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場所は引き続きシャール、ダンドン宅。メンバーは俺、ダンドン、シャールさん。追加メンバーとしてレンとルーテアが加わった。昼食前に一通りの説明は終えることができたのだがシャールとダンドンの食いつきがよかった。結果として昼食の後にここで話の続きをしろとなったのだ。
ちなみに、情報を知ることで危険になる可能性に関しては逡巡することなく問題ないと一蹴された。職人にとって知識というのは危険を孕んでいて当然だという。確かに職人にとって知識は直系の子や限られた弟子にしか伝えないものであり、そこに大きな価値が出来るのであろう。大きな価値が出来ればそれを得ようと動く者が出るのは自然な流れだ。ひょっとしたら俺より知識を得るための覚悟はできているのかもしれない。
「改めて俺たちの自己紹介しよう。俺はユウジ。レベル9で前衛。壁として敵が後衛に行かないように止めて、余裕があったら頭数を減らすような立ち回りをしている。現状はパーティーに対して指示を出したり、敵の接近を知らせるもしている。今後も前衛で壁役、攻撃役をやっていくと思うのでその方面に能力を伸ばしたい。以上」
宿屋から購入してきたおやつをテーブルに並べ終えると口火を切る。目線で次はレンの番だと伝える。
「俺はレン。レベルは8。前に出て剣で戦ったり、後ろから魔法で攻撃したりしてる。荷物は基本的に俺が運んでる。今の目標は剣でユウジから一本とること。以上」
元々、物怖じしないタイプだから自己紹介もバッチリである。最後はルーテアの番だと視線を送る。
「ぼ、僕はルーテアです。レベルは10です。剣で戦う練習もしているけど後ろで弓を撃つ方が得意です。薬の調合もしています。回復魔法を使えるようになりたいです。以上です」
人見知りするタイプだが賢いし、言葉遣いも丁寧なのできちんとこなしている。
「追加の紹介だがこの三人でイエンダンジョンの地下三十階を目指している。現在は地下二十階を突破するために11階から15階で探索中だ。レンとルーテアもウサギやらゴブリンなら接近戦でも負けないからそこは安心して欲しい」
ダンドンはもちろん知っているので驚きはしないがシャールさんは率直に感心しながら驚いてくれる。低階層冒険者とはいえ年若い二人が遠距離に加えて近距離でも戦えるのは珍しいことで才能を感じるのだろう。
「まぁ、両方とも知っとるだろうが鍛冶師のダンドンだ。武器と防具に関しては面倒をみてやるからレベル上げは頼んだぞ」
ダンドンもこちらの自己紹介に続く。ダンドンが言ったように俺達もシャールさんも知ってはいるがシャールさんが自己紹介をしやすいように空気を読んでくれる。
「あ、あ。シャール……です。細工師で、細工が上手くなるようにレベルを上げたい」
「細工師って何やるの?」
レンが物怖じせずに質問する。俺もちょっと気になった。
「鉱石や魔石を使って指輪や首飾りとかの装飾品を作るの……」
シャールさんの視線がダンドンに向けられる。それに答えるようにダンドンが頷く。どこまで話すかは事前に二人で相談していたのかもしれない。この世界では情報は秘匿するのが当然なのだからそれを開示するには大きな不安があるに違いない。
「今はまだ出来ないけど、作った物に特別な力を宿らせるようになりたい……です」
「装飾品の魔道具ってのがある。ただし、これを作った奴ってのがいるのかどうかすら分からん。普通はダンジョン産だとみんな思っとる。姉貴はそれを自分で作り出したいと努力しているが糸口すら掴めない状況じゃ」
シャールさんの言葉をダンドンが捕捉する。なかなかハードな夢を持っているらしい。個人的には特殊な補正を持つアクセサリーを作り出せる職業があるなら作り出せるのではないかと思う。
「自己紹介ありがとう。シャールさんとダンドンにはクラスやスキルの説明はある程度したからシャールさんの目標を達成出来るような具体的な話から始めよう。レンとルーテアには悪いが」
レンとルーテアの了承の返事を聞き、期待で輝くシャールさんとダンドンに向かって説明を開始する。
特殊な装飾品を作り出せるクラスがあれば特殊な装飾品を作れるのではないかと言うこと。そのためにはクラスを得るためにいろいろなことを試して条件を探っていかないといけないこと。個人的な考察だがと前置きをして、特殊な装飾品を作るクラスがあるのなら魔力が必要になるのではと。
それに対して、現状のクラスを確認が必要でないかと初歩的な意見を言われたり、魔力を得るためにどうするかなど話し合いが行われた。二人とも真剣に聞き、質問をしてくれているので俺の常識外れの話をとりあえず信じることにしてくれたのだろう。それなりの付き合いだが偏屈なダンドンが信じてくれたことは素直に感謝だ。
「クラスを調べる方法については一旦、そっちに任せていいんじゃな?」
クラスに関しての最初の一歩は自分のクラスを把握する手段を持つことだ。俺を含めてレンとルーテアなら冒険者組合の証明印があるので『ステータス、オープン』で容易に確認が可能だ。
冒険者組合に登録なしで調べるのは最終手段にして欲しい。ダンドンとシャールさんの要望だ。冒険者組合の登録には『スタンプ』の魔法で手の甲に刺青のようなものを刻まれる。冒険者になるのは基本的には職にあぶれている人だ。例え、冒険者に隔意が無くても職人として稼ぎ、生活している二人にはそれはできる限り避けたいのは理解できる。
「ダンドンの父親や兄達には冒険者組合の証明印はなかったんだろ?それなら、他に手段があるんだと思う。再度確認だが俺達がお世話になってる冒険者組合の職員には相談していいんだな?」
「まぁ、背に腹は代えられん。お前が保証するなら許可しよう」
イヴさんには毎度毎度頼ってしまって申し訳ないが今回も相談に乗って貰おう。……近いうちに何かお礼をしないといけないな。