その41
タカリョーは私にそれを伝えるとちょっと満足そうに笑った。
どこか、いつもと違う笑顔な気がしてびっくりしたけど、自信ありげな雰囲気が私には少し頼もしかった。
そんな時、校内放送で業務連絡のメッセージが流れた。
「各クラスの移動が完了しました。20分後にホームルームを始めます。今回の体育祭で生じたゴミはまとめて処理するので、各クラスで事前に指定した場所にゴミをもってきてください」
事前に言われていた内容だ。
私は当然タカリョーとゴミ出しに行こうと考えて、彼に近づいた。
すると、こんなことを言われた。
「三雲さんと一緒に、可燃の方のゴミをもっていってくれないか? 不燃は俺が行くから」
ここで私はピンときた。
多分、何かの形でゴミ捨ての機会を使って、木山くんと雪ちゃんを会わせる気なのだ。
これに乗らないわけにはいかない。
わかったと返事をして、雪ちゃんの元へ行った。
ゴミ捨ての手伝いを頼むと、雪ちゃんはいつも通りふたつ返事でOKしてくれた。
「でも、私なんかと行って良かったの? せっかく、タカリョーと2人きりになれるチャンスなのに」
「うぇ!?」
教室を出たあたりでいきなりそんなことを言われた。
あまりにも自然にからかわれたから、いつもより大きな反応をしてしまった。
雪ちゃんがニヤニヤして言う。
「そんなに意識しちゃったの?」
もう!
やられっぱなしは気に入らないので、お返しを……しようと思った。
けれど、今の私にはそんな資格はない。
そう思ったら自然に声が落ち着いて、素直な返しが出た。
「タカリョーに頼まれたのよ。私は全てわかっているわけじゃないんだけど……」
雪ちゃんの告白のための作戦のひとつだと思う、と言い切る前に、雪ちゃんがつぶやいた。
「どうしよう」
雪ちゃんにしては元気のない声に、私は聞き返した。
「どうしたの?」
「私、告白するんだった……!」
「何を今更……」
少し慌てた様子で雪ちゃんは続ける。
「告白するタイミング、というか、チャンスをタカリョーに用意してもらう約束だったの! だから、タカリョーが言ったってことは、この後がチャンスになるってことだと思うんだけど、でも、まだ告白のセリフなんて考えてなくて」
話しながら、手にもつゴミ袋をわたわたさせる雪ちゃん。
その姿は可愛いけれど、もうどうにもならない。
教室なんてとうに出て、今はゴミ捨て場の方が近いくらいの場所に来てしまっている。
私にできるアドバイスは何かないかと考えていると、私たちに向けて、「おーい」と呼ぶ声がした。
振り向くと、そこにいたのは木山くんだった。
なぜか、彼も袋を抱えている。
ちょっと小さいけど、同じ可燃ゴミのようだ。
半分くらい反射的に木山くんに尋ねる。
「何があったの?」
木山くんは軽く笑って答える。
「ひとつ、渡し忘れてたんだってさ。タカリョーに頼まれてもってきたよ」
完全にタカリョーの作戦だとここで確信した。
ありがとうと言いながら、私はどうやってこの場を抜ければいいのかを素早く考える。
と、スマホのバイブが起動し、着信を知らせてきた。
こんなタイミングで?
と、多少苛立ちながらも、一応画面を確認する。
タカリョーだった。
「ちょっと、ごめんなさい」
あわあわが加速した雪ちゃんとやけに落ち着いている木山くんにそう断って電話に出る。
「もしもし?」
「もしもし。木山くん、そっちに行ったかな?」
「来たけど、あなたが仕組んだの?」
そう答えたあたりで、木山くんから声がかかる。
「ゴミ捨て、すぐそこだから、持ってっちゃうね! 時間かかりすぎても、アレでしょ?」
そう言って、私がいたあたりに置いてきたゴミ袋を拾っていく。
雪ちゃんに声をかけて2人で、その場から離れるのが見える。
「あっ……!」
そんな声をかける暇もなく、2人は行ってしまった。
電話口のタカリョーが言う。
「その様子だと、木山くんと三雲さんは2人だけになったかな?」
「どういうこと? 何かしたの?」
「悪いことは多分してないから、落ち着いてくれよ」
少し語気が強くなってたらしい。
私は一呼吸おいて、続けた。
「わかったわ。でも、説明してくれるのよね?」
「するよ。とりあえず、ゴミ捨て場の方と逆の階段の近くにある勝手口まで来て」
「えっ」
私が返事をする前に電話は切れた。
なんだかモヤモヤする気持ちはあるけど、とりあえず言われた場所に向かう。
そこは、裏門に近い勝手口で、生徒が使う時は出てすぐのところにあるテニスコートに用がある時くらいという、人気の少ない場所だった。
しかし同時に、少し回ればゴミ捨て場の近くに出るという場所でもある。
ここに来いって言うってことは……。
予感を感じながらその場所に行くと、タカリョーがいた。
「こんな時間にここにいたら目立つわよ? クラスは平気なの?」
「不燃ゴミは捨ててきたし、ホームルームまで余裕はあるし、クラスは俺がほとんど知らない体育祭の思い出で楽しそうだけど?」
「なんか、タカリョーがうまくいったような話し方をするとムカつくわね」
タカリョーはその言葉に苦笑して言う。
「確かに、ちょっとキャラじゃなかったかもしれないなあ。“いい人”として、必死だったもんだからさ」
「なにそれ」
私は、あまり強く言葉に出来ずに、軽くつぶやいた。
タカリョーはそれを見てか、それよりも、と言いながら、勝手口の外に出る。
「どこに行くの?」
「ん? 見るだけだよ。どうなるのかを」
「でも、こんな、覗いていいものなのかしら……」
大野さんの時は不可抗力だったからと自分に言い聞かせながら、そう言ってみる。
タカリョーはへらへらと笑って答えた。
「しょうがないよ。今日、俺たちには見届ける義務がある。それに、何事もなかったら、なるべく覗き見る予定だったんでしょ?」
誰から聞いたのか、私の過去の愚行を指摘されて、私は無言になった。
タカリョーは満足そうな顔をして、ゴミ捨て場が見える方に歩いていく。
私も後をついていく。
校舎の角から顔を覗かせると、ちょうど、雪ちゃんと木山くんの姿が見えた。
次回は水曜日です。
もう少し早く進む予定でした……。




