その13
今回で、第1章は終了です。
俺が、大野さんの告白を断って、言い訳を重ねる間もなく、宮本に連れ去られた日から2週間ばかり。
俺の日常は色々と変わった状態で続いている。
あの後、絶対に俺はギクシャクすると思っていたし、だからこそSNSで謝ったりもした。
それが正しいのかはわからないけど、俺はそうしないといけないと思った。
でも、彼女たちの反応は少し予想外だった。
まず、俺の周りには、絶えず宮本か大野さんが来るようになった。
大野さんははじめ、文句を言いに来た。
色々聞いたけど、俺が一番驚いたセリフはこれだ。
「タカリョーくんは、最低だと思ったけど、私は、やっぱり好きだから、諦めないよ!」
なるほど。
なるほど?
いや、最低って言うから、絶縁状態になって、クラスTシャツプロジェクトにも影響が出るかと思っていたけど、そんなことはない……のか?
Tシャツの方に影響がないのはホッとしたけれども、それでいいのか感が……。
わからん。
わからなすぎてうまい返しができない。
俺があわあわしている間に、大野さんは、髪を切って、メガネがコンタクトになって、積極的になって、俺によく話しかけるようになった。
他のクラスメイトとも話す回数が増えているから、本来の目的は達成したのかな、なんて、関係ないことを考えて、思考は後回しにしてしまっている。
悪いと思うが、許してほしい。
宮本の言動も積極的になって、わからないのだ。
宮本は、あの一件の後、謎の手紙を遣した。
『あんたを、絶対恋に落としてみせるわ。覚悟しなさい』
手紙というか、書きなぐったメモのようなものだったけれど。
わからなすぎてメッセージを送ったり、直接聞いたりしたが、頑なに答えてくれなかった。
「俺は恋をしたくないんだよ」
そう言っても、鼻で笑われた。
「落ちるものなんだから、理屈は関係ないのよ」
俺が言ったことを言い返されてるのだと気づくまでに、ちょっと時間が掛かったし、気づいて家で悶えた。
最高にカッコ悪い。
だから、その話題にも手をつけてない。
結果、宮本とタッキーと時々三雲さんだった世界に、大野さんが加わった現実が残った。
そして、宮本と大野さんはやたら距離が近い。
宮本は元から可愛いし、イメチェンした大野さんは、クラスで話題になるくらいにはキラキラしていた。
俺はドギマギしながら、クラスメイトのヘイトを集めないように動く毎日だ。
楽しくないわけじゃないけど、俺がどうすればいいのかわからない。
わからないけど、多分、青春をしている。
そんな、よくわからない思いを、ぼかしながらタッキーに伝えた。
相談するなら彼に限る。
彼はニコニコしながら、簡単に言った。
「なるほどねぇ、楽しいならいいんじゃない?」
「いや、だってさ。俺は多分怒られるべき人間だっただろ? だから、なんか……」
「怒られたいって、伝えてみたら?」
「なんかそれは、違う、くないか?」
「じゃあ、どうしようもないじゃない」
「だから相談したんだけどなあ」
困る俺をみて、タッキーは優しく言う。
「相談、ってか、話したかっただけなんじゃない?」
「……む」
俺はそれを聞いて、考えてしまう。
確かに、なにも意味のない話をしてた気がする。
「自分の心ってわからないものだから、そんな深刻な顔しないでよ」
「だけど、それなら迷惑だったなと」
「友達ってそういうもんでしょ? 俺は、話してくれて嬉しいよ」
「タッキーはなんでそんなに天使なんだ……!」
「俺を天使って言う人はいないと思うけどね」
タッキーは爽やかに笑う。
「でも、タッキーは、俺からしたら理想的な“いい人”なんだよ。天使って表現するくらいに」
「ありがたいけど、表現がなあ」
「それは、なんか、出てこなくて」
「あはは。でもねえ、俺はそんなできた人間じゃないよ」
「そうか?」
「うん。タカリョーみたいに、内側全部曝け出したりするのは、怖いよ」
「俺だって全部曝け出してるわけじゃ……!」
なんか、考えなしって馬鹿にされてる感じがするじゃないか!
「まあまあ、そうかもしれないけど。俺にはそう見えるってだけだよ」
「そんなに、ペラペラ喋ってるのか……?」
「タカリョーが俺のことを信頼してくれてるのがわかるくらいにはね」
そうなのか。
なんか、ちょっと気をつけてみよう。
会話で情報を出しすぎてるのかもしれない。
いや、でも、親友認定したタッキーになら、話した方が……。
「でも、正直、そこまでの信頼を向けてくれるのはタカリョーだけだから、俺は嬉しいよ」
「去年から仲良い奴もいるだろ?」
その寂しげな言い方が何か気になった。
「部活の奴はね、仲良いと思うよ。でもさ、なんかこういう真面目な話って、しにくいんだよね。部活スイッチが入ってて、サッカーのことしか考えられないっていうか」
「熱血だなあ」
「そんなことないと思うけどね。単に意識がサッカーに持ってかれてるだけだよ。やっぱり、強くなりたいし」
「俺みたいな関係ないとこで仲良くする人が珍しいってことか」
「そうだね。なんかさ、同じメンバーだと、話題って固定されちゃうから、どうしても、みたいなさ」
「なるほど、なんとなくわかる気がする……」
タッキーは、結構理屈を考えるのが好きなタイプだっていうのは、この2か月くらいで分かった。
たまたま、俺と相性が良かったのかななんて、今は思う。
あれ?
何の話だったっけか。
「ま、だから、俺から言いたいのは、気にしないで楽しんだらってこと」
「いや、全然繋がってないけど!?」
「なんか、説明が面倒になってさ」
「ちょっとー!」
なんだか、真面目な話のために呼んだのに、いつものテンションに戻ってしまっている。
「うん。まぁ、補足すると、いつか判断しなきゃいけない時までは、楽しんだ方が、青春なんじゃないって伝えたいんだよね」
「なるほど? いつか判断するときね」
「そう、きっと来るからさ」
「実感が篭ってる感じがするな」
「そうかもね」
タッキーとの話は、その後、チャイムの音によって終わりを迎えた。
放課後、教室で話をするとやっぱり時間が早くすぎる気がする。
「付き合ってもらってありがとう。帰り、アイスでも奢るよ」
「お、いいね。暑くなってきたからなあ」
「もう夏になってきた感じするよな」
「6月だから、雨も多いけどね」
「確かに、東京はジメジメするなあ」
「北海道は梅雨がないんだっけ? 羨ましいよ」
「雪は大変だけどな」
帰り道、親友と軽口を交わして帰る。
これはやっぱり青春だなあなんて考える。
いや、もう考えない方がいいのかもしれない。
ぐるぐるするくらいなら、楽しんで、毎日を生きよう。
そうしたら、後から青春だったなあなんて、思えるのかもしれないな。
*****
「なに、あなたたち。ちょっと気持ち悪いわね」
「それは酷くないか?」
「私が腐心していた時に、結局考えないようにしようなんて、先延ばしにする選択を取るなんて、本当に……」
「怒られてもしょうがないなあとは思ってたよ」
「そう思うくらいなら、早く私になびきなさい」
「やだよ。ちょっと今は」
「なんなのよ。嫌いじゃないんでしょ」
「まぁ、そうかも」
最初に書き貯めたストックがこれで終わりなので、頑張ってストックに追いつかないように定期更新していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。




