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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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ルーテアと近接戦闘訓練

目前には剣を模した木製の棒を両手で構えるユウジ。


(速さは僕が勝っている。距離も僕なら一息で踏み込めるけどユウジさんでは無理)


ルーテアは彼女が考える有利な状況にいるが攻めあぐねていた。握った木剣で打ち込んでも上手く防御されるイメージしか湧かないのだ。


そんなルーテアに対し、ユウジの剣先が少しだけゆっくりと上がり……次の瞬間にルーテアの隙をつくようにほとんど突きのような振り下ろしが行われる。


(うわ!受けて、)


ここでルーテアの間合いの取り方が正確だったことが証明される。木剣と木剣が衝突した鈍い音が響く。驚きつつもどうにかその振り下ろしをルーテアは木剣で受けることに成功する。


ルーテアは受けれたことにほっとしかけるが、ユウジの動きは止まらない。踏ん張るために全身に力を籠めるが木剣どころか全身でユウジが押してくる。


「きゃん!」


ユウジのほとんど体当たりのような押し込みでルーテアが尻餅をついてしまう。ルーテアに痛みはほとんどなかったが思わず声が出てしまう。


「隙あり」

「あいた!」


ユウジの言葉とともにチョップがルーテアの額を叩く。尻餅をついた時の痛さを少し上回るチョップの威力に思わず恨みがましい目でユウジを見上げてしまう。それをいつも浮かべている笑顔で受け流し、ユウジが話始める。


「尻餅をついたのは……まぁ、許容範囲だがその後にすぐに立ち上がるなり、転がりながらでも距離を取ろうとしなかったのは駄目だな」

「あ」


(模擬戦は戦うことを意識しないといけないって言ってたのに。ユウジさんの手刀が魔物の攻撃だったら……)


「その顔なら俺が何を言いたいか解ったみたいだな。……最初の間合いの取り方は良かったと思う。意識してあの距離だったんだろ?」

「はい。そうです……」


ユウジがルーテアの手をとり立ち上がらせながら聞く。立ち上がってもルーテアはユウジに視線を向けることが出来ないでいる。


「でも、僕は武器を持って直接、魔物と戦うのには向いてないですか?」


困った顔でルーテアの頭をユウジはゆっくり撫でる。


「レンと一度、模擬戦をするからそれを見ていてくれ。それが終わったら今のルーテアの質問に答える」


そう言ってユウジは踵を返してルーテアに背を向けて、レンとダントンの方向へと歩き始める。ルーテアには不思議と嫌な気持ちは湧いてこなかった。思い切って悩みを打ち明けたのに答えをはぐらかされたら普通は落ち込んだりしそうなのにだ。


(迷惑かけたい訳じゃないんだけどな)


「お二人さん。そろそろ、いいかい?」

「おーけぇーだ。一撃でも入ったらぷりん作ってくれる約束忘れるなよ」


しゃがみ込んでこそこそやっていた二人がその声に答えてこちらを向く。不自然な笑顔の二人。


(二人とも隠し事が下手なんですね)


付き合いの短いルーテアでも分かるほど『何かを企んでいる顔』をしていた。そんな二人の様子にルーテアより付き合いが長く、人を見る目に長けているユウジが気づかないはずはないのだが気負った様子もなく庭の真ん中でレンと対峙する。


ユウジが木剣を構えると同時にレンが飛び出し、振り下ろす。それを難なく受けるがレンはそれでも止まらず二度、三度と木剣を振り回す。木剣の軌道的に下半身を狙った受けるのが難しそうな物もあったがユウジは冷静に全てを受ける。


レンが一際大きく動き、木剣を大きく振り上げる。ルーテアから見れば隙の大きな動き。剣を横薙ぎに振ればレンの振り下ろしより早く胴体部分を打ち据えられる。そう思っていると振り上げる動作とともにレンは後ろに一歩引く。もしルーテアが胴体を狙って木剣をふるっていたらわずかに届かなかったかもしれない。


その罠を読んでいたのかユウジは距離を詰めることも攻撃を仕掛けることも無く静観している。それを確認してからレンが更に下がる。模擬戦を始めた間合いと同じぐらい距離が開くとレンが上段に構えていた木剣を振り下ろす。


当然、距離が離れているので木剣が届くはずは無いのだがレンは振り下ろす動作で木剣をユウジへと全力で投げつけたのだ。


回転しながらユウジへと迫る木剣を驚きながら見ていたルーテアだがその木剣を追いかけるようにいつの間にか手にしていた短い木剣を腰の横に構えて走り始めるレンを見て更に驚く。


第三者であり、両者から十分に離れている位置にいるルーテアだからこそ木剣の投擲からの追撃に気づけたが対応しているユウジの立場だったら……。


(僕ならレンちゃんの追撃は絶対に躱せない。多分、投げられた剣を避けるのも難しい)


