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イエンの街について14日目。
嬉しいことになかなか順調な日々を送っている。
その一つがこの武器屋。
「これだ」
カウンター裏の工房から出てきたのは、子供ぐらいの背丈の顔面のほとんどを髭で覆われた男。ただし、子供ぐらいの背丈といっても肩幅、胸板など体全体に厚みがあり目力と相まって迫力が凄い。
その見た目のまんまファンタジー物でお馴染みのドワーフである。見た目だけでなくこちらのドワーフも創作物に語られるドワーフ同様に物造りに精通しており、帯刀していた剣がきっかけで武器の手入れや相談などに乗ってもらっている。
そんなドワーフの男、ダンドンが持ってきたのは鋼製の穂先に木製の柄という普通の槍だ。穂先部分も柄の部分も普通の素材だが柄の部分を長目にして、少し削って細くしてもらった。
「お前は力があるからな。次は柄も全て鋼製にして、槍頭は側面を刃にしても面白いかもしれん」
「確かに頑丈にはなるし、攻撃手段も増えるけど重すぎて扱いきれない気がするぞ」
「……さっさとレベルを上げろ」
「そういえば、この前レベルが上がったな」
「ほう……」
「聞いてはいたけどあそこまで分かりやすいものなんだな。ただ、あまり変わった気はしなかったが」
説明するのは難しいのだが、体の内側から熱が沸き上がる感じがしてレベルが上がったのは即座に分かったのだが、実際に力が増したり、早く動けるようになったとは感じなかった。ただ、冒険者組合のカードがレベル1からレベル2に変更されていたので間違いはないだろう。
「まぁ、何事も一足飛びに変化したりはしないものだ……例外もあるがな」
ダンドンが少し遠い目をする。その目を見ていると何故か背筋がむず痒く感じる。
「その槍は剣と違って『状態保持』の魔法はかかってないから使い終わったら汚れを落として油を薄く塗っとくぐらいはしとくんだぞ。あとは一カ月に一回。違和感があったらすぐに持ってこい」
「ありがとう。助かるよ」
ダンドンの店を出て中央の広場に向かう。宿に戻るにはまだ早い。個人の出している品物を見ていると見知った姿を見つける。小柄な体系にところどころつぎはぎされたシャツにズボン。明るい茶色の髪は肩を通り越し背中の方まで伸びている。軽いくせ毛なのか毛先が跳ねている。売り物として並べられている武器を真剣な目で見ている。
「レン。何か探してるのか?」
「ユウジ!!」
こちらに気づかないくらい集中していたようで、声をかけると驚いてこちらを振り向く。そのまま、武器と自分に交互に視線を向ける。
「……ユウジ。話したいことがある」
「周りに人がいない方がいいか?」
いつもはこの広場で屋台の物を食べながら話をしていたが、真剣な表情に感じるものがあり、訪ねる。
小さく頷くレンを見て勘が当たったことを確認し、
「俺の泊ってる宿の一階が食事できる場所になっている。そこでいいか?」
「うん」
いつもとは打って変わってレンは無言のまま隣ではなく、一歩後ろをついてくる。
話の内容はある程度想像がついている。話の着地地点がどうなるかは分からないがこちらにもあちらにも得るものがあればいいなと思う。
宿屋の主人はこちらに気を使ってくれたようで注文した飲み物を出すと厨房の奥へと引っ込んでいった。
対面に座った緊張のためもじもじとしているが、レンの目を見て話しだすの黙って待つ。
「あー、ユウジあのな……俺がウサギ狩りする方法なんだけど……そのな……仲間と一緒だったら狩れると思うんだ」
「いい考えだ」
古代より囲って棒で殴る以上の戦術は発見されていないとか何とかの言葉があったはずだ。レンと同程度の戦力だとしても一人が回避に専念して、もう一人が攻撃に回れば勝てるとは思う。事故が怖いし、いろいろ問題点もあるが。
「……ユウジの仲間にして欲しい」
そうなると思っていた。
ここ10日前後、組合に紹介されて戦闘パーティーを組んだり、荷物持ちを雇ったりしたが断トツでレンが優れていた。荷物持ちに関しては子供が多かったので仕方がない部分もあるとは思うがパーティーメンバーに関しては事前に戦闘能力より人格面を重視する旨を組合に伝えていたのだが。
レンもそこの中からパーティを組むのは躊躇したのだろう。
なのでこの提案は渡りに船ではあるが、それでも即決するわけにはいかない。
「俺と仲間になったらレンは得すると思うが俺の得はあるのか?」
「……ユウジが冒険者が出来なくなったら俺が養ってやる」
「……は?」
こいつは何を言ってるんだ。
普通に荷物持ちとして頑張るとかでいいと思っていたのだが予想外過ぎる返答が来た。
というか、俺を養う?
言葉の意味が染み込むにしたがって何か変な笑いがこみあげてくる。
「くっ……くふぅ」
「何笑ってんだよ!!」
レンが顔を真っ赤にして怒鳴る。目尻にちょっと涙が浮かんでいる。
「すまん。ちょっと、待ってくれ」
笑い声が上がるのを我慢してどうにかそれだけを伝える。
苦々しい顔でそれでもこちらの笑いが治まるのを待ってくれる。
「凄い考えたのに……」
「いや、本当にすまん。かなり予想外だったからな。というか、そこまで言ってくれたのには感謝する」
流石に失礼すぎたので頭を下げる。
レンは仏頂面のままだがある程度は許してくれたようだ。
「……で、どうなんだ」
「ああ、問題ない。これからよろしく頼む」
「ユウジ。よろしくな!」
差し出した右手を素早く掴み、強く握ってくる。前回と同じ満面の笑み。
もう少し聞きたいことがあったがさっきの返答とこの笑顔では言いずらい。