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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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挿話 ルーテアと休みの日

あくびを嚙み殺して一階の食堂へと降りる。食堂はお昼時なのもあって全てのテーブルが埋まっている状態だった。


(たくさん寝たのに……まだ寝たい)


師匠の元にいた時でもここまで寝たことは無かったが、パーティーに入った当初は二人についていく体力が足りなかった。ユウジさんはともかく年下のレンちゃんにも体力で劣るのは悔しかった。低階層での探索を行い、早めに切り上げたり気を使って貰っていたのだがそれでもいっぱいいっぱいで四六時中フラフラだった。


そこで、ユウジさんが提案してきたのが昼寝と休みの日は気が済むまで寝ることだった。かなり心苦しいが背に腹は代えられず昼寝は二人もやることになったので受け入れた。昼寝によって単純に睡眠時間が増えたことと僕の体調を見ながら休みを入れてくれたことでどうにか二人についていける体力を得るまでついていけた。


ただ、体力がついてきた今でもそれは続いている。寝る子は育つなど繰り返し発言するユウジさんが本心から長い時間、寝ることに悪印象を抱いていないと信じることが出来たからだ。なので、甘えてしまっていることは分かっているが寝ることの幸せを享受させてもらっている。


少女と成人男性の親子のような組み合わせのテーブルを見つけ、足早に近づく。


「おはよう」

「おはよう」

「はい。おはようです」


お昼におはようとあいさつされるのは少々気まずいが、睡眠欲を満たすのをあきらめるには足りない。それにユウジさんは嫌味で言っている訳でも無いのは分かっている。


椅子に座ると料理が届くまで三人での雑談が始まる。料理の注文はユウジさんがまとめて行うのがいつものこととなっている。遠慮しないでたくさん食べるように、好きな物だけを食べないようにいろいろな物を食べるようにと言うのが理由らしい。


よく食べて、よく動いて、よく寝ることが体を作るには重要だといつも言っている。そのおかげで比較的早めに二人の体力についていけるようになったと思う。


大皿に料理が盛られて、何皿も運ばれてくる。三人で手を合わせて昼食が始まる。師匠と暮らしていた時とは量も種類も上回り、味付けも様々な料理を食べるのはやはり幸せを感じる。お腹がいっぱいになるまでおしゃべりに口を回す暇などなく一生懸命に食べ続ける。


全ての皿が空になって、食後のお茶を飲みながらまたおしゃべりが始まる。いつも元気なレンちゃんがいつにもまして元気だった。嬉しいことがあったのだろう。レンちゃんは大人らしさや恰好良さを目指しているらしいが感情を素直に表に出しているのを見るたびに子供らしさや可愛らしさを感じてこちらまで笑顔になってしまう。


お昼までの時間は魔法の練習を行うと言っていたので進展があったのだろう。ここしばらくの間はユウジさんの出した課題が進まないと焦ったり、落ち込んでいたので僕も嬉しくなってしまう。そうやって会話を楽しみながら一杯のお腹が落ち着くまでを過ごした。




「怪我に効く薬の材料は売ってませんでしたね」


いつもお世話になっている鍛冶屋のダンドンさんのお店で椅子に座りながらユウジさんに話しかける。昼食の後は調合用の素材を探すため街のお店や市場をユウジさんと回ってきた。そこでの人の多さは森の奥で師匠との二人暮らしだった僕にはやはり衝撃だった。それなりの期間、街で暮らしてきて慣れてきたと思ったのだが上には上があった。ユウジさんが斜め前に立ち、先導してなければ歩くことも出来なかっただろう。


「そういうのは調合の組合とかが一括で買い取りしてるのかも知れないな。その代わりに次の階で使えそうな調合品の素材は見つかったのは助かったな」

「上手に作れればいいのですが」


買い込んだ荷物に目をやって答える。使えそうな調合品とはオオカミ除けのお香のことである。他の人に知れると大変な目に合うから他人がいる場所では濁して話すように言われている。ユウジさんは他人への警戒心が強い。人によって話す内容を決めているようで僕たちにもそれを守るように言ってくる。それは当たり前のことだがそれを口に出すのは珍しい気がする。そんなユウジさんだが僕たちには色々なことを教え、疑問があれば答えてくれる。それが信頼の証だと思うとソワソワした嬉しさを感じる。


「最初から上手くいくことなんてほとんど無いんだから一歩づつ上手くなっていけばいいさ」

「はい」


そうやって話しているとカウンター奥の扉を開けて店主のダンドンさんが出てくる。僕たちも椅子から立ち上がりカウンターに近づく。


「待たせたの」


そう言って、カウンターに置かれたのは小さな木箱。今日の買い物の締めがこの箱の中身なのだ。


「開けてもいいか?」

「うむ」


ユウジさんがその箱を開けると入っていたのは全体が青く、そこに黒の模様が走る丸い石。硬貨の中で一番大きな銅貨と同じくらいの大きさで厚みは銅貨を三枚重ねたぐらい。僕の手でも握れば見えなくなる程度だ。


ユウジさんが手に持ち、しげしげと観察した後に僕に渡してくる。大きさに対してそれなりの重さを感じる。手触りはつるつるしていて熱くも冷たくも無い。近くで見ると黒の模様は小さな記号の集合であることが分かった。


ダンドンさんがこの石の説明を始める。


「魔力を込めると込めた魔力量の分だけ光るアイテムだ。……注文通り魔力を自動的に吸い上げる機構は削ってある。……魔法の取得に使うのか?」

「そのつもりだ」

「そっちの嬢ちゃんのためにか?」

「そこは内緒だ。注文しといて何だが思っていたより早い納品だが……需要が普通にあるということか?」

「それは知らん。これを作った奴に注文をしたらそう言ってただけだ」

「ふむ」


いろいろ言葉足らずの会話を交わすダンドンさんとユウジさんだが僕はどうしていいか分からない。多分、魔法を使えるようになる条件をダンドンさんの知り合いが知っていることとユウジさんもそれを知っていることをダンドンさんに伝えたということだと思う。あとは、魔法を使えるようになる条件は知っている人はそこそこいるのかどうかを確認しようとしてはぐらかされた感じどろうか?


どういう意図があったのかはよく分からない。師匠が言っていた、街でないと学べないとこととはこういう事も含んでいるのだろう。魔法を使えるようになることも大事だが人と関わること、その人を知って、その人に僕を知ってもらうこと。少しづつでも頑張ろう。

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