そんな感想が脳裏に浮かべながら見つめる中、ユウジは……飛んでくる木剣を片手で掴み取る。木剣を打ち落としたり、避けるでもなく動揺の欠片も見せずに掴んで防いだ。狙ってやったのか偶然なのか木剣の持ち手の方を掴んでいる。


ルーテアは唖然としてしまったが、レンはそのまま止まることなく前進し、ユウジの脇腹を狙って木剣を横薙ぎに振るう。


ガンっと音が鳴る。


ルーテアの視界の中では勢いを乗せて、両手で振るったレンの木剣を飛んできた木剣を片手で握った状態で防いだユウジの姿が映る。そんな静止したような光景の中でユウジが一歩を踏み出し、何も持っていない左手でレンの額に手刀を落とす。


「あいた!」

「隙ありだ」

「ってか、何だよ!投げた剣を受け止めるなよ!この前は慌てて避けてただろ!」

「いや、ぐるんぐるんって回わってると結構、掴めるんだな。……いや、俺に二度目の技は効かないのさ!」

「意味分かんないよバカ!凄い悔しい」


手刀の当たった額を押さえながらレンが文句を言い、得意顔で答えるユウジ。少々、最後は締まらないやり取りであったが二人の試合はルーテアにとって驚きの連続であった。


(レンちゃんの両手での剣攻撃を片手で持った剣で受け止めるってどんだけ力の差があるんだろ……)


「ダントン!プリンの作り方は宿屋のおやっさんに教えてあるからその内、お品書きに追加されるはずだ」

「……ふむ。分かった」


二人の試合に何かを感じたのはルーテアだけではないらしい。武器の鍛冶職人、ドワーフのダントンもユウジに一撃を与えてプリンをせしめるために短めの木剣を作りレンに渡しているほどにはプリンに執心していたのが嘘のような静かさである。


そして、ユウジがルーテアのそばへと歩いてくる。


「レンとの模擬戦を見て、俺は近接戦闘に向いてると思うか?」

「え?ユウジさんに向いてるかどうかですか?」


想定外の質問にルーテアは驚いておうむ返しをしてしまう。頷くユウジを見るに聞き間違いではないとルーテアは理解して、返答を考える。


(レンちゃんにも余裕を持って勝てるってことは普通にユウジさん向いてるってことじゃないのかな?むしろ、あれだけ出来て向いてないってことはないよね?)


「向いてると思います。レンちゃんの剣を振りかぶって後ろに下がったのは僕なら引っかかって反撃を貰ったかもです。剣を投げるのも、それに合わせて攻撃を仕掛けるのも凄いと思います。ユウジさんはそれを全部、防いで余裕を持って勝ったので」

「ふむふむ。……レンが木剣を振りかぶって後ろに引いたのはもともと俺がレンに散々やってたやつだな。だから、簡単には引っかからなくて当然だな」


(あれもユウジさんが始めたってことならそれはそれで凄いんじゃなのかな?)


「木剣を投げつけるのは二回目でな。前回は投げた木剣を避けられて素手対木剣の形になったんだがな。今回は二本目の木剣を隠し持ってて、更に攻撃まで仕掛けて来たのは流石レンって感じだな」

「それなら、木剣を投げた後、攻撃して来たのは初めてですよね?それを止められるならユウジさんには才能があるんじゃないですか?」


すこし困った顔でユウジが笑う。ユウジのその表情にルーテアは何を思っての表情か見当がつかなかった。


「現状、俺はレンより強い。レンに稽古をつけてやることも出来る。でも、それはレンより身体能力が高いこととある程度知っているからだ」

「知っているですか?」

「そうだ。ルーテアも今なら上段に構えて、後ろに下がることを知っているから対策を考えることもできるだろ?……その後のやり取りは、レンが必要なら剣を投げることを知っていたし、レンが投げた後に武器が無くて困ったことも知っているから武器を準備していることは想像できた。……ダントンとこそこそしているのも見えてたしな。で、手元に武器があるなら投げると同時に突っ込むのは有効だ。……それが想像できれば心構えができる。心構えが出来れば、対処も出来るってことだ」

「それが出来るから向いてるってことじゃないんですか?」

「まぁ、そういう側面もあるとは思うんだけど……」


ユウジが少し屈んでルーテアと視線を合わせる。普段はあまり見せない真剣な表情でルーテアは不安が沸き出しそうになり……。ユウジがルーテアの頭をぽんぽんと優しく叩く。たまにレンに同じようにするのを見て、密かに羨ましかったルーテアは少し驚き、それと同じく嬉しくなる。無意識に尻尾が左右に大きくゆっくり揺れる。


「向いてる向いてないは置いとくとして、ルーテアは強くなれると思うぞ」

「本当ですか?さっきのユウジさんみたいになれますか!?」

「ああ、あれくらいならすぐになれると思うぞ」

「わぁ~!僕はどんくさいから捨てられたから凄い嬉しいです!」

「ああ、頑張って行こうな!」


ユウジの顔が若干引きつったのをルーテアは気づかなかった。

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