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「作戦通り。行動開始!」
大声で叫び、離れた位置にいる牙猪へと駆け出す。初めて、牙猪と戦った時と同じく槍を手にし、距離を詰め、意識をこちらだけに向けるように行動する。
こちらの行動が同じなので初戦をなぞるように牙猪が地面を前足でひっかいた後、こちらに向かって駆け出してくる。
あっという間に距離が詰まる。牙猪が追従してこないように十分に引き付けて横に跳んで身を躱す。
初戦と同じなのはここまで。槍を突き出さなかったため余裕を持って着地して、背後へと駆け抜けていく牙猪へと向きを変え、追いかける。
もちろん、牙猪の手前で止まり、突進を躱して牙猪の方向へと反転した自分がノンストップで駆け抜けた牙猪に追いつくことは出来ない。それでも、作戦のフォロー役としてぶっちぎられても追いかける。
それでも、こちらと十分距離が離れたのを感じ取った牙猪はこちらへ向き直るためスピードを緩める。
「『ファイア・アロー』」
小走り程度になった牙猪の側面へと火の矢が衝突する。と、同時に火の矢が衝突した反対側に矢が刺さる。
甲高い絶叫をあげて、完全に歩みの止まった牙猪に追いついて槍を構える。更に、矢が一本追加で刺さりあっさりと牙猪の体がぐらつき、横倒しになる。それでも、動き出したときに即座に槍で突けるよう警戒は解かない。
徐々に牙猪の体が消えていく。
一息つき、警戒を解く。左右に位置取りしていた二人がこちらに向かってかけてくる。お試しパーティーを結成して、わずか四日での地下5階牙猪討伐を成功させてしまった。
「おつかれさん」
「おつかれ。すっげーあっさり倒せたな!」
「お疲れ様です。あっさりでしたね!」
「弓矢ってやっぱり凄いな!」
「レンさんの魔法も凄かったです!弓はどうしても矢を作るお金や持てる量が問題です」
二人とも僅かな時間で打ち解けている。昨日、レンにルーテアさんがパーティーに正式に加入することの是非を聞いたが『入れないつもりかよ』とジト目で睨まれた。その気持ちは分かるがどうしてもクラスの事がネックになる。最悪、周りの人間ごと人生を歪めてしまう。考えすぎだとは自分でも思うが。
「これだったら一人でも牙猪倒せそうだな」
「いえ。弓を撃つ場所がよかったからです。牙猪は頭が固いので一人だと難しいと思います」
「……ルーテアさん。この四日間はどうだったかな?こっちはダンジョン探索が凄く楽になった。正式に組んでくれるならこっから先に進むのもすぐに出来ると確信している」
「……あ、ありがとうございます」
顔を赤らめ、視線が泳ぎながらもルーテアさんは返事をする。
「あ、あの、私もユウジさんとレンさんとパーティーを組めて凄い助かりました。……私も、正式にパーティーに組んで貰いたいです」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。ただ、一つだけ最後に確認したい。……俺たちのパーティー秘密を抱えてる。正式にパーティーに入って貰うにはそれを打ち明ける。その結果として厄介ごとに巻き込まれ、最悪死ぬかもしれない。ルーテアさんの実力なら他のパーティーに参加した方がいいかもしれない。……それでも、俺たちのパーティーに加入しますか?」
初めて会った日に見せたこちらを知ろうとする真剣な瞳。こちらはその日より重要な話題だ。こちらの心の奥底を全て調べられようと目をそらす気はさらさらない。
しばらくというには少し長い間、視線の交錯がルーテアさんのゆっくりとした瞬きによって終わる。
「僕は小さいとき森の中で両親に捨てられました。それを拾ってここまで育ててくれたのが師匠です。師匠は今、病気になっています。それを治すにはこのダンジョンの地下30階でとれるアイテムが必要です」
初日に死にそうなほど緊張した表情でもなく、ここ数日で見せてくれるようになった人懐っこい表情でもない落ち着いて、神秘的とも言える表情とゆったりとした声で話始める。
「僕は師匠に死んでほしくない。だから、僕はここにきました。……僕は幸せ者です。師匠に拾って貰って。心の奥では無理かもしれないと思ってた地下30階へ行こうとしている人たちがいたこと。その人たちがとても優しいこと。僕が地下30階にいける可能性はユウジさん達と一緒じゃないときっとかなわないです」
その瞳に決意の光が灯っている気がする。
「ユウジさん達の秘密を教えて下さい。誰にも言いませんし、その秘密のせいで死んでもきっと後悔しません。僕をユウジさん達の仲間にして下さい」




