その33 side宮本優香
タカリョーと吉岡くんが出て行った部室。
静かにお弁当を食べる蓮華ちゃん。
本当なら、誰かに相談したいのに、今の私は心が沈みすぎて、口にする気にもなれなかった。
置いてあった鞄から、静かにお昼を取り出す。
今日はサンドウィッチ。
手早く食べられるようにって考えてたんだけど……。
「ねぇ、そのどんより気分はどうしたの? 触れられたくないなら、話さなくてもいいけど、全身から黒いモヤを出しているみたいよ?」
蓮華ちゃんからそんな指摘が入る。
言葉はいつも通りキツめだけど、優しげな声だった。
思わず、涙のダムが決壊する。
「ゔっ、わたし、あのっ……ぐす……」
さすがに大声はあげなかったけど、後から後から涙が溢れて止まらなかった。
私が悪いのは、わかってるんだけど、まさかぽろっとこぼした独り言からこんなことになるとは思わなかったし。
聞かれたのが山田くんじゃなければこんな風にはならなかっただろうし。
でも、やっぱりこぼしちゃったのは私だし。
私がなんだか舞い上がってたのがいけなかったんだよ。
そうなんだけどさ……。
ひとしきりそうやって泣きながら、ぽつぽつと蓮華ちゃんに思いを話していた。
なんだか、こんなことは久しぶりで、後から思い出すと恥ずかしいんだろうけど、私は気持ちのままにそうしてみた。
蓮華ちゃんは、ティッシュを私に持たせながら、とにかく聞くだけ聞いてくれた。
蓮華ちゃんに弱音を吐くのはこれで3回目くらいだけど、毎回そうだ。
蓮華ちゃんは、私に寄り添ってくれるわけじゃなくて、本当に聞いてくれるだけ。
そして、いつもこう言うんだ。
「満足した?」
私はやっぱり頷くしかなくて、今日もそうだった。
蓮華ちゃんは、薄く笑って言う。
「そう。よかった。吐き出せたなら。どうせ、この後どうするかは考えてるんでしょうし」
……いつもなら頷くところだけど、今日は何も言えない。
蓮華ちゃんに相談してみても、いいのかな。
「それが、本当に、なんにも思いつかないの……頭が真っ白というか」
自分の口から出たにしては、あまりにもお粗末な内容だった。
こんな失敗、したことないし、自分がどうしたいのかもわかってないから、相談の仕方もわからない。
女の子の相談なんて結論ありきだろってこの前タカリョーが言ってたけど、そんな女の子ばかりじゃないってこれで断言できる。
でも、どうしたって言葉が出なくて、私は固まってしまった。
蓮華ちゃんが軽く息を吐く。
「そう。そんなにひどいのね。去年から、あなたは恋愛が絡むと情けなくなると思っていたけど、自分のことじゃないともっとひどいわ」
「ご、ごめん……」
「別に責めてないわよ。午後の活動に響いたら嫌だから、早く結論出しましょ。ほら、話して」
「あり、ありがとう……」
なんだか、また泣きそうになって声が萎んでしまう。
蓮華ちゃんは、眉間を押さえて、調子くるうわねと呟いた。
「いい? まず、最悪の場合をイメージしなさい。それを阻止すれば一先ずはOKなんだから」
「そんな簡単なこと?」
「それくらいしかできないでしょ? 別に私たち、人を操れるわけじゃないんだから」
淡々と言う蓮華ちゃんが頼もしい。
それにしても、最悪の場合か……。
とにかくまずいってことしか頭になくて、そこまで具体的に考えられてない。
「とりあえず、雪ちゃんが告白できなくなるのはダメ。あんなに想っているんだから、それだけはダメ」
「そう。それで?」
「告白できなくなるってことは2人が会えないってことだから、物理的に会えないのはもちろん、会いにくい雰囲気になるのも避けたい。とすると……」
「とすると、これ以上に噂が広まって、その発端があなただって伝わってしまったら最悪ね」
「ゔっ……それは本当に、どうにかしたいな……」
さすがに噂が私から広まったなんてわかったら、あの優しい雪ちゃんでも私と絶交するかもしれない。
雪ちゃんと絶交は、ちょっと、考えたくないな。
「であれば、そのためにできることを考えるべきでしょ?」
「そうね。でも、どうしよう。人のことを操れるわけじゃないって蓮華ちゃんが言った通り、私にはこの状況を変える力がないわ」
私が、頭を働かせながら、静かに落胆していると、蓮華ちゃんがこともなげに言う。
「何もしなきゃいいじゃない」
「え?」
聞き返す私に、蓮華ちゃんは続ける。
「何もしなきゃいいのよ」
「でも、噂広めないように声かけたりとか」
「思考力も失ったの? そんなことしたら、逆に広まるじゃない。知らない子にも。見た感じ男しかいない空間だったんでしょ? だったら女の子同士の噂拡散はないだろうし、触れる方がそっちの拡散の可能性上げるんだから何もしないのが結局1番よ」
「うっ、そうかもしれないけど……」
「あのねえ……」
私が柄にもなくうじうじしていたら、蓮華ちゃんに肩を掴まれた。
「あんた、変人秀才お嬢様の宮本優香でしょう? それくらいで動揺してどうするのよ。いつもの自信はどこ行ったの? 冷静な思考はどこ行ったのよ。女々しいあんたを見てると気持ち悪くてムズムズするのよ!」
正直めちゃくちゃ驚いた。
しかも、気になる点が満載だ。
「変人秀才お嬢様? そんな風に呼ばれてるの?」
「さぁ?」
「さぁって……女々しいのも気持ち悪いとか」
「そうね」
「もしかして、蓮華ちゃん、私のこと嫌いなの?」
「かもしれないわね」
なんだかすごくびっくりして、涙が止まった。
いや、蓮華ちゃんは別に私のこと嫌いじゃないはず。
だって、恥ずかしがってそっぽ向いてるから。
でも、他の2つのことは本当かもしれない。
本当だったら恥ずかしすぎる。
たっぷり数秒フリーズして、私は衝動のままに立ち上がった。
「もういい! 蓮華ちゃんは好きだけど、馬鹿にしてくるからもういい! タカリョーに相談してくる!」
そうやって叫んで、荷物をまとめる。
蓮華ちゃんは、軽いため息を吐いて、はいはいとかいってらっしゃいとか、軽く言ってるけど、私はそれなりに怒ってるから。
「じゃあ……えっと……聞いてくれてありがとう!」
怒ってるテンションで何か言って部室を出てやろうと思ったけど、言葉がうまく出てこなかった。
変な捨て台詞になっちゃったなと思って私は、廊下を早足で進む。
まずはトイレに行って、顔を洗わないと!
「ほんと、面倒な子……あのギャップが、可愛いのだけど。」
「あー、シャッターを切りたかったわね……」




