その11 side宮本優香
今回と次回は、別視点!
私は、高校生になってから、恋愛というものを求め続けてきた。
自分の相手を見つけることと他人の恋愛を知ることの二つに全力を注いできたのだ。
なんでそこまで恋愛に憧れたのかは覚えてない。
けれど、恋愛や恋は、人を幸せにするものだと信じてきた。
だから、色んな男の子に声をかけてみたんだけど、イマイチ、わからなかった。
好きがわからない。
恋がわからない。
経験したことがないから、それだと言い切れない。
感情に名前がつかない。
そんなふわふわした状態だったのがいけなかったのだろうか。
私はいつの間にか、優秀で、誰にでも優しく、見た目もそこそこの高嶺の花のように扱われていた。
そんなことないのにね。
優秀なのと、優しいのは関係ないし、見た目だって私の一面でしかない。
好きな人が褒めてくれたらまた違うのかなとは思いつつ、浮ついた日常は過ぎ去っていく。
そんな私が、明確に恋愛の良さと悪さに気付いたのは、一年生の終わりだった。
私は、新聞部に入ったことから、取材で色んな部活にお邪魔していた。
そこで何度か話した当時の三年生のイケメンから、告白されたのだ。
私は、彼が他の人と付き合っていたのを知っていた。
彼は野球部の部長、彼女は吹奏楽部の副部長だった気がする。
有名なカップルだった。
当然私は断った。
私は別に、略奪愛がしたいわけじゃない。
イケメンとか、そんなの関係ない。
だけど、穏便には済まなかった。
まず、私に告白したことでカップルが壊れた。
彼女の周りの人達は、私のせいだと責める人と、相手を責める人とに分かれた。
私にとっては、どちらも不利益につながった。
私の日常は、急に冷え込んだ。
仲良くなった人たちの大半は離れていった。
絶縁状態になったわけではない。
私に非がないのは、普通の人ならわかる。
ただ、大きく距離は開けられた。
遠巻きに関わるようになったのだ。
三年生の方が醜い争いになっているのも耳にした。
野球部の部長だった彼は、周りからの攻撃に耐えかねたのか、遂には、自分は付き合ってやっただけだなんて宣ったらしい。
私は、さすがにキレてしまった。
元は彼が悪いとはいえ、そう言わせるまで追い込んだ周囲も嫌いだ。
私が幸せの手段だと思う恋愛を汚す当人も嫌いだ。
何より、付き合うことを遊びにして、愛を育もうとしないのをよしとした層が一定数いたのも気に入らなかった。
告白から、相手を意識し始めて、好きになる。
そんな恋愛もあるでしょう?
そも、恋愛の形なんて誰にも決められないでしょう?
大事なのは、相手と向き合うかどうかでしょう?
他人がその恋愛に口を出すべきではないでしょう?
だって、恋愛って、ふたりが幸せになるための手段なんだから。
そんな、言葉にならない想いが、あふれてしまってしょうがなかった。
だから、新聞部の設備を使って、勝手に今回の件のいろいろを書いた号外を、学校中に配った。
正直、大騒ぎにはなったし、少しは事態が鎮火したけど、私の言葉でほとんどの人は動かせなかった。
結局は八つ当たりだった。
説教を食らって、そんなことを思った。
そして、今年の初め、転校生が来た。
私も居場所は少なかったし、彼も居場所を求めているだろうと思って近づいた。
そうしたら、思ったよりも早く、転校生の彼は簡単にクラスに溶け込んだ。
私はまだ少し浮いている。
いや、要因がいろいろあるのはわかっている。
私も悪くないし、彼もただ、初日から頑張っていただけ。
それでも、なんだか悔しくて、少し困らせてあげようと思って、人生初の告白をしてみた。
告白から始まる恋もあるっていうから、ね。
結果的に、困らせることには成功したけど、振られた私には、チクリとした痛みが残った。
だから、その感情に名前をつけるために積極的に彼に関わった。
“いい人”を目指すという彼は、なんだかいつもちぐはぐで、からかえば面白いけれど、ちょっと生きづらそうに見えた。
唯一確かめられたのは、彼が私とは全く違う世界を見ていそうだってこと。
そして、“いい人”に縛られて、すごくお人よしになっているってこと。
嫌いじゃないけれど、いつか壊れてしまいそうで、心配ではある。
そして、5月も終わろうかという今日、彼が1か月かけて関わってきた大野さんの面談企画が終わる。
これもそういえば、彼がお願いされたとかで始まった企画である。
私としては、いいアイデアを出せたし、順調にクラスTシャツの製作も進んでいて何よりだと思う。
正直、この企画を始めたおかげで、私の周りにもまた関わってくれる人が増えてきた。
学級委員にも成り行きで、そこまで“出る杭”にならずになれたから。
学級委員としてみんなと話す機会が増えると、噂だけで私のことを遠巻きにしていた人たちは誤解を解いてくれたり、今の私のことを知ってくれたりした。
そんな経験は、話すことは大事なんだなという学びとして、私の中に刻まれた。
今年はまだ始まったばかりなのに、こういう心が動かされる場面が多くてびっくりしてしまう。
だから、というわけでもないけど、そのきっかけを作ってくれたタカリョーには、感謝してるし、つながりを薄れさせたくないなと思ってる。
毎日、一緒に過ごしたりして、恋愛の話をちらつかせて、なんだかまごついている彼を見て面白がっているのも、それが理由。
けれど、いまだに、あの時の感情に名前は付けられない。
そうだ、今日、面談が終わるってことは、何かしら二人と話をしなきゃいけないこともあるかもしれないな。
今日こそは、あの時の感情の名前がつけられるかもしれないし。
そう思って、毎日関わっている私には、いつの間にか、もう一つの名無しの感情が生まれていた。
それに気づくまで、あと15分。
部活を早めに切り上げた私は、教室に向かった。




