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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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16-4

「あーーーーあぁーーーー」


宿屋の自室、ベッドの中で伸びをすると強張っていた筋肉が伸びる気持ちよさに思わず声が出る。隻眼狼との死闘が数時間前なのだからいつもより筋肉が強張っていても仕方がない。明日は間違いなく筋肉痛だろう。


噛みつかれた左手を眺める。複数個所のかさぶたと打撲のため少し黒くなっている程度である。念のために購入したポーションを使ったのだがこの様子だと跡も残らずに治るだろう。ポーションは瞬時に治るタイプではなく、少しづつ時間をかけて治るタイプらしいのだがこの短時間で治るのは驚異的である。


あと、破傷風などの感染症を心配したがダンジョン内の魔物は種族として毒を持っていない限り、感染症などは発生しないそうだ。ただし、ダンジョンの外に発生した魔物は感染症を引き起こす事例があるらしくその差異は不謹慎ながら興味を引く。


隻眼狼の牙が小手を突き抜けて皮膚に当たり、穴が開いて見た目的にはそこそこに出血していた。自分的には包帯でも巻いていれば大丈夫だと思ったのだがレンとルーテアがその出血から有無を言わさすに虎の子のポーションを使用してくれたのだ。


今になって考えるとあと少しとはいえ帰りに戦闘が発生する可能性もあったのでポーションを使った判断は間違いなかっただろう。自分のことになると勿体ないと考えてしまうのは反省しなくてはならない。


反省と言えば今回の『傷有り』との遭遇は今後の行動指針として生かさなくてはならない。


良い点としては、槍のサブウェポンとして切れ味を重視したナイフを準備したこと。嫌狼玉を用意していたこと。ポーションを用意していたこと。革製の小手から金属製の小手に変更したこと。もし、革製のままだったら腕に少し穴が開く程度ではすまなかっただろう。


他には『傷有り』の情報を事前に知っていたのも大きい。それで多少なりとも心構えが出来ていて、肉を切らせて骨を断つような作戦もスムーズに実行できた。


こう考えているとやはり俺の長所は「こういうこともあろうかと」の精神で事前に備えることが出来ることだ。装備や道具、知識に心構え。


レンとルーテアにイメージを使っての戦闘能力向上を打ち明ける。今日は俺が怪我をして、いつもは分担している仕事を二人で回しているので忙しいが明日なら時間がとれるだろう。


年若く、女性であろうがダンジョンに入ってしまえば命の危険は常にまとわりつく。今回のように問題なく探索できている階層でも『傷有り』と遭遇してしまえば命をかけた戦闘になる。他にも危険は数限りなくあるだろう。


今回のように俺の手が届かないときだって絶対にある。その時になって後悔するなど許容できない。そもそも、彼女達は保護対象であるだけではなく仲間なのだ。自分たちの意思でダンジョンに挑み、隻眼狼との戦闘でもその決意が強固であることを示した。


そう結論付けるとここ最近の悩みが片付き、心が軽くなるのを感じる。そうなって次に脳裏に浮かんでくるのは隻眼狼との戦闘での心の変化だ。


「生きたい」


戦闘に集中していた思考の外で渦巻いていたのはそのような言葉で表現できるモノだった。「死にたくない」ではなく「生きたい」だった。この微妙なニュアンスは人に説明出来そうにない。むしろ、自分自身でも語言化できる気がしない。


それでも、明確に異なる変化。少しの変化であるが気分は非常にいい。これが過剰に掛かったストレスへの生理的な順応機能だったとしても気にならないぐらい清々しい。


俺はこの世界で生きていこうと思う。


口の端が自然に上がってるのに気づいて声を出して笑いたくなったが今日は心底疲れていて、そのまま瞼が落ちるのに任せて、意識がゆっくりと沈んでいった。

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