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前方には立ち上がり、攻撃準備の整ったお化けガエル。舌の攻撃範囲から3歩分は外で盾を構える。
「『ファイア・アロー』!」
後方からの声。僅かな間の後に一条の炎が駆け抜け、お化けガエルの顔面へと突き刺さる。苦悶の大声をあげ、両手で顔面を叩き当たった後も燃える火を払いのけようとするが消えない。ついには地面に転がり始める。
そのまま、狂ったように転がりまわるお化けガエルの顔面から火が消えたことを確認し、素早く前進。槍の一撃でお化けガエルが霧のように溶けて消える。
(……5秒くらい燃え続けてたな……えぐすぎる)
内心、魔法の威力にドン引きしてしまう。5秒間とはいえ、当たった後も燃え続けるのなら鉄の溶けるような高温でなくても重度の火傷は確実で、お化けガエルの様に顔面に当たった場合、視力の喪失に加え、呼吸でもしようものなら肺まで焼けてしまうかもしれない。当たった瞬間、戦闘不能の止めを刺されるのを待つだけの状態になる。
安全を確認して魔法が飛んできた後方、レンへと振り向く。
「体調は大丈夫か?」
「うん。全部で6回目だし、一回一回時間も空けてるから大丈夫」
「昨日と同じく、あと2回ぐらいは使えそうな感じ?」
「そうだね。あと2回は使えそう」
魔法書を購入して、レンが魔法を覚えた日から7日が経過した。初めての魔法ということもあり、いろいろ知るために6階層目には挑戦せず、今日まで地下1階から地下4階までをうろつき、魔法の実験を行ってきた。
「連続して魔法を使わなければ8回使えて、体調的にも問題無いのは確定だな」
「疲れるのは疲れるけど休みを入れれば大丈夫。ただ、8回使うと体は大丈夫でも魔法はもう使えない感じかな?」
魔法を使えるようになった一回目は実際にどのような感じなのかと限界を知るためにダンジョン内で試し打ちをした。結果として二回目を使った直後から肩で息をし始め、四回目を使った直後には座り込んでしまったのだ。事前にそういう状態になることは調べて知っていたがやはり少女が動けなくなるほど
疲弊したのを見ると罪悪感が凄かった。ただし、これは必要なことだ。
長距離走は自分の限界を知り、そこから自分のペースを作り出す。どんなに鍛えても全力で走る限りはフルマラソンを走りきることは決してできない。
ダンジョン探索は正しく長距離走である。命の危険があるからこそ自分の限界を知り、ペースを作ることはダンジョンから無事に帰ってくるために必須の技術である。
今回も地下1階の敵がいない状態で、エレベーターの近くだったから無傷で生還できたが、地下6階で似たようなことが起こった場合、無傷で帰還できたかは分からない。安全のために小分けにした苦しみを飲み込まなくてはいけない。
「多分だが、魔法を使うと魔力以外にも何か体力的なものも消費する……のかな?」
「あー、だから休みながらだったらその何かが回復して、使える回数が増えるのか」
「うーん。分からん。レンには申し訳ないが実験案を考えるから近いうちに検証しよう」
「分かった。ユウジが必要だと思ってるなら頑張る」
「ありがとな、レン」
ゲーム的に言えばHP、MPに加えて行動時に消費するSPみたいな数値もあるのだろうか。更に、ゲーム的に考えればクールタイムの様に魔法を使った後に冷却期間が必要でそれを破ると魔力の消費量が上がるとかの可能性も浮上する。
SP説、クールタイム説のどちらかが真実であった場合魔法の運用や育成指針も割と変わってしまう。知識量が豊富で魔法も使えるイヴさんも交えて話し合いをしたい。……彼女は好奇心旺盛なので迷惑にはならないだろう。
「おっし。ちょっと早いが今日は帰ろう。イヴさんに夕飯前までに顔を出すように言われてるしな」
「了解」
レンの返事を聞いてもと来た道を引き返すことにした。