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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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2-2

一直線に駆けて来る一角ウサギ。跳びかかるために貯めを行った瞬間を何度かの戦闘と観察から察知する。

予想通り名前の由来である額の角を突き立てんと跳びかかってくる。

予測していたので跳びかかる一角ウサギの側面当たりを払うように左手の盾を叩きつける。

そのまま地面に転がるウサギを追いかけ、剣を突き立てる。

上手く、首に突き立てることが出来たので一角ウサギはそれ以上の脅威はなく、小さく痙攣するだけになっている。


小さく息を吐く。危なげなく勝てたがそれでも一歩間違えれば死んでもおかしくない状況に緊張していた。

ある意味、包丁がはめ込まれたボウリングの玉が跳びかかってくるんだからな……我ながらよく出来るもんだ。それにしてもスプラッターだな。

首にある動脈を切ったためか血だまりが出来ている。見た目が凄惨なのはともかく、血の匂いが濃い。このままだと血の匂いに誘われて肉食系の魔物が寄ってくるかもしれない。


「レン。今日はこれで終わろう。理由としては今狩ったウサギの出血がかなり酷くてこのままだと血の匂いで別の魔物が寄ってくるかもしれないからだ」


一角ウサギはまだ3羽しか狩っていなかったが真剣な表情のレンは無言でうなづく。駆け足で血だまりのウサギに近づくとそれを布で包んで背負っていたバックに入れる。


「いったん街道に戻って、街を目指そう」


しっかりとバックを背負ったのを確認して声をかけると再度、無言で頷く。

街中では初対面同様に馴れ馴れしく話しかけてきていたレンだが門を抜け、外に出ると声を出さずこちらの指示には従っていた。緊張しているのだろうが動作はキビキビしているので緊張以上に魔物の危険性を理解しているのだろう。


そのまま、問題なく街へと戻ることが出来た。

門をくぐったときあからさまにレンは安堵していた。魔物が危険なことを理解しているなら当然、門の外を歩くのは怖いに決まっている。


「レン。お疲れ様。俺のせいで3匹しか狩れなかったから昼飯を奢ってやるよ」

「気前がいいなおっさん!」


現金なのか、タフなのか、虚勢なのか。どちらにしてもいいことだろうとユウジは思う。冒険者は命をかけた職業なのだから。


一角ウサギは1羽銅貨27枚。合計銅貨81枚で冒険者組合に買い取ってもらえた。その場で約束の銅貨21枚をレンに渡す。受け取ったレンは7枚を三回数えると首から下げていた財布と思わる小袋にさっと仕舞込み、また服の内側に隠す。


「昼飯は高いと腹いっぱいは食わせてやれないから腹いっぱい食いたいなら安いとこ案内してくれよ」




レンに案内されたのは街の広場だった。そこに出ていた屋台でいろいろ食べ歩きしようということらしい。


「このウサギ串うまいな!いつもいい匂いさせてたから一度食ってみたかったんだ!」

「いろいろ買ったから遠慮なく食べろよ」


ベンチに腰掛け、足をパタパタさせながら満面の笑みでレンが言う。

甘めのたれで焼かれたウサギ肉の串は確かに美味しかった。というかこの世界の食べ物はかなりクォリティーが高く、以前より食べる量が増えた。調味料の種類は少ないが素材の味がいいと思う。このウサギ肉の串もたれではなく塩だけでいつか食べてみよう。


「レンが背負っていたバックは魔法がかかってるのか?」


食事中とは言え無言というのは気まずい。気になったことを質問することにする。

組合に戻ったときに気づいたのだが、ウサギが3羽とはいえ1羽当たり10キロは越えているはずだ。合計30キロの荷物を子供が苦労なく背負っているのは不思議だ。そう考えて見ているとバックにでかでかと冒険者組合の刻印が入っていた。


