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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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16-1

地下11階への初挑戦後も探索は順調に進んでいる。三人といういささかパーティーとしは少ない人数ではあるが灰色狼などとも問題なく戦えている。より深く潜るためにダンジョン内で一夜を過ごす計画も準備段階に入った。


地下11階からは地下1階から地下10階とは異なり、中間に当たる地下15階にはボスは存在せず他の階層と同じような森林フィールドが広がっている。そこで問題になるのがエレベーターが存在しないことだ。


地下11階から地下12階へ降りるために2時間かかるとしたら、地下20階までには16時間かかる計算になる。休憩なしのノンストップで16時間進んでボス戦というのは普通に考えて、選択肢としては無い。強行軍で二日、ある程度余裕をもって三日の計画が妥当だがその結果としてダンジョン内での睡眠時間が発生する。これもネックになっていて、イエンダンジョンの冒険者は地下11階より下の階にはほとんど探索へいかないのである。


ただし、俺たちの目標は地下30階にある回復薬である。地下20階への準備というのはそういうダンジョン内での睡眠を含めた休憩時間を経験するためにまずは一日だけ野営をしようということだ。


探索は順調だ。……が、イメージを使っての戦闘力向上を二人に伝えていない。


原因としては、いろいろ挙げることができるがその根本はこの危険な可能性のある橋を二人に渡らせていいのかという迷いである。二人とも強くなるこに対して乗り気ではあるのだが……危険性を説明する段階までも進んでいない。


現状で戦闘は安定していることがそれに拍車をかけている。装備の更新を行えば安全性は上がる。パーティーメンバーを増やせば安定感はます。戦闘能力を上げ得る手段が他にもあるのも悩む原因になってしまう。


自分でもこの堂々巡りは不味いと分かっている。一応、俺自身はイメージを使っての戦闘能力向上を実験的に行っている。高速思考を身に着けてしばらくたったが体の不調はない。今、行っている実験で問題が無ければ二人には危険性を含めてこのことを打ち明けようと区切りを決める。




そう決意して、いくらか過ぎた日。探索練習として地下12階まで進んだ帰り道。地下10階のエレベーターまで一踏ん張りという位置で『索敵網』の端っこにモンスターの反応。それはこちらに向かって真っすぐ向かってくる。


「敵察知。6時方向」


『探索網』の外からこちらを探知して向かってくることやその移動速度から灰色狼だと思われるが……反応は一体だけ。今まで灰色狼が一体で現れたことはない。わずかな違いだがその違いが言いようもない不気味さを与える。


「反応は一体だけ。灰色狼の可能性が高いが違う可能性や一体以外は探索網に反応が出てない可能性もある。正面以外にも十分に注意」

「了解」「おっけ」


迎え撃つ形に陣形を整えながら、思いつく可能性を二人に伝える。


陣形を整えてしばらくすると視界の先に灰色狼が現れる。それが視界に入った瞬間に全身に鳥肌がたつ。ある程度、離れているにもかかわらず後ろの二人から小さな悲鳴があがるのが聞こえる。


あれはやばい。


何とも語彙力のない表現だが視界に入ったと同時に沸き上がった素直な感想である。姿、形こそ少し大きい灰色狼だが恐怖の感情が足元から這い上がってくるようだ。


こちらが気付いているのに気付いたのか視界の先の推定灰色狼がスピードを落とす。普通の灰色狼ならこちらが気付こうがお構いなしに一直線に襲い掛かってくるのだが……。


二人に指示を出そうとするが息が乱れていて声が出ない。それに気づくと自分の足が震えているのことにも気づく。あまりのビビり過ぎに自分で自分を笑ってしまう。


無理やり鼻から息を吸って、小さく長く口から息を吐きだす。スピードを落としてくれたおかげでそれだけのことが出来た。感謝しよう。


「レン。ルーテア。背中を向けないように後退りながら逃げろ」


後ろの二人にそう告げる。だが、二人からの返答はなく荒い呼吸音だけが聞こえる。先ほど聞こえた悲鳴と先ほどまでの自分の心理状態を考えると恐怖で身動きも取れない状況だと想像がついた。


推定灰色狼がスピードを落としてくれているとはいえ、逃げるなら少しでも早い方がいい。焦燥の中、敵を目の前に後ろを振り返ることもできないのでもう一度、指示を出そうと口を開きかけて。


「いやだ。俺は逃げない」

「レン?」

「ユウジを置いて行くことはしない。俺は強くなるって決めたんだが。これぐらいのことで逃げたりなんかするもんか!」


声が震え、荒い息で途切れ途切れだがレンが言う。聞き取りずらいが俺はしっかりと聞いた。


「僕も、僕も逃げません。師匠を助けるためには命をかけるって決めたんです。ここで逃げたりしたら絶対に薬を取りになんていけません」


ルーテアも決意を告げる。言い終わったあとも二人の荒い呼吸音が聞こえる。悲鳴を上げるほど怖いのに。今も呼吸が乱れるほど怖いのにそれでも二人は戦うことを選んだのだ。残念ながら二人の顔を見ることは出来ないが、それでも二人の浮かべているであろう表情が脳裏に浮かぶ。


ここでへたれては大人が廃る。足を開き、腰を落とし槍を推定灰色狼に向けて構える。いつもより硬い感じがするが動き始めれば誤差の範囲内だろう。


俺が死んだら、二人も死ぬだろう。そうなったら死んでも死に切れん。無理やり笑顔を作る。笑えるうちはまだまだ大丈夫だ。上手く笑えているかは分からないが……必死に戦わせてもらう。


目測で10メートル先で立ち止まった推定灰色狼へ心の中で宣戦布告する。

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