その42 side三雲雪花
私は、今世紀最大の緊張と困惑に包まれていた。
だって、しょうがないでしょ?
ゴミ出しを手伝いに来たら、告白作戦のひとつだってわかって。
あわあわしてたら本人が来て。
気づいたら優香ちゃんはタカリョーの電話に出ちゃうし。
心落ち着かせるために待ってようと思ったら木山くんに連れ出されちゃうし。
まだまだ全然、決意もセリフも固まってないのに!
水族館に行った時は、ここまで緊張してなかった。
勇気が出たら告白もアリだなあくらいには考えてたけど、全然本気じゃなかったし。
基本的に水族館楽しんでただけだし。
でも、今日は違うんだよ。
夏休み最後のイベントで仲良くなって、夏休みを幸せに過ごしたいんだもん。
思い出づくりっていう保険を兼ねてた、ただのレジャーとは違うの。
水族館は楽しかったけど!
なんて、現実逃避のように頭の中でぐるぐるして、ドキドキを抑えようとしてたら、ゴミ捨て場まで無言になっちゃった。
木山くんもなんだかそわそわしてる気がするし。
私の様子がおかしいのに気づいてなきゃいいんだけど……。
でも、もう気づかれても察されてもしょうがないもんね。
ゴミ出ししたら、サッと木陰か何かに誘導しなきゃ。
ゴミを出す場所は、開閉式の大きめなコンテナが置いてあった。
特に管理してる人もいないみたい。
多分、中にゴミを入れたらいいんだよね。
コンテナを開けると、数クラス分のゴミ袋が隅っこにちょこんと置いてあった。
この大きさは多分、後片付けしてたら出てくる大がかりなゴミもまとめて捨てられるようにってことなんだろうな。
私たちも、無言で他クラスの袋の隣にゴミを置いた。
コンテナの周りには、幸い他の生徒はいない。
ここしかチャンスはない。
そう思って声をかけようとした瞬間、木山くんの方から声が飛んできた。
「あの! ちょっと話したいことがあるんだけど!」
「ふぇ!?」
準備してなかったから、口から変な声が漏れる。
というか、話したいことって……。
そんな疑問が起きるよりも早く、木山くんが私の手を取った。
「ごめ、ちょっとこっちに来て!」
骨張った、ひんやりした手だった。
予想より指が長い。
細いのに、割と力ある……。
手、初めてさわった。
今まで話したかったというか、話そうとしてたことが全部飛んだ。
代わりに緊張とほわほわした知らない気持ちが心と頭を占めていく。
突然の大パニック。
私が我に返ったのは、校舎の陰みたいな場所で、木山くんがしばらく動かなくなってからだった。
木山くんが、ハッと気づいたように手を放す。
木山くんの様子を伺うと、何やらよくわからない表情をしていた。
難しそうな、照れ臭そうな。
あんまり、見たことない。
思わず言葉が溢れる。
「どうしたの?」
木山くんは、パッと私の方を向いて、今度は明らかに恥ずかしそうに目を逸らした。
「ごめん。いきなりここまで連れてきたのに、話したいことがあったのに、最後に臆病になってたみたいだよ」
何?
というか、私も話したいことあるんだけど。
なんて言おうとしたら、なんか、いつもより真剣な様子の木山くんと目が合って、声が出なかった。
「僕は、どこまでも偶然に助けられてるんだ。今までずっと。今日も、そういう偶然に出会って、だから、ちょっと話がしたくて三雲さんをここに連れてきた」
「あ、あの」
「三雲さん、ごめん。迷惑かもしれないんだけど」
「ごめんとか迷惑とかわかんないけど」
「僕は!」
「ちょっ……!」
「「あなたが好きです!!」」
「え?」
「ハモっちゃったね……」
唐突になんか言い出すから、つい被せてしまった。
大事なことみたいだったから、私が先に言わなきゃって。
思ったけど。
そっか。
そっかあ。
両想いだったかぁ。
「そんな、本当に?」
「私こそ、訳わかんないよ。私が今日告白しようと思ってたのに、先に告白されそうになるし。途中、なんか知らないけど謝ってたし」
「いや、それはなんか、僕なんかから告白されるのは迷惑かなと」
「その言い方は気に入らないなあ。私が好きなのは、星が大好きで、真面目で、お話が好きな木山くんなのに」
「そんな、なんか、過大評価だよ」
さっきまで声も大きくてかっこよかったのに、いつもの感じになっちゃった。
でも、こんな照れた感じが見られるのは、新鮮だなあ。
「私がそう思うんだからいいんだよ」
「……そう。なるほど。じゃあ、僕は三雲さんを何で好きになったのかを話そう」
「いや、いいよ! 話さなくて!」
なんか、いきなり恥ずかしいことするじゃん。
話そうって言ったら、木山くん割と長いのに。
「これは、初めて人に話すんだけど……正直、一目惚れみたいなものなんだ。去年の文化祭に、閑古鳥の鳴いていた天文部に来てくれた時に初めて会って、その日に好きになった。純粋に、他人の話をここまで楽しそうに聴ける人がいるんだって思った。その姿を見てたら、もう好きになってたんだと思う」
「そん……」
「でも。ずっと好きだったけど、クラスも違ったから去年は遠くから見てるしかなかったんだよ。ただ、今年は一緒のクラスだったし、タカリョーとかのおかげで、話す機会も増えたから、文化祭までに仲良くなってって思ってたんだけどね」
「うん……」
少し照れ臭そうにニコニコしてる木山くんはわたしには眩しくて。
なんか、幸せってこういうことなのかなってぼんやり思ったり。
「今日、三雲さんが告白するって聞いて、伝えるだけでもしておかないとって、思ったんだ。勇気出してよかった」
「えっ、告白しようとしてたのバレてたの?」
「噂でね。相手が誰かは知らなかったけど」
「なる、ほど……」
一瞬ヒヤッとしたけど、なんとなく、タカリョーが木山くんにだけ流した気がした。
木山くんと話してたのタカリョーだけだし。
色々と知った上で裏で動いてたんだとするとちょっとムカつくけど、無事に、付き合っ……まだじゃない?
まだちゃんと言ってなくない?
私はもう一度気合いを入れ直して、今度は自分から木山くんの手を取った。
「木山くん!」
「えっ、うん」
「私と、付き合ってくれるよね!?」
木山くんは少し目を丸くしてから、あははと静かに笑って言った。
「もちろん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「よぅし!!」
無意識にガッツポーズしてた。
そして、木山くんと目が合う。
2人して笑い合う。
あぁ、今年の夏は最高の夏になるなあなんて、西日に照らされながら思った。
かわいくなってたら嬉しいな
次回は金曜日の予定ですが、修羅場ってるのでもしかしたら更新できないかもです。
すみません。




