11-2
ダンジョンから出た後、まだまだ日が高いので宿屋に戻る。ダンジョン探索の汚れ疲れを落としそのまま昼飯を宿屋でとることにする。
泊り客がほとんどいないこの宿屋が存続している理由は近隣住民が集う飯屋だからである。味はそこそこだが量が多く安価なのに加えて夫婦揃って人好きのする性格で昼飯時になるとテーブルが埋め尽くされてしまう。
なので、長々とテーブルを占領するわけには行かない。食事が済み次第、主人に合図をして部屋へと戻る。
「組合に行くのも速いけど買い物何かに行くのには時間が足りなさそうだからレンの魔法に関して話そうか?」
「おっけー」
「……どこでそんな言葉覚えたんだ?」
「ユウジがたまに言ってるんだぞ。はいとか了解とかの意味でしょ?」
「おっけーだ。で、魔法に関しての話だが……そうだな、ファイア・アローはどう思う?」
「どう思うって聞かれても……強い?」
「そうだな。ファイア・アローをカエルの顔面に当てれば攻撃できなくなるくらい負傷する。そうして止めを刺せばレン一人で狩れるな」
「ただ、ウサギには当てられる気がしないかな。ユウジがウサギには魔法使わせてくれないから多分だけど」
「レンも分かってると思うがウサギ相手ににはファイア・アローを外すと危ないからな。突っ込んできてた場合は当ててもそのまま角で刺される可能性も高いし」
「嫌な事言うなよ。でも、そこも気を付ける」
「ちなみに、ファイア・アローは他の魔法と比べて疲れるとか、使える回数が少なくなりそうとか、撃つ前の集中が更に必要とかはある?」
「あー、ファイア・アローは他のに比べたら疲れるかも。回数は分かんないけど魔法を撃つ前の準備みたいのは難しいかも」
「ふむ」
「疲れる感じはエア・ボールとコレクト・アクアはどっちも同じくらいで差はないよ」
同じ初級魔法でも差があるのを覚えていれば何かの役に立つかもしれない。
「次は……コレクト・アクアはどうだ?」
「えーっと、水が出せるのは便利だなと思う」
「ダンジョン探索には水は欠かせないけからな。変なにおいもくせもないから飲みやすいのもいいな」
「それだけど、水出せるなら荷物として水持っていかなくてもよくない?」
「念のため1日分の飲み水は持っていこう。水の魔法を使える余裕がなかったり、はぐれる可能性もあるからな」
「分かった。俺も出来たら敵をやっつけられる魔法の方を使いたいから」
「直接敵をやっつけるってことは出来ないけど、相手の顔面に水を当てれば目潰しみたいに使えるんじゃないか?」
「そういうのありなの?」
「ありじゃないのか?ただ、実際に使おうと思うならいろいろ実験して練習しないとダメだけどな」
「分かった。使えそうだから使えるようになるように実験と練習したいからユウジも手伝ってくれよな」
「了解。何を実験するかとか練習方法とか考えてみるよ」
個人的にはこの魔法は頑張って欲しいと思う。ダンジョン探索だけでなく生活にもかなり役立つ。レンのコレクト・アクアで出現する水は2リットルくらいだが水量が増えればもう少し気楽に風呂に入れるかもしれない。基本は水で濡らして、現在の風呂事情は絞った布地で体を拭くぐらいである。公衆浴場があるにはあるが金銭的に厳しい。
自前で風呂を用意するときの問題は水とそれを温める燃料だと思う。水をコレクト・アクアで賄い、燃料はファイア・アローで石でも焼いて代用出来ないかと考えている。規模的にはドラム缶風呂ぐらいが限界かもしれないが試してみたい。
「最後はエア・ボールだな」
「……ユウジには悪いけどお金出して覚えるほどの魔法じゃないと思う……と、思ってたけど使い方次第?目潰しには使えるかも」
「……空気の玉を撃ちだす魔法。空気だから目には見えないけど何かに当たるとはじける音がして周囲に風をまき散らす。試した感じ何かを切り裂くどころか一角ウサギを吹っ飛ばすのも無理そう。速度はファイア・アローよりは早い……こんなところか?」
「そうだね」
「まず、目潰しにはコレクト・アクアよりは使い勝手はいいと思う。飛距離も速度もある上に見えないから対応するのも難しい。これも実際には試さないといけないけどな」
真剣な顔で頷くレン。彼女の顔に疑問が浮かんでいないことを確認して話を続ける。
「他にも飛んでる敵に当てれれば落とせるだろうし、飛んでくる攻撃に当てれば攻撃をそらすことだって出来るかもしれない」
「攻撃をそらす?」
「矢だったり、火の玉だったりだ。レンが使うファイア・アローにエア・ボールを当てた所を思い浮かべてみろ」
「……当たった場所でファイア・アローがぼっ!ってなる?」
「何となくだけどそうなりそうだよな。矢も当てればこっちには飛んできそうにないしな。もちろん、そうなるかかは実験しないといけないし、飛んでくるものに当てるんだから練習もたくさんしないといけないけどな」
「結局はまだまだ、実験と練習が必要ってことか」
そうやってあれやこれやと話合っていると組合へ行くのにいいぐらいの感じの時間になっていた。軽く身だしなみを整え、組合へと向かうことにした。