで返ってくる。
「幼馴染らしいよ。家が隣なんだって。ラブコメ設定よ。絶対恋愛勝ち組ね」
謎の確信と興奮が伝わってきたので、少し驚いたが、2人のやり取りを見ていると、本当にラブコメ時空のようだ。
言葉を交わす2人は、不審な動きをした俺たちに目もくれない。
白河さんも含め、俺たちはやれやれという雰囲気で成り行きを見守っていた。
やがて、教室に行く流れになったらしい。
吉岡くんが席を立ったが、俺と宮本と白河さんは適当な理由をつけて、残るとことを伝えた。
触らぬ神になんとやらだ。
「そっか。じゃあ、僕はちょっと先に教室行くよ。明梨ちゃんがうるさいからさ」
「ちょっと、私のせいにしないでよ!」
やいのやいの言っている割に加賀美さんは楽しそうだ。
帰り際、部室に来てから気配を消していた大野さんがサササッと俺たちのところに近づいてきた。
そして、絶対地声じゃない低い声で言う。
「あ、あかりちゃんの゛ぉ、邪魔ばぁ、じないでください゛ね゛ぇ……!」
「お、うん……」
呪いの人形か何かかな?と少し思った。
だが、小さくなるような感じでそそくさと歩く大野さんは、やっぱり可愛い。
女の子はずるいなあとこう言う時に思うよなあ。
「なんか、嵐のような時間だったね」
「もう慣れたわ」
「私は早くあの恋の行方が知りたい」
「首突っ込むのはやめなさい」
一見しっかりしている宮本がツッコまれているのも、部室では当たり前なのだろう。
いや、宮本の異常性のようなものを感じた俺には、これが正常だとわかる。
白河さんは微妙な表情をしながら、宮本を抑えている。
朝の短い時間で、なんとなくこの部活の空気に馴染めたような気がした。
*****
「お前の異常行動は本当に……」
「失礼ね。知りたいじゃない、友だちの恋の行方!」
「普通、他人の恋愛を趣味で追いかけることはしないんだよ」
「結果的に追っていてよかったし、今は自分の恋があるから。心配しなくても、もうやらないよ」
「きっとそれは恋じゃないと思うけどなあ」