12-3
「クラスはドルイド2。ハンター1。スカウト1」
「どれも初めて聞くな」
「ユウジさん。意味はわかるんですか?」
「ドルイドは……森の賢者?」
「何だそれ?」
「森の知識が豊富で、森の平和を維持したり……相談役だったり?」
実際の意味とゲームなどの創作とでのイメージでも差異が出てきてしまう。
「あとは、医療の知識や回復魔法とかも使える?」
レンの視線が外れないのでどうにか絞り出したイメージだったがレンの視線はいまだ外れず。助けを求めてルーテアに視線を向ける。
「……大体当たってると思います。私の師匠がそうでした。……私も師匠にいろいろ教えて貰っていました」
「回復魔法使えるの!?」
レンが驚くのも無理は無い。攻撃魔法を使える人も少ないが回復魔法はそれに輪をかけて少ない。ダンジョンのあるこの街ですら二桁に届かない。実際には使えるが隠している人間もいるとは思うが隠すより、公言した方がメリットが多いと思われる。なので、どんなに多くても十人前後だと予想している。
「いえ。僕はまだまだなのでそこまでは……」
「いろいろ聞きたいことは出来たがとりあえず、その他のクラスも説明しよう」
少々、前のめり気味になっている二人が居住まいを正すのを待ち続きを話す。
「ハンターは狩人のことだな。動物を弓矢や罠で倒す職業」
二人が頷く。こちらはルーテアの戦闘スタイルがそのまま出ている部分なので分かりやすい。
「次にスカウトだが、斥候って言葉は分かる?」
今度は二人とも首を横に振る。まぁ、これは予想通りではある。
「パーティーから離れて敵のいるいないやいる場合はどういう数や種類がいるのか。そして、敵だけじゃなくて他にも地形や天候とかいろいろ調べることを偵察って言うんだが、その偵察をする人のことを斥候と呼ぶ」
「ルーテアはそんなことやってたの?」
「えーっと、多分森の見回りをしてたんでそれですかね?」
「まさにそれだな。俺もそのクラス取りたい」
「そんなにいいクラスなの?」
「かなりいいクラスだ!多分だが、敵に気づきやすくなったり気づかれにくくなるスキルがあると思う。そのスキルを身につけられれば、敵に気づかれなければ奇襲できる。そして、奇襲されることも減る。……例えば、一角ウサギに気づかれない状態なら後ろから槍で突けば安全に倒せる。逆に一角ウサギに気づかないで後ろから突進されたら角が刺さって大けがするだろ?」
理解してくれた二人の顔を見て、横からルーテアのステータス画面を操作してスカウトのスキル画面へ遷移する。これで気配に関するスキルが無かったら悲しいことになってしまう。
「『警戒』『猫の目』……だな」
『警戒』が気配に関するスキルだろう。悲しいことにならずに安堵する。
「この『警戒』が気配……気づかれないように、気づけるように助けてくれるスキルだと思う。どっちにも効果があるいいスキルだ」
レンと二人でパチパチと手を叩いて称えると照れながらも嬉しそうに笑ってくれる。
「で、『警戒』は分かったけど『猫の目』ってなんだ?」
「いや、俺も分からん」
「僕もです」
「ルーテアがネコの獣人だから?」
「クラスの中のスキルだから違うとは思うんだが」
「謎です」
ルーテア自身も謎ということなので次に進むことにする。ハンターのスキル画面へと。
「『弓技術』『鷹の目』」
「弓技術は分かるけど、『鷹の目』?」
「また、目です」
「こっちは分かる。鷹って言う大きな鳥がいるんだがその鷹の目が凄く良くてな。遠くの物でも近くで見るように見えるらしいんだ」
「あー、それは何となく分かります。弓を使い初めたらどんどん遠くの物がはっきり見えるようなってました」
「へぇー。見え方っていろいろあるんだな」
「ゆうじさんはいろいろ知ってるんですね」
「まぁ、年の分そこそこな。あと、他の人には俺が物知りってのは内緒な」
二人の元気な返事を確認して、最後の『ドルイド』のスキル欄を開く。
「『薬効強化』……ルーテアは薬が作れるのか!?」
「あーはい。あの、簡単な物だけです。ポーションとかは無理無理です。薬草を使った外傷用とかの簡単なお薬を少々です……」
ポーションは魔法を利用した薬の代表で即効性と薬効が通常の薬とは段違いであるらしい。その魔法役を製作できる者は徹底的に隠匿され、販売は領主や冒険者組合など限られた所のみで行われる。回復魔法を使える者より更に貴重な存在である。
たとえ、魔法薬までは行けなくてもこの世界の薬の性能は高い。
「いやいや。この前、普通の薬草の薬を使ったが凄い効き目だったから十分凄い!」
拍手で称えようとしたが、ルーテアの顔が先ほどとはあきらかに違う。
「……すまん。もしかして、隠しておきたかったことだったか?」
「いえ。そんなことは無いです。他の人には内緒ですがレンちゃんとユウジさんなら大丈夫です。……ただ、師匠が元気になったらお薬の事もっと聞いておかないとなと思っただけです」
元気のない笑顔に慌てて聞くと想定していなかった言葉が返ってくる。ホームシックだろうか。擦り切れたおっさんの感性では気づいてやれなかったが才気溢れる、真っすぐな気質の彼女でもまだ二十歳に満たない少女である。
師匠を助けたい一心でこの街に出て来たのだろう。一生懸命に前だけど見て進んできた彼女の緊張の糸が俺たちに会い、パーティーを組むことになって緩んでいたのだろう。そこに彼女の一番大切な人とのことを思い出すような話題を振ってしまった。
ルーテアが無意識にでも気を緩めるほど気を許してくるのは非常に嬉しいのだがホームシックという繊細な心の動きをどう慰めればいいのかとっさには思い浮かばない。
「大丈夫!ユウジがいるんだからきっとその師匠っていう人も何とかなるよ!」
内心パニックと呼んでいいほど慌てていたところにレンがあっけらかんと言い放つ。何の根拠もないのに力強く言い切るレンに何も言えずに呆気にとられていると小さく笑う声。
声の方へと顔を向けるとルーテアが口を押さえて笑っている。
「レンちゃんはユウジさんのことが大好きなんですね」
「なっ!?」
自信満々の態度はどこへやら。一瞬でレンがうろたえはじめる。
「……そうだな。俺だけじゃなくて中年男性を捕まえて養ってやるって豪語する将来有望な奴もいるから何とかなると思うぞ」
「ユウジ!!何で今そんなこと言うんだよ!!」
真っ赤な顔でルーテアの言葉に反応していたレンが即座にこちらを向いて抗議の声をあげる。その後ろでプロポーズ?と呟くルーテアの顔には先ほどの憂いはない。女心と秋の空とかなんとかであるがこれはきっといいことだ。
ルーテアのつぶやきに再度、ルーテアに詰め寄って抗議するレンの後頭部に自分一人ではどうしようもなかった事態を解決しれくれたことに感謝の念を送った。




