14-1
場所はルーテアがパーティ入りしてから移動した四人部屋。この宿には三人部屋がなかったので四人部屋を選択した。少々、出費は増えるが押し通した。
(二人部屋に三人。ギュウギュウ状態でうら若い女性がおっさんと寝起きするのは流石に忍びない……との判断だったんだが……まさか勿体ないとからって意見が出てくるとは……いや、思考がずれすぎた)
時刻は昼下がり。四つあったベッドの内、一つと入れ替えて配置させて貰ったテーブルの上には三人分には少々多い、甘い物が並んでいる。屋台の物だが所狭しと並んでおり、二人が厳選してきたそうでなかなか壮観な光景である。
それを前にお預けを食らった犬のようにソワソワしているレンとルーテア。
「それでは、皆様。地下10階までの踏破を大きな怪我も無く達成できたことを祝って!乾杯!」
「乾杯!!」
乾杯の合図に重なった二人の声が答える。皆様と言ってはみたがクラスの話も予定しているのでレンとルーテアのいつものメンバーである。木のコップに入った飲み物を呷る少女たち。その姿を見ながら大きな怪我がないことに心底安堵する。
地下6階に初めて踏み込んだのが5日前。その翌日には地下9階まで下れてしまった。悩んだがレンとルーテアが乗り気なのもあり、1日の休みを挟んで地下10階のクリアに挑んだのが昨日の出来事だ。
敵は通常のゴブリン5体に剣を手に持った比較的体格の良いゴブリンが一体。対峙した距離は5階層の牙猪と同じくらいだったのでレンの攻撃魔法とルーテアの弓による先制攻撃を行った。結果として、レンが一体、ルーテアが二体の通常ゴブリンを倒した。
ゴブリン達がこちらに近づいた時点で数の不利はなくなり、一対一の形になった。念のため、剣持ちゴブリンを受け持ったのだが体格が良いと言っても通常ゴブリンと比べてであり、武器が剣とはいえ槍持ちの俺よりは攻撃範囲は狭い。
感想は通常ゴブリンとなんら変わりないである。
「もう、これ食べていいのか?」
「ああ、話しながらになるが食べてくれ。恒例のパーティー作戦会議にお茶会を足した感じだからな」
「いただきます!」
また、二人の声が重なり同じようにテーブルの上の甘い物に手を伸ばす。
地下10階まではスムーズにこれたが地下30階を目標にしている以上、残りは三分の二も残っていて集めた情報からも難易度は上がっていく。ゴブリンの階層を簡単に突破できたが気を引き締めなくてはならない。
「早速だが、準備が整い次第、11階に挑戦する。前にも少し話したが11階からは森が広がっているらしい。敵は1階から10階までの敵が全部に灰色狼が追加されるらしい」
「らしいらしいばっかだな」
「気にしてるんだから突っ込まないでくれ。あと、口の周りが早速よごれてるぞ」
レンの突っ込みに苦い顔になるのだが事実なので仕方が無い。ほとんどが組合の本とイヴさんからの情報であり、冒険者からの生の情報は入手できなかった。イヴさんからの情報を疑っているわけではないがやはり実際に体験した情報はやはり欲しかった。
「オオカミは多くの森に棲んでいて、戦う術を持たない人々には一番恐れられている魔物ですね」
「ルーテアの言う通り、ここまでの一角ウサギや牙猪は下手をしたら死ぬだが灰色狼が相手だと普通に死ぬと思ってくれ」
「ユウジがそこまで言うほど凄いの?」
「肉を食う生き物ってことは食うために他の生き物と戦って、殺すことが前提の生き物だからな。一角ウサギや牙猪は身を守るための最後の手段として戦うけど食べるために日常的に戦うオオカミは戦闘に関しては根本的に違うと思ってくれ」
脅すような言動だが事実を述べて、二人の表情を見る。
「……だけど、その階層を逆に狩場として生活している冒険者も大勢いる。他の冒険者に出来ることなら俺たち三人が力を合わせれば確実にできる!」
くさいセリフではあるが本心からの言葉だ。そして、力強く頷くレンとルーテア。それは二人とも同じ心境だったようだ。