その38side宮本優香
蓮華ちゃんに話を聞いてもらってから、私はとにかく撮影をしながら、タカリョーを探していた。
蓮華ちゃんのところは飛び出しちゃったけど、やっぱり相談しないと不安で。
タカリョーなら、最低限の策を考えてくれるような気がして、それで安心できるかもって思って。
ただ、思い出してみると、タカリョーは計画とか作戦とかあんまり立てない人だった。
今までクラスの人に支えられてやってきた大体のことは、タカリョーとか周りの人がふわっと言ったことを、私が主導でタカリョーと話しながらこなしてきたものだった。
クラスTシャツも、勉強会も、水族館……は、ちょっと違うかもしれないけど。
でも、大抵、私の考えたことに、タカリョーが実行役として付き合ってくれていた。
まだ、半年もたっていないのに、濃密な時間だった気がする。
なんて、現実逃避を始めても、タカリョーとは全く出会えない。
合間合間に蓮華ちゃんのところに見に行っても、タカリョーはデザイン部の方に行ったと言われるばかり。
競技が全部終わるギリギリになっても、タカリョーと話せない私は焦っていた。
「啖呵切っちゃった手前、蓮華ちゃんに相談しなおすのはちょっとアレだし……。大体、私が何度も蓮華ちゃんのところに行っているのに会えないなんて、結局あいつがいないのが悪いじゃない?」
「何をぶつぶつ言ってるの?」
パッと横を向くと、苦笑する吉岡くんがいた。
口に出ていたらしい。
「別に、何でもないわよ」
なんだか恥ずかしくて、とりあえず適当な返事をする。
すると、吉岡くんは小さく息を吐いて言った。
「そんなにタカリョーと話したかったら、電話とかしたらいいんじゃない?」
「で、電話!?」
その、その発想はなかった……。
今どき、スマホって電話するために使わないし、SNSがあるから、連絡には困らないし。
って、私、今までSNSも使ってなかったわね。
なんて抜けているの……。
でも、正直、男の子に電話したことなんてないし、なんかそれは恥ずかしいというか。
「タカリョーに電話したことないの? 連絡先は持ってるんだよね?」
「いや、連絡先はもちろん持ってるけど、電話なんてしたことないわよ。することも特にないし」
「あー。なるほど。僕はほとんど明梨としか電話しないから、感覚がいつのまにか普通の人とはズレてたんだね。明梨はなんでもなくても電話してくるからさ」
えっ、惚気なの?
吉岡くんが?
早くくっつけとは思ってたけど、唐突に惚気られるとは思ってなかった。
でも、多分まだ付き合ってないでこれなのよね。
とんでもないわ。
私が返事をせずとも、吉岡くんの話は続いた。
「とりあえず、今は電話したいことがあるわけだから、電話してもいいと思うんだけど」
たしかに、そうね。
あまりにもあっさりと、私のうじうじとした悩みは解消された。
半ばプレッシャーを与えるように見守る吉岡くんの横で、私は電話をかける。
「もしもし? どうした?」
程なくして、タカリョーは簡単に応答した。
騒いでいたのが馬鹿みたいだとか、電話越しに声を聞くのはなんだか不思議な感じがするとか色々思ったけど、とにかく相談をすることにした。
することにしたけど……。
「あの、ちょっと、相談があって」
「あー、そうか。大丈夫、俺は知ってるから。悪いようにはならないからさ、閉会後のホームルーム終わったら、ちょっと俺についてきて」
「え?」
この反応、言うまでもなく知ってる……?
ハッと気付いて、隣の吉岡くんを見ると、涼しい顔をして言う。
「僕が教えておいたよ。宮本さんがあまりにも大変そうだったからね」
くっ……。
通話中だし、そんな言い方されると怒りづらい。
「あぁ、あと、俺が知ってるのは吉岡くんのおかげだから。あとは、ワンチャン事故ったら、責任は俺のものにするつもりだからよろしく」
「何? どういうこと?」
「詳しくは後でな。最後の競技、始まるだろ。じゃあ」
「ちょっ」
タカリョーはそうやって、電話を切ってしまう。
「何かあったの?」
「タカリョーが、事故ったら責任は俺のものみたいなことを」
「あー、そうね。タカリョーならやりそうだね」
「何の話なの?」
「いや、事故ったらについては知らないけど、責任は俺のものっていうのは、多分、バラした人探しが始まったら自分が引き受けるっていう意味だと思うよ」
「なっ!」
なんでそんなことするんだと、思わず口に出そうとしたけど、生憎と、すぐに答えは出てしまった。
「そりゃ、タカリョーは“いい人”であろうとするからね」
そうだ。
いつも私はこうやって彼に……。
なんだか難しい思いを抱えたまま、最後の競技、閉会式までの写真を撮り切った。
タカリョーに電話する時間はそれきり取れなかったし。
色々な不安を抱えたまま、教室に戻ろうとすると、グラウンドとは反対方向の入り口から、タカリョーが出てきた。
山田くんと一緒である。
反射的に身構えるものの、二人はこちらに気付いていないのか、微妙な距離で、軽い会話をしながら廊下を曲がった。
私もその後を追いかけて教室に向かう。
教室に着くと、1日を終えて感想を言い合うみんながいた。
私は気持ちが忙しくて気にしてなかったけど、うちのクラスの属す組は、2位だったらしい。
断片的に聞こえる話からそれだけはわかった。
でも、私は一直線にタカリョーに向かう。
すると、私に気づいたタカリョーが近づいてきて、内緒話のように言った。
「大丈夫、多分どうにかなるから」
明確に、自分の胸がざわついたのを感じた。
次回は金曜日です




