15-1
場所はイエンダンジョン10階。今回は地下11階への挑戦のためエレベーターで直接降りてきた。そのため魔物の姿は無く、気兼ねなく最終確認ができる。
「装備確認」
レンの声が広い空間に響く。新調した武器防具は無いがこの日のためにダンドンに点検整備を行って貰っている。槍と剣に刃こぼれは無く、心なしかいつもより冷たい鋼の輝きがさえている。小手やブーツなども含め衣服にも破けたり、解れた部分は見当たらない。
「問題無し」
レンも含めた三人とも同じ言葉を返す。
「手荷物確認」
ルーテアの声が響く。それぞれがそれぞれの手荷物を確認する。サンドバッグのような筒形バッグの一番底には水と携帯食料。念のため二日分を用意している。今回はそれに加えてチーズとハムのサンドイッチも作ってきた。ダンジョン探索の最大の楽しみは食事だ。初めての階層なのだからいつもより少し上等な食事で肉体的にも精神的にも癒されて欲しい。
その他には着替えや傷薬、ライターのような火をつけるための魔道具などが入っている。そして、ベルトに取り付けたポーチには外傷用のポーションが一つあることを確認する。最低ランクではあるが正真正銘の魔法のポーションであり駆け出しパーティーにとってはなかなかのお値段であった。地下11階に挑戦するにあたって新しいメンバー加えられなかったため、保険とお守りを兼ねて購入に踏み切ったのだ。
新しいメンバー、可能ならば前衛の冒険者をパーティーに受け入れたかったのだが見つからないまま時間が過ぎた。正直、見つからないのは覚悟していた。
この世界ではほとんど見かけない清楚系そのものの柔らかな雰囲気に猫の可愛らしさを持ったルーテア。食事の改善により、肌や髪の艶がよくなり、衛生観念を教え込むことで身綺麗になり始め、貧困に埋もれていた外面の良さが表に出始めたレン。
美形が妙に多いこの世界においても美少女と呼んで差し支えない二人がいるパーティーに男を入れるのはなかなか難しい。それに加えておっさんがリーダーという状況が女性の加入を躊躇わせる。一定以上の実績がある女性冒険者なら普通は選ばないし、下心があるなら駆け出しパーティーは選ばない。
と考えていたがそれでも男女ともにパーティー入りを希望する人がそれなりにいた。ダンジョン未探索の人間でも人柄が良ければ時間とお金をかけてもいいと考えていたのだが結果は現状が物語っている。
時間は有限である。二人と相談して新人用に貯めていたお金でポーションを購入して三人で地下11階に挑戦することに決めた。三人で地下11階に挑戦することは二人ともすんなりと受け入れてくれたがポーションを持つ人物は二票の投票により俺になってしまった。
「問題無し」
手荷物に関しても三人とも問題がないことを確認した。ついに地下11階に挑戦することになるのだが返事の後も二人の視線がこちらに向けられたままである。
「何かカッコいいの言わないの?」
見つめ返しているとレンがそう言ってくる。その傍でルーテアもこくこくと頷いているのでレンと同意見なんだろう。やる気を出してもらうためにたびたびそれらしいことを言ってはいたが改めて言われるとそれなりに恥ずかしい。しかし、こちらはいい年したおっさんだ。恥ずかしさが表に出ないように頑張って即興の言葉を紡ぐ。
「これから地下11階に挑戦することになる。調べた範囲では普通のパーティーは4、5人で探索するのが普通らしい。……残念ながら4人目、5人目の人員は見つからなかったが事前に情報を集めて準備も進めてきた。その間もダンジョンに潜って、訓練も重ねてきた。レンは魔法の威力が上がっただけでなく剣を使った近接戦も頑張った。ルーテアも魔法の練習に色々な調合と頑張った。魔法の方は残念ながら間に合わなかったが調合で作ったオオカミ除けの煙玉はいざという時の切り札にもなる凄い道具だ。今の俺たちなら簡単とは言わないが必ず上手くいくと俺は確信している!」
言い終わって二人の反応を待つ。
「ユウジがたまに言う百点満点中何点っていうのに言い換えると四十点くらいだな」
ルーテアも困った顔をしているがフォリーが無いことからレンと似たような点数なのだろう。
「うーん。厳しい!次回は頑張ります」
「そうするように!……まぁ、でもちょっとドキドキするのは落ち着いたかな」
そう言われると少し前のレンの表情はこわばっていた気がする。それが今の表情は宿屋内で見れるほどではないが柔らかくなった気がする。ちなみに、レンの隣のルーテアはこくこくと頷いて同意のリアクションを取っていたが元から緊張していたようには見えなかったぞ。
「そう言ってもらえれば俺的には百点満点中百点だよ。……よっし!じゃあ、気合い入れて怪我しないようにダンジョン探索頑張るぞ!」
「おう!」
「はいです!」
二人の返事を聞いて改めて地下11階に降りる階段へと歩き始める。