12-2
椅子を片手に下げ、自室と呼べる程度に馴染んできた部屋の扉を開ける。
「食事の最後に出てきた甘い食べ物美味しかったですね!」
「あの白くて甘くてプルプルした冷たいやつな!」
部屋の大部分を占めるベッドに腰かけて、早くも打ち解けたレンとルーテアさんがデザートの豆乳プリンの話題で盛り上がっていた。若い女性がキャッキャウフフしてるのを見守り続けたい欲求はあるが早寝早起きのためにも早めに話を始めたい。
「歓談中のところ悪いが寝くなる前に話を終わらせよう」
ベッドとベッドの間に椅子を置く。
「で、話なんだがこのパーティーの秘密をルーテアさんに説明しようと思う」
牙猪戦の後、彼女のパーティー加入が決まったが流石にクラスの説明をするには体力的にも時間的にもきついものがあったので夕食後に話すことを約束して今に至る。
真剣に聞くルーテアさんに自分のステータスとレンのステータスを見せながら一通り説明をする。ついで、何故秘密にするかもセットで説明する。
説明中は沈黙を守っていた彼女の顔は真剣で、話し終わった後もしばらくはいろいろ思考しているようだ。真剣に捉え、しっかりと考えてくれるのはこちらにとっても非常に助かる。黙って見守ることにした。
静寂の中、納得がいったのかルーテアさんが一つ頷く。
「この話はイヴさんにはしたのですか?」
「いや、話してない。理由は……思い当たる?」
予想していなかった質問が出てきて焦りが表に出ないように苦労する。質問の意図が分からない。
「イヴさんに迷惑をかけないようにですか?」
「……正解」
「……僕がどれだけ分かっているは分からないですけど、ユウジさんが話してくれたことをダメだったと思われないように頑張ります」
「……ああ、よろしく頼む」
レンも頭の回転は速いと思うがルーテアさんは輪をかけて速いと思う。彼女は自分が考え足りない範囲を考慮した上でこちらに合わせてルールを順守することを選択した。パーティーメンバーに関しては厳選している意識があるがそれはあくまでも性格や考え方など内面的な物なのだが幸運にも二人のメンバーは両方とも頭が良い。想定よりも早く進めるかもしれない。
「なぁ、そろそろルーテアのクラスを見ようぜ」
「そうだね。僕も見てみたいです」
「じゃあ、まずはステータス画面を開いて」
「ステータス・オープン」
「それで画面に指先を触れるように近づけて」
「はい」
「そのまま、横に指を移動させる」
「出来ました!」
「どれどれ」
「俺も見たい!」
結局、三人が並んでベッドの上に座る形になってしまう。刻印された手の甲の上に画面が表示される関係上仕方が無いではある。
「ちなみに、ルーテアさんはここに書かれてる文字で読める物はある?」
「えーっと、ごめんなさい。師匠から教わった文字は無いです」
「普通の字じゃないもんな。俺もユウジに習ってる字でこんなの見たことないし」
「レンはまずは普通に使われてる文字からだな」
片仮名なら時間はあまりかからないかもだが、漢字を覚えるのにはどうしても時間がかかる。それに加えて言葉の意味も覚えないといけない。ステータス画面や組合の資料を読むのに役立つので出来れば覚えて欲しいのだが。
「あの……レンちゃんに教えるときは私も一緒に教えて貰えないですか?」
「ああ、大丈夫だよ。仲間なんだから遠慮しなくていいよ」
その受け答えの最中、ルーテアさんの反対側で驚愕の表情のレン。自分から勉強を教わろうとするルーテアさんの発言に驚いているのだろう。体を動かすことを好むレンからしたら、机の前に座ってひたすらに話を聞いたり、書いたりする勉強は苦手としている。自発的に勉強に参加するルーテアさんの発言に驚いているのだろう。
「あと、……あの。それと、仲間になったので僕のことは名前を呼び捨てで読んで貰いたいです」
「了解。ルーテア」
この程度のことで見せてくれるには申し訳なく思ってしまう満面の笑みを返してくれた。