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イエンの街について二日目。
受付嬢が紹介してくれた宿屋はかなりの優良物件だった。掃除が行き届いていて出してくれた夕飯もなかなか美味しかった。老境よりの中年夫婦が営んでおり、何となくイメージしていた頑固さは無く、朗らかなニコニコした穏やかな人たちだった。アットホームと言う言葉にはあまり良いイメージは無かったがああいうのが本来のアットホームなのだろう。紹介してくれた受付嬢には機会があればお礼をしておこう。
資料に関しては言葉を濁されたが多分あるのだろう。閲覧には何かしらの条件……地位や金銭が必要なのかもしれない。わざわざ言葉を濁したのだから追及は出来ない。きっぱりと否定や拒否されたわけでもないので何かしらの条件が揃ったらあちらから反応があるかもしれない。
仮定に仮定を重ねているがトラブルが起こる可能性がある限りこの件は保留がベターだろう。
そんなことをつらつらと思いながら人が捌け始めた掲示板前に移動する。
朝早くから様子見を兼ねて冒険者組合に来たのだが、朝の混雑は凄かった。
離れたところから見ていた感じ、良い依頼を取り合っていたのだろう。意外に感じたのは掲示板に集まっている人々のほとんどが武器を持つどころか簡素な服装であったことだ。その理由は掲示板の依頼書を読むことで何となく想像がついた。
彼ら彼女らが取り合っていたのは、魔物の討伐依頼ではなく街の中で行われる雑事だったようだ。街中の清掃や荷物の運搬など単純な肉体労働だが安全ではある。冒険者組合とあるが単純労働力の提供や下層民の管理なども担っているのだろう。
残っている依頼書を見ていると指定物品の納品や護衛依頼など危険度が上がっている。
流し読みしているが自分にできそうな物は見つからない。これは予定通り、街の外で魔物狩りが良いだろう。
そう判断して、冒険者組合の扉をくぐろうとすると、
「おっさん。外で狩りするの?」
お世辞にも身綺麗とは言い難い子供が声をかけてくる。
「ああ、そうだ」
答えて、周りを見回すが親らしき人物はいないし、こちらに目を向けてくる人間もいない。
「だったら、荷物持ちするから雇ってくれよ」
さて、どうしたものか。
注目されていないということはありふれた光景なのだろう。左手を見る限り冒険者組合員の刻印がある。年齢制限は無いのかと少し戦慄する。さらに堂々と建物の中で声をかけて来たことや受付嬢が動かないのを見る限り違反行為というわけでもないのだろう。
「先ずは、ステータスを確認していいか?」
「おう!いいぜ!」
子供らしい元気な屈託のない笑顔で返事をし、左手を差し出す。
その左手を下から握り呪文を唱える。
レン、イエン、レベル0、冒険者ランク3と表記される。
「俺も冒険者ランクは3で、一人で魔物を狩るつもりだが何かあったとき守れない可能性もあるぞ?」
「げ、同じランクなのかよ」
なかなかに歯に布着せぬお子様である。
唸りながら、視線をあっちこっちに向ける様子も合わせ微笑ましい。
「何を狩るつもりなの?」
「一角ウサギだ」
「おばけカエルとか、おばけカラスは?」
「一匹でいる一角ウサギだけだ……目標数は5匹。昼を少し過ぎたら目標に達してなくても終了する予定だ」
「門が見える範囲で狩る?」
態度には表れないよう気をつけつつも、感心する。安全を主軸に据えれるし、頭の回転もかなり速い。
「わかった。それも約束しよう」
「じゃあ、一匹で銅貨で7枚だったらいいよ」
「受付で普通の値段を聞いてきていいか?」
「冒険者ランクが3で一人でやるんだろ?これぐらい貰わないとやってられないよ」
相場など知らなかったので鎌をかけたが、平然と返してくる。
まぁ、一角ウサギなら一羽当たり銅貨20枚から30枚の値段がつくそうなので銅貨7枚取られたとしても勉強代としていいだろう。
「わかった。今日はよろしく頼む。レン」
「おう!よろしくなおっさん!」
差し出した右手をきょとんと見ていたが、意味が分かると先ほどより元気で屈託のない笑顔で右手を握ってくれた。