「おっさん、知らないの?」


ダメな大人を見る目で言う。そして、仕方ないなぁという雰囲気で続けるレン。


「これは軽量化の魔法がかかったバックで冒組でお金を出せば貸してくれんだ」


冒険者組合って、冒組と略するのか。


「どれくらい軽くなるんだ?」

「2番目に高いやつだから結構軽くなるよ」

「数字でどれくらい軽くなるとか教えてくれなかったか?」

「えーっと、7割って言ってたと思う」


ウサギが1羽10キロと考えると、合計30キロ。7割軽減なら感じる重さは9キロか……魔法って凄すぎる。


「……一番高いバックはどれくらい軽くなるって言ってた?」

「9割軽減って言ってた」


流石、魔法だ。次から狩りに行くときは絶対に借りていこう。


「……おっさん。俺も質問していいか?」

「俺で分かることならな」


街の外に出てた時と同じ真剣な顔。しばし逡巡して、それでも言葉を続ける。


「どうやったら、おっさんみたいに一角ウサギを狩れる?」


想像していたより重い質問に今度はこちらが逡巡してしまう。

レンはこちらの態度に何も言わないが不安そうな表情。これ以上、無言でいるわけにはいかない。


「やめた方がいいとか、無理だとかは言われたくないよな?」


真剣な表情のままうなずく。

茶化すのはもちろん誤魔化すのもよくないな。


「……そうだな、まずは武器だな。レンは何か武器を持ってるか」

「持ってない……」

「一角ウサギ相手なら槍がいいな。動きが止まってるところを体重をかけて突き刺せばレンの力でも十分刺さるはずだ。ただし、自分で作るとか作りが怪しいやつは絶対買うなよ。上から下に体重をかけて突き刺すと武器が壊れやすいから駄目なやつだと危ないからな。……できたら、槍を2本用意した方がいいかもな」


レンが頷くのを確認する。

自分もサブの武器を用意しないといけないな。


「それで一角ウサギを殺す手段はできたから次はどうやってそこまで持って行くかだ」

「どうやって持って行くか?」

「そうだ。今日の狩りを見てたから分かると思うがまずは防御して、相手が攻撃したところを盾で受け止めたり、叩きつけて転がして攻撃を避けれないときだけ攻撃してたろ?」

「そうだね。おっさんより早くて強い人も何人か見たけどおっさんが一番うまく倒してると思った」

「褒めてくれてありがとう。レンも今は早くて強くないから倒すまでの順番を作る必要があるんだ。俺だと防御だけに集中していたら確実に防御できるから確実に倒せるときだけ攻撃してれば怪我する可能性は低くなるだろ。レンも止まったところを刺せば狩れるなら次は動きを止める方法を考えるんだ」

「なるほど……。おっさんみたいに盾で受け止めるのは?」

「……俺の盾を貸すから構えて踏ん張ってみろ」


レンは素直に盾を受けとると両手で構える。

立ち上がり、レンの構えた盾の表に右手を添える。


「ゆっくり押すから転ぶなよ」


宣言通り、右手で盾を押し込んで行く。

唸りながらも頑張ってこらえているがじりじりと体が後ろに下がっていく。腕力以前の問題で体重が軽すぎるのだろう。武術の心得や経験があれば攻撃の重さを地面に上手いこと流せるかもしれないがそんなのは自分も出来ない。


「うん。無理だな。ちなみに、跳んできたところを盾で叩き落すのは片手でやるからもっと無理だぞ」

「なら、攻撃を避けて着地したところを槍で刺すのは?」

「俺も一応、確認したことがあるが避けた後、着地したらすぐにこっちを向いた状態になるから攻撃は無理だったぞ」


流石に弱い魔物とは言え、唯一の攻撃を避けられたときの反応は確実にしてくる。弱い魔物でもあっさりと殺させてくれないし、あっさりと殺される可能性があるから多くの人間が冒険者への道を進まないのだ。


「……俺には一角ウサギを倒す力は無いのか?」


子供とは思えない血を吐くような独白。まだ、知り合ったばかりだがそれでも魔物の危険性を理解している子だと分かる。その子がここまで言うのだ自分ごときの言葉では冒険者への道を諦めることはしないだろう。


「まだ、分かんないだろ?今からたくさん考えてみろ。そして、思いついたら俺に話してみろ。思いついたのが上手くいきそうか駄目そうかぐらいかは言ってやるから」


上げた顔にはびっくりした顔。面倒ごとを一つ抱えることになるがそれでもさっきの表情のままでいさせるわけにはいかないだろう。

それはそれとして、身を守るための防具の話もあったのだがこのまま続けると泣かしてしまいそうだと気が重くなる。


「ありがとう、おっさん……あと、おっさんの名前教えてくれ」

「ユウジだ。これからよろしくな。レン」


差し出した右手を嬉しそうに掴んで、精一杯の力で握ってくる。


「よろしくな!ユウジ!」






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