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その10

宮本の謎アピールが豊富な日は、あれ以来ほとんどなくなった。


諦めてくれたようだ。

なんか、俺が偉そうに聞こえるけど、絶対そんなことはない。

奴に俺への好意なんてないんだから。


まぁ、学級委員として毎日一緒に活動してることに変わりはないのだけど。


それよりも、クラスTシャツ製作の方に進展が出てきた。

大野さんが、早くもクラスの女子全員との面談を終えたのだ。


『みんなと話したおかげで、友達増えたよー! うちのクラスの女の子、みんないい子! というか優しい! こんなに陰キャの私と、普通に仲良くしてくれる!』

『楽しく話せたから、描くのも楽しくて、あっという間に終わっちゃった! みんな可愛いのだよ! 自信作!』

『メッセージのやりとりするようになった子には、意外に面白いんだねって言われてるんだけど、なんだかフクザツなのよね。意外にって!』


この通り、ご機嫌なメッセージが飛んでくる程度には、イラストの方は順調だった。


製作の進捗として、大野さんはできたイラストを送ってくれたが、素晴らしい出来である。

デフォルメされた女の子が、それぞれのイメージに合う小物を持っているのだ。

衣装も、部活のユニフォームだったり、制服だったり、コスプレだったりと豊富である。


絶対にみんなに喜んでもらえると確信し、ベタ褒めしていたが、大野さんはこんなことをいいだした。


『あのね、この後、男の子たちが控えてると思うんだけど……私、1人じゃお話できない気がしてきたの』


ほ?

と口から息が漏れた。


『私、思い出してみたんだけど、3年くらい前から男の子とプライベートな話をしたことがなくって、あ、吉岡くんはあるんだけどね!』


だから?


『それで、あの、だからね。話題が、浮かばなくてさ。沈黙になる予感しかしないの! 助けて!』


なるほど……。


まぁ確かに、お互いなに話していいのかわからない状態の異性が2人きりは難しいよな。

というか、女子は全員話せたってのがすごいんだよ。


誰か裏で手を回してたりするんかな。

女子ネットワークみたいな。


いや、それは置いといて。

んー、事情は分かったし、確かに誰かいた方がいいかもなあと思えてきたな。

つっても、その誰かってのを選ぶのがまた面倒だしなあ。


部活とかの予定もあるだろうから、大野さんと関わりのある人間でシフトでも組むか?

そんなことを考えていたら、追加のメッセージが来た。


『とりあえず、明日は高山くんが来て! 一緒にいるだけでいいから! 話が途切れたら進めてもらうだけでいいから! 企画の責任とってよ!』


えぇー。

俺にも部活はあるんだけどなあ。


そんな返信をしようとしたら、宮本からメッセージか来た。


『大野さんが、男子と話をする時のヘルプが欲しいって相談してきたのよ。私は、明日いきなり予定が空けられなかったから、あなたを送ることにしたからね、よろしく』


いやいやいや、ちょっと待って!

大野さん根回しばっちりかよ!


俺だって部活始まって楽しくなってきたとこなのにさ!

いきなり休みは先輩もびっくりするでしょ!


そういった内容の返信をしたところ、即刻返事が返ってきた。


『先輩はOKくれたわ。「学級委員って大変だもんね!」だって。あなたにはまだ仕事がないんだから、心配しなくてもいいのよ』


マジかよ……。


こうして、半強制的に大野さんのお話に付き合うことになった俺だが、ただで引き下がりたくはない。

宮本に恨み言を残すことにした。


『とりあえず了解。でも、恋人が欲しいって鬱陶しかった割に、俺の気持ちは全然考えてねぇんだな。やっぱり、遊び感覚の嘘つきなんだよな、お前も』


そのメッセージに返信はなかった。


俺は少し暗い気持ちを晴らそうと、前向きに大野さんに返信する。


『わかった。行けそうだから手伝うよ。俺は、学級委員だからな。責任取るさ』


明日、大野さんを交えてどんな話をしようかと考えながら、俺は眠りについた。


―――――


翌日。

授業を滞りなく終えた放課後。


大野さんと俺は、面談を始めていた。


最初の相手はタッキー。

やはり、大野さんからしても話しやすいのだろうか。


まぁ、一番手には相応しいよなあと俺も話しながら感じていた。

この男、自分の話をしながらも、絶対に相手のことを立てるように話すのだ。


どう育ったらそんなことができるのか、俺にはわからんよ。


「んで、ここまで色々話してきたけど、俺のキャラ絵は描けそう?」


「は、はい! 結構イメージできてきました!」


「それはよかった! そういえば、みんなキャラ絵は小物を持ってるんだね。これには意味があるの?」


話を始める時に、イメージしやすいように広げた現状のアイデアスケッチ。

そのうちの一つを指差しながら、タッキーは聞いた。


「あ、はい! 私が話してて、感じたこととか、その人が実際に好きなものとか、持ちたいものがあればそれを聞いて、描いてます」


「なるほどねえ。ってことは、希望してもいいのかな?」


「もちろん! なるべく、再現できるように頑張ります!」


俺は、やり取りを聞きながら、俺の存在は不要だったんじゃないかなあと思っていた。

大野さん、敬語抜けないけど、話せてるし。


そんな気が抜けた俺に、タッキーが話を振ってくる。


「なあ、タカリョー、俺がなに持ちたいかわかる?」


「んぁ? いやー、わからんなあ」


「そう? なら、お前だったらなに持ちたいの?」


タッキーは悪戯を仕掛けるかのようににんまりとしていた。

俺は、ちょっと困らせてやろうとこう言った。


「そうだなあ、“青春”かなー」


俺もにやにやしていたのだろう。

タッキーは少し頬を吊り上げた。


「なるほど。俺も片手はそうしよう」


「もう片方は?」


「“剣“だな。カッコいいし、なんでも切れる気がする」


俺はそれを聞き、なんだか子どもっぽいなと思って笑った。

大野さんもそうみたいだ。


タッキーは続けた。


「なんでもってのが大事なんだよ。俺は、自分の障害になるものを全部切れるようなカッコいい人間になりたいんだよ」


「なんだそれ」


タッキーは俺の方にニカっと笑う。


「あ、あの、じゃあ、それで描いてみます!」


「うん、よろしく」


全く、イケメンが言うと、なんか画になる感じがして羨ましいな。


ふいに大野さんは苦笑している俺に向かって、ずいと顔を寄せた。


「それから! 今日はありがとう! なんか、緊張しないで話せた気がする!」


「お、おう。それはなにより」


俺は女の子の至近距離にびっくりして、少し体を引いた。

大野さんは気にせず続ける。


「それでね、あの、よかったら、次からも一緒にお話聞いて欲しいんだけど……ダメかな?」


なんてこったぜ。

正直、俺が役に立った気は微塵もしないけど、こう言われると、“いい人”としては断れない。


結果的に、なんだか曖昧な笑みを浮かべながら、「いいよ」と言うしかできなかった。


「あ、ただ、部活の予定と相談するね」


なんて、かっこ悪い台詞を付け足したし。


だが、その後の男子メンバーとの面談は、やっぱりついていけない部分もあったのか、俺が話を振る場面もそこそこあった。

だから、俺に新しい厄災が降りかかるとは思ってなかったのだ。


*****


「なるほどね、なんとなく話が見えてきたわ」


「見えてきたって、別に何もないだろ」


「いえ、あるのよ。女の子って強いんだから」


「なるほど?」


「教えてほしい?」


「いや、遠慮しておく」


「実はね……」


「話すのかよ……」


「話さないよ」


「話さないのかよ!」


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