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「クラスに関しては以上だ。次はスキルに関してだな。簡単に説明はしたから今後の具体的な話をしておきたい」
「クラスとは別に覚えられるやつだよね?」
シャールさんの言葉に頷く。
「クラスは違っても似たような効果を持つスキルを取得することは分かっている」
「儂にはそのスキルって言うのがいまいち理解できん」
「取得したら効果も含めて理解しやすいんだけどな……。そこでスキルを取得してもらうための具体的な話をしたいと思う。レンとルーテアにも関係するからな」
レンとルーテアには今更な話で退屈させてしまったかもしれない。それでも文句も言わずにしっかり聞こうとしている姿勢は素直に偉い。
「スキルは行動を強化、補助してくれる効果がある。そして、スキルはその行動をすることで取得することが多い。特に意識すると割と取得できる。ダンドンもシャールさんも鍛冶やアクセサリーを作るためのスキルが欲しいとは思うが最初だから俺たちみんなで『鑑定』というスキルを取得しようと考えている」
「鑑定ですか?」
みんなの表情を伺えば生産に関わる三人は鑑定の言葉自体は知っていて、レンはピンと来ていない感じだ。薬師や鍛冶師などの生産者にとっては身近な言葉かもしれないが生産に縁遠い人にはちょっと耳慣れない言葉ではあるからな。
「鑑定って言葉はどういうことか知っているぐらいの理解でいい。具体的には……」
手荷物から小型のナイフを取り出す。それを皆に見えるように持ってレンに問いかける。
「レン。これは何でしょうか?」
「ナイフ」
「鑑定成功だ」
「馬鹿にしてる?」
「馬鹿に何かしてないしてない。もし誰かがこれを手にもって襲ってきたらナイフに注意して当たらないようにするだろ?ナイフを知らないやつがいたら全然警戒しないかもしれないし、逆に警戒し過ぎるかもしれない。その危険性と脅威度を大雑把にでも判断できるなら『鑑定』と言っていいと俺は思う」
ちょっと不満げな顔ではあるが言いたいことは伝わったと思う。あとはレン自身が考え、定義付けするだろう。
「ちなみに、ダンドンならどう鑑定する?」
「そこそこの素材をそこそこの鍛冶師がとりあえず作った量産品だな。……戦闘に使わない物でも手入れはきちんとしろ」
「はい。すいません。気を付けます」
「……お前さんの言う鑑定については分かったが鑑定は結局、知識と経験で成り立つもんじゃ。スキルとして取得したとして意味はあるのか?」
「俺が取得したスキルに『警戒網』ってのがあるんだが目には見えないはずの距離まで敵がいるかどうか分かるようになった。つまり、スキルを覚えることによって知覚が増えたんだ。そして、よりよく鑑定しようとするならその物品をよく知る必要が出てくるから、」
「それを覚えればおのずと見えるものが増える。……目をつぶって鑑定するより目をあけて鑑定した方がよい。道理じゃの……現状の方法以外に物を『見る』手段が増えれば自ずと鑑定以外にも役に立つか」
「そういうことだな」
ダンドンの納得に大きく頷く。スキル取得に関しては想像力が大きな要素だと考察している。『警戒』のスキルは俺とルーテアが取得しているが『警戒網』は俺しか取得していない状況だ。ルーテアにはスキルの説明はしたのだが取得できていない。
俺はゲームなどで画面の中にマップが表示され、そのマップ中に敵がシンボルとして表示されるのを実際に見て、利用した経験がある。それが俺とルーテアの差であり、『警戒網』の取得が出来る出来ないの差に繋がったと推察している。
拒絶されたり、想像できなかったりしたら取得は困難になる。ここからの説明は更に慎重にしないといけない。幸い、シャールさんは興味深そうに目を輝かせて話を聞き、ダンドンの発言は懐疑的な言葉ではあるものの実際には俺の言葉を理解しようとしての言葉だと思う。
つまり、二人の心構えは十分以上であり、俺の説明で想像できるかががスキル取得の分岐点になる。責任重大で気が重いが二人のためにも俺たちのためにもここが踏ん張りどころだ。
「『鑑定』と一言でまとめたけど俺が思いついたやり方は二つ。一つ目は魔力を見ることによって今まで以上に詳しく知ること」
「魔力を見るですか?」
「ああ。表現しずらいんだが殆どの性質は魔力が関係していると思う」
俺はここより科学が進んだ世界を知っている。その世界から見て俺自身の身体能力はその世界の常識からは乖離した能力を発揮し始めている。その要因は何か?色々考えたが単純に魔力ではないだろうかと。
これと言った動力源も無しに触れるだけで様々な現象が発動する魔道具。意思の力で発動する魔法に驚異の速度で傷を治す回復薬。科学が席巻している世界では説明できない事柄に共通するキーワードは魔力である。であるならば、その魔力を解析することで科学を基礎とした常識を超えた部分の理解ができるのではないかと考えたのだ。
