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その40

「お疲れ様、写真撮りに来たよ」


「おぉ、タカリョーじゃん。みんな、ちょっと来いよ」


まぁ、山田くんはこういうやつだ。


良くも悪くも、明るく、フレンドリーな、そういうやつ。


「とりあえず新聞部用にみんなで数枚撮らせてよ。ほら、この辺でさ」


こうなるのは予想通りだからな。

何枚か舞台裏ってことで写真を撮っておく。


それから、予定通りクラスの分だってことで、うちのクラスの野球部だけになり、適当に1人ずつ写真を撮ったところで、山田くんの番がきた。


ここで、俺の一世一代の名演技を炸裂させる。


「あっ、そーだー。みんなが戻ってくる前に、教室の座席を軽く戻しておきたいと思ってたんだー。1人じゃ大変だから、みんなにも頼もうと思ってたんだけど、つい写真を長々と撮っちゃったなあー。いやー、まいった」


我ながらひどいが、仕方ない。

ゴリ押しである。


「あー、瓜生くんと田中くんと橋本くんはもう撮り終わったから、先に行ってやってくれない? ちょうど、生徒の全体移動が始まりそうだからさ」


グラウンドでは、中学生から順番に教室に戻るよう指示がされている。

もう少ししたら、高校生も移動が始まる。


先生たちも移動を始めるから、直にここも騒がしくなる。

正直もうそんなに時間がないのだ。


瓜生くんが俺の言葉を聞いて察してくれたらしい。


「わかった。それくらいなら全然やるよ」


そう言って、もう校舎に身体を向けていた。

田中くんと橋本くんも瓜生くんが動き出すのを感じたからだろうか、しょうがねえなあなんて言いながら、校舎に向かっていく。


うちのクラスには気持ちのいいやつが多い。


「ごめんなー、よろしくー!」


そう声をかけて、山田くんに向き直る。


「お待たせ。さっさと撮っちゃおう」


「おう。改めて写真撮るってのは恥ずかしいな」


返事をする山田くんにスマホを向け、写真を撮る。


「最近のスマホって、画質はいいけど、やっぱりカメラの方がかっこよく撮れたりするのはなんでだろうな」


「さぁ、結構思い込んでるところがあったりするんじゃねえの? カッコいい感じするじゃん、カメラってさ」


撮った写真を確認しながら、そんな話をする。

この難題を大事じゃないかのように話すには、これくらいの自然さが大切なんだよ。

多分。


俺の頭の中の白河さんのイメージで、ようやっと俺は本題について質問した。


「そういえばさ、三雲さんが告白するみたいって話を誰かがしてたのを小耳に挟んだんだけど、知ってる?」


俺は写真をスクロールしているような指をして、下を向き、スマホをいじっている。

だから、山田くんの顔がわからない。


なんか、怖い顔とかしてないかがとりあえず心配だ。


すると、思いの外、罰の悪そうな声が返ってきた。


「あぁ、アレな。知ってるっちゃ、知ってるんだけどな……」


まあ、そうだろう。

だけど、この感触は多分、そこまで酷いことにはならなさそうだな。


ちょっと安心して、山田くんの方を見た。


山田くんは苦笑いしながら言う。


「いやあ、ちょっと昼に宮本からそれを聞いてさ。話のネタにって、思ったら結構怒られてな。悪いことしちゃったなあと思ってたとこなんだよな」


「なるほどなあ」


そうだよな。

山田くんは進んで人を困らせてやろうみたいに思うタイプには見えない。


「もうちょっとちゃんと謝ろうとも思ったんだけどな。今言いに行くとまた怒られそうだなとかな」


宮本が口を滑らせたのは知ってたから、責める気はなかったけど、そうやって思ってくれてるなら交渉もしやすい。


いや、本当に、うちのクラスは基本いい人たちなんだよ。


「いや、ごめん。実はそのあたりちょっと知っててさ。俺、山田くんに話しておきたいことがあるんだよね」


さあ、ここからが大切だ。


山田くんは多少不思議そうな顔をしているが、こちらの声は届くだろう。


「あの、宮本が口を滑らせたっていうことを広まらないようにしたいんだよ。情報の出所、宮本だってことは、誰かに言った?」


「いや、出所の話なんてしてないけど……」


「ならよかった。それなら多分、知ってるのは山田くんだけだよね? それとも、それを聞いた時、周りに誰かいた?」


「……吉岡が、いたくらいじゃないか?」


「吉岡くんなら、こっち側だから大丈夫だな」


「こっち側って、お前、何しようとしてるんだ?」


ああ、うん、そうだよな。

警戒するよな。


今の俺の言い方、怖いもんな。


「何するって、三雲さんが普通に告白できて、あわよくば成功して、告白の噂が本人の耳に届いても、宮本がその発端だと分からなければいいと思ってるんだよ」


「……なるほど? ってことは、俺に宮本が話してたのを聞いたってバラさないように釘を刺しにきたんだな」


「まぁ、そうだね」


そう答えると怪訝そうな顔をした山田くんは途端に安心した顔になった。


「いやぁ、焦った。怖い顔してるからさ、スパイ映画とかみたいに、脅迫とか情報のやり取りとかさせられるのかと思ったわ。そんなん本人に口止めされてんだから、言う訳ないじゃねぇか。割と常識人だぜ?」


お、なんか警戒を解いてくれたみたいでありがたいな。


ただ、俺が本当に頼みたいのはそこじゃない。


「ありがとう。俺の周りの人がギクシャクするのは嫌だったんだよ。ただ、もう一つお願いがあってさ」


「何?」


「もし、噂の出所の話がどっかで持ち上がったら、俺が口を滑らせたことにしてくれない?」


「……マジ?」


「マジだよ。予防線? というか、嫌なことを防げるなら事前にやっておかないとさ」


自分でも、若干やりすぎかなという感はある。

けど、今はなんとなく、宮本が落ち込む要因を少なくしておきたいんだよな。


山田くんは、足を止め、しっかり数秒考えた後に、こう言った。


「わかったよ。あと、宮本には、後でちゃんと謝っておくよ。タカリョーにとって、大事なことなんだろうからな」


多少、含みがある言い方だった気もする。

でも、目的を達成した俺は、ありがとうとだけ答えた。


これだけ動けてたら“いい人”になれている感じもするしな。


次は金曜日です。

師走は忙しいですね……。

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