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30/88

その30

準備期間が終わった。

取材やらクラスの名簿の整理やらをこなしていたらあっさりと消えていた。


天気もよく、外で運動するには、絶好の日和だった。

ま、運動は好きじゃないんだけど。


森山学園の体育祭は、おそらくとても規模が大きい。

中等部との合同開催であることもあり、1日かけて全ての競技を終わらせる。


高等部グラウンドと中等部グラウンドが分かれているものの、部活対抗リレーのような中等部高等部が一緒にやる部分はアリーナと呼ばれる大きな体育館で行う。


生徒は移動を考えて動かなきゃいけないし、運営の先生と生徒会、体育祭の実行委員会は馬鹿みたいに忙しいらしい。

だが、出資者である保護者の人気が高いから毎年同じ規模で行なっているようだ。


そんな保護者は、スクリーンやテレビ画面が用意された教室で中継を観ることもできるし、直接競技の会場に行くこともできる。

プログラムボードなどの彩りが活きるのはこういうシステムがあるからだ。


金の力って恐ろしい!


だが、一般の生徒は、体育祭を、交流を楽しむだけのイベントだと思っている人も多い。

ま、仕事がなければ決められた時間にその場所移動してひとつふたつ競技出ればいいだけだからな。


高校生にもなると、それくらい容易いので人があまり来ない場所で休んでいる生徒もちらほらいる。


なんで俺がそんなに詳しくなったかというと、新聞部は総出で写真を撮りまくる日だからだ。

葉山先輩曰く……。


「競技中のいい写真は、写真屋さんに貰えるけど、行事の合間の楽しい一瞬は私たちが切りとらないといけないんだよ!」


というわけで、俺は校舎を走り回っている。

二人一組で行動しているのだが、今日の相棒は宮本じゃない。

白河さんだ。


「次、二年生の障害物走。これは応援が盛り上がるというより、裏の会話とか次の準備が盛り上がるから……待機場所付近に行こう」


「白河さん、そんなに把握してるのか。すごいな」


「あら、優香ちゃんもこれくらいできるわ。先輩の受け売りだし」


「なんで宮本の話が出てくるんだよ」


「え? いつも一緒だし、付き合ってるんでしょ? 私といると不満なのかと思って」


「ちょ、いや、付き合ってないから!」


「そうなの。まぁ、楽しそうにしてるから別になんでもいいわね」


白河さんはそれだけ言うと、スタスタと待機場所の方に向かう。


このドライな感じは、宮本に慣れてしまった今、新鮮に感じる。

関わった人が割とみんなそうだったから、恋愛が絡むと女の子は絡んでくるもんだと思ってた。


いや、話が早くてありがたいんだけど。


「優香ちゃんが、朝からなんだか気合いを入れていたから、何かするんだと思ってたけど、その様子じゃ高山くんも知らないのね」


「え?」


「付き合ってないなら、さすがに優香ちゃんが何しようとしているのかまではわからないよねって話」


「いや、まあ、そうだと思うけど」


「ん? あぁ、なるほど、付き合っていても相手の行動を把握することはできないでしょってことね。たしかにその通りよね」


話かみ合って無くないか?

しかも、めっちゃ自己完結して終わってる……。

そうやって言葉を漏らす白河さんは今、カメラのファインダーを覗いてとても集中している。


今日一緒に行動していて、集中モードの白河さんは、独り言というか呟きが多くなることがわかった。

今のは、そのほんの一部。


だけど、その一部がとても引っかかる。


宮本が何かしようとしていた?


「なぁ、宮本が何かしようとしていたってのは具体的に……」


「ちょっと待って、今シャッターチャンス! いい写真撮れそうだから! ほんと、あ、いい顔する! いい!」


そう。

こんな風に独り言が増える。


テンションが上がったり、さっきみたいに話しかけてきたり様々だけど、どちらにしても会話が通じない。


俺は、昼休憩になったら宮本にちゃんと聞こうと心に決めて、白河さんの横でカメラを構える。


「カメラのレンズがなくなって、シャッター音が無くなって、それでも綺麗な画像が撮れたらなと思う時があるの」


また、集中モードだ。

今度は語るタイプかな?


俺は適当に相槌をうって、自分も写真を撮る。


「なんというか、太陽の下で、自然な表情でキラキラしてるのを撮るのって難しいのよ。レンズがあると、みんなそれを意識しちゃう。そしたら、どうしても不自然さの残る顔になっちゃうのよね」


パシャリとまたシャッターを切る音が聞こえる。


「でも、私はありのままのステキな君を撮りたいのよって、そう思うわけ」


白河さんの独り言は止まらない。

それをBGMにして、俺もシャッターを切った。


顔を上げると、目の前に、カメラを構える手を止めて、俺を見る白河さんがいた。


「ねえ、優香ちゃんが今日考えてるのって、この子のことかしら?」


白河さんが、俺に見せてきた写真は、障害物走から帰ってきた木山くんを、満面の笑みで迎える三雲さんだった。


「優香ちゃんの幼馴染なのは知ってたの。最近優香ちゃんの話によくあがるのも。おかげで、いい写真が撮れたわ」


「マジか……」


いや、なんか、どうコメントしていいか分からなくてこんな言葉しか出てこなかった。


でも、なんか、この表情を見たら、応援したくなっちゃうよな……。


「さっき、カメラからレンズが消えたらいいなって話したけど、こういう行事だけは別。新聞用だから被写体は誰でもOKだし、撮っていい? って聞く必要もなし。みんながこっちを意識してない間に、最高の一枚が撮れる」


白河さんは、カメラをまた装備し直すと、移動の準備を始めた。


「体育祭、文化祭、行事万歳ね。さ、障害物走は終わったから次の撮影場所いくわよ」


素晴らしく生き生きしている白河さんに苦笑しながら、俺は心の中でシャッターを切りたい気分が少しわかった気がした。


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