「だから、魔力を見ることによってより深く素材を見て、素材にどう作用しているかをより深く知って、他と比較、区別出来るようになれば『鑑定』を取得したと言えるし、その過程こそが生産技術を高まるとことに繋がるはずだ」
……正直、俺自身に魔力が見えたからといってそれを介して性能までもすぐに理解できるとは思えない。可能性としては相手の魔力の量を見て強さを測ったり、警戒すべき箇所を発見したり、自分の魔力の流れを意識する手掛かりにするなどの『鑑定』の手前ぐらいが精一杯だ。……出来ること多い上に出来ればかなり有能だ。やはり、生産職でなくとも取得出来るように努力はすべきだ。
「二つ目なんだが、アカシックレコードからその知識を引き出すことだ」
「アカシックレコード?」
シャールさんの疑問の声に一度頷く。
「世界は過去から現在に繋がっている。そして、人や動物、石や炎。色々な物が生まれて死んでいくけど世界は変わらずに今もある。それならば全ての物はその誕生から今までが世界に映り、それを読み取ることが出来ればそれが何なのかを知ることができる」
ダンドンが苦虫を嚙み潰したような顔になっているがそれには俺も共感ができる。自分で言っていてなんだが、何を言ってんだコイツ感が凄い。そもそも、アカシックレコードという言葉自体は知っているのだが本来の意味やら由来やらを俺は知らない。ふわふわとしたイメージでアカシックレコードの言葉を選択して、これならつじつまが合うんじゃないかと思った物をでしゃべっているのだから。
それでも『鑑定』が出来る根拠にアカシックレコードを持ち出したのはアカシックレコードを根拠として『鑑定』出来るようになればその『鑑定』は魔力を見る『鑑定』強力なスキルになると思ったからだ。魔力が見える『鑑定』はそれなり以上に習練が必須となる。慣れないうちは『鑑定』の質も低いだろうし、初見の物は無理かも知れない。間違うこともあるだろう。どこまで行っても個人の技量によるスキルに過ぎない。
だがしかし、万が一にもその物体の全てを世界から読み取ることが出来るならそれは世界が担保した『鑑定』となり得るのではないだろうか。
出来る出来ない、取得出来たとしてそこまでの壊れスキルになれるかはこの際脇に置いて、試す価値は大いにあるだろう。
四人の顔を改めて見る。
ダンドンは相変わらず苦虫を嚙み潰したような表情で無理だと判断。ダンドンは良くも悪くも常識人だ。この反応が普通に違いない。真剣な表情で頷いているシャールさんが例外だ。この純朴さというか無垢さは、詐欺やら誘拐やらされそうで心配になるレベルだ。
ついで、レンとルーテア。ルーテアの表情は困惑だろう。ルーテアは素直ではあるが地頭がいい。理屈がかっとんでいてどうやっても納得出来ないのだろう。レンの表情は……俺のセリフが抽象的過ぎて理解できてないな。このとんでも理論の『鑑定』を取得できるとしたらレンだと思っていたのだが……ダメもととは言えここは頑張りたい。
嚙み砕いた言葉にするために貴重品を入れている革袋から隻眼狼のドロップ品を取り出す。そういえば、これがどういった物か聞くことも目的の一つだったなと思い出す。
「例えば、この戦利品だけどこれが何から取れた魔晶か俺たちは知っている。何故なら戦って、倒して、これを拾ったのが俺たちだから。特殊な魔晶はその魔物にちなんだ力を持つらしい。それなら、その魔物が生まれてどう戦って生き残ったかを知ればこの魔晶がどんな力を持っているか解かるかもしれない」
通常の魔晶は石炭のような鉱石である。ただし、ごく稀に石炭の様な何の変哲もない魔石とは異なる特殊な魔晶が落ちることがあるらしい。様々な魔物から落ちることがあるらしく魔物によって形は様々だが一目で解かると冒険者組合の蔵書には記載されていた。
所謂、レアドロップなのだろう。そして、レアドロップはレアドロップのお約束として特殊な力を宿していると。ダンドンの要求素材リストにはなかったがレアドロップならばまずはダンドンに見てもらうのが筋だろうと持って来ていたのだ。
「すべては世界からうまれるのならすべては世界にかえっていく。すべては世界にふれていて、常によりそうならばすべてを見てきた世界にきけばいい。……それを『鑑定』」
シャールさんが突然しゃべり始める。焦点が定まらないように見える目をこちらに向け、指をさした先は俺が持っているレアドロップの隻眼の狼の魔晶。誰もが反応できない中、シャールさんが更に言葉を紡ぐ。
「餓狼の唯一球。それは底の抜けた器の破片。飢えに蝕まれたゆえにただひとつ。それでも食うため襲い、罅割れ、零れ落ち。何をも顧みない純粋な飢餓は残された眼差しを捕食される側であることを知らしめる」
鑑定したの?