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イエンの街について34日目。
宿屋の裏庭、いつもは洗濯物が干されているそこでレンが縄跳びをしているのを眺める。
「19、20、21」
読み書き、計算を教える前段階としていろいろテストしたところ数を数えるとこきにつっかえることもあったので100回を一セットとして数えながら跳ぶように指示した。算数の基礎はとにかく慣れることだ。
縄跳びで鍛えることに関しては紆余曲折の結果だ。子供のうちに筋肉をつけるのはあまり良くないと聞いた気がする。次に考えたのが体力をつけること。これなら、子供のうちから始めても問題はないだろう。
体力をつけるにはランニング!と、考えたのだが残念ながら子供一人で街中を走らせるには治安が心配だった。それに、自分も一緒に走るとしても街中でランニングをしてる人間を見たことがなかった。自意識過剰と言えばそうだが他人と違った行動はどうしても目立つ。
そこで思い立ったのが縄跳びだった。体力もつくし、ジャンプするんだから体幹も鍛えられるだろう。
「33、34、35」
ここまでのトレーニングでレンの縄跳びもかなり成長している。100までなら間違わないで数えられるようになった。読み書きも読みの部分はある程度出来ていたので文字を書けるようになるのも時間はかからないだろう。あとは、引き算、足し算、掛け算、割り算の四則演算を教えればいいだろう。
魔物との戦闘も成長している。最初から生き物を殺す覚悟は出来ていたようで萎縮して動けなかったり、攻撃を躊躇することは無かったが焦りすぎて攻撃を外したり、刺す場所が悪くて一撃で殺せないなどのハプニングが何度もあった。それでも、諦めずに繰り返した結果、攻撃を外すことは無くなり、ほとんどの場合一撃で仕留めることが出来るようになった。これでレベルが上がれば一角ウサギの突進を防ぎ、倒すことが一人で出来るようになるだろう。
「64、65、66」
と、レンに関しては順調ではあるのだが一つ問題が発生している。
お金が心もとない。
レンの衣食住全てを支払ってもウサギ狩りの戦果が上回るのだがレンの装備や生活必需品など想定以上にかかってしまった。
このままの生活を続けていても収支はプラスな上にレベルが上がれば安全度も上がる。焦る必要は皆無なのだが……。
街の外での狩りではこれ以上の収入は望めない。外で一番稼げる相手で一番数が多いのが一角ウサギである。ただし、多いといっても一時間に一匹遭遇する程度だ。強くなっても安全度は上がるが討伐できる数は多くはならない。
……嘘だ。それは早めにダンジョンに行きたいと思っている自分に対する言い訳だ。目標はダンジョンにある。なのでいろいろ言い訳を考えてダンジョンに行きたい自分がいる。ただ、それでレンの安全が不安定になるかもしれない。
思考が堂々巡りしている。決めることがなかなか出来ない。
「近いうちにダンジョンにも行ってみようと思うがどうだ?」
「俺も行っていいの?」
縄跳びをやめて、こちらを向きレンが返答する。
そうか。レンを留守番にするという選択肢もあるな。そもそも、ダンジョンの情報は大雑把にしか知らないし、もう一歩踏み込んだ情報が必要か……。
「レンはダンジョンについて何か知ってるか?」
「お金を稼ぐならダンジョンの浅い階層より外の方が稼げるらしいから」
以前の食うや食わずなレンの状況ならお金を稼ぐのを優先するのは当然の選択だ。そして、浅い階層は稼げないらしい。相談は大切だと改めて思い知る。
「ダンジョンにレンを連れていくかどうかを考えるにもダンジョンについて調べてからにする。組合に行くけどレンも行くか?」
「うーん。いいや。いきなり話かけて来たから何回跳んだかわかんなくなっちゃったし、もうちょい縄跳びしたいし」
「わかった。そこまで遅くはならないと思うが夕飯までに帰ってこなかったら先に食べといていいからな」
遊具が乏しい世界では縄跳びでも面白い遊びになるのかもしれない。帰ってきたら片足跳びや二重跳びなど見せるのも喜んでくれるかもしれない。
少し、口角が上がるのを感じながら冒険者組合へと向かった。