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「こちらこそよろしくお願いします」
しばらくしてイヴさんが顔を上げるのを察して顔を上げると笑顔のイヴさん。知り合ってそこそこになるがここまではっきりとした表情は初めて見たかもしれない。
「担当職員に関しては今日はこれぐらいにしましょう。レンさんとユウジさんの間で話し合うこともあると思います。魔法の購入に関しての話に移りましょう」
「魔法使えるようになりたい!」
「説明お願いします」
「はい。以前、お話ししたように魔法を使えるようなるためには回路を刻む必要があります。その回路を刻むためのアイテムは魔法書といわれる本の形をしています。ランク5からはそれを購入することが出来るようになります。魔法書は一冊で一度、一人の人間に一種類の魔法を扱えるようにる回路を刻むことになります。この一連の流れを魔法書との契約などと呼んでいます」
魔法を覚えるためにアイテムが必要という時点で予想してはいたが魔法を覚えるアイテムは一回こっきりの使い捨てとは懐に優しくない。一回しか使えないと言うことで次に気になるのは……
「魔法書との契約には失敗とかはあるんですか?」
「いえ、そのようなことはないです。ただ、魔法が実際に使える使えないに関係なく契約を行うとことができます」
「どういうこと?」
「回路を使って魔法を行使することが出来なくても、回路自体は刻むことが出来るってこと。……例えばだがレンが魔法書と契約したとする。そしたら、魔法書はもう使えなくなるけどレンがその魔法を使えるかどうかは分からないってことかな?」
「そんなことあるの!?魔法書を買ったらお金を損するかもしれないの!?」
「いえ。一概に損をするということではなく、契約直後に使えなくてもその後、力をつけて魔法を使えるようになる方もいますから」
「ただし、魔法書と契約しても結局魔法が使えないままの人もいる……ですよね?」
「はい。それは事実です。むしろ、使えないままの人が多いです」
まぁ、それは仕方がない。それぞれの魔法に魔法を使うための要求値があるのだろう。それを知る方法があれば少しは楽になるのだが……ステータス関連で分からないだろうか。実際には使えない魔法だらけになったら困る気がする。特に魔法書との契約数に上限があった場合だとか。
「契約する種類の上限とかはあるんですか?」
「大多数の人は無いと言っています。理由は単純で魔法書との契約を失敗した人間がいないからです」
「大多数ということは上限があるって言ってる人も少数ながらいるってことかな?上限があるって言う根拠とかはあるのですか?」
「はい。その通り上限はあると言う人もいます。そして、根拠とまでは言えませんが回路を刻むのならその刻む場所がいつかはなくなるはずだと言うのが出発点となります。ユウジさんはどう思いますか?」
「深く考えたわけじゃないけど、上限はありそうな感じかな?検証方法は単純に上限が来るまで片っ端から魔法書と契約するぐらいしか思いつかないけど」
支配者側が隠してる可能性も高い案件でもあるしな。そんな変則的な観点も含めた返答にイヴさんが頷いている。表情はあまり変わらないがこちらの返答がお気に召したのだろう。一つ頷き話を続ける。
「ランク5で購入できる魔法書は三種類となっています。一番人気は火の初級魔法書。火の矢と呼ばれていて初級魔法の中では一番威力があり、それゆえに一番人気です。二番目は水の初級魔法書。これぐらいの水の塊を作り出します」
イヴさんはそういいながら両手で輪っかを作ってみせる。大きさ的にはバスケットボールぐらい。
「それって威力あるの?買う人いるの?」
前半はレンと同意見である。ある程度の大きさがあるとはいえあの程度ではたき火を消すぐらいが関の山で一角ウサギにまともにぶつけても全身濡れネズミにしかならないだろう。だとしたら……。
「確かに威力はありません。その代わりこれを覚えれば探索の時に水の持ち込む量を減らすことができます。水の初級魔法書はその利便性で火の初級魔法書についで人気があります」
「そっか」
納得がいったように頷くレン。イエンのダンジョンは5階毎にエレベーターがあるのでその程度の反応だが行きも帰りも徒歩のダンジョンなどでは必須に近い魔法に感じる。それに日常生活でもかなり便利だ。水汲みをしないで済むのはかなりいい。捕らぬ狸の皮算用ではあるが入浴の頻度を上げられるかもしれない。なかなか、夢の広がる魔法だと思う。
「最後は風の初級魔法書。空気の塊を飛ばす魔法です」
「……終わり?」
「はい」
「それって買う人いるの?」
「はっきり言って買った人を見たことがありません」
「だよね」
「ユウジさん。レンさん。それで魔法書の購入はどうしますか?」