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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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10-2

冒険者組合に到着してイヴさんに牙猪を討伐したことを報告すると案内されたのは二階の一室。大きなテーブルを囲むように複数の椅子。それ以外の家具はなにもない。冒険者が職員との話し合いやパーティーメンバー内での話し合いのときに利用される個室とのことだ。


イヴさんの着席した対面の椅子に座る。レンは隣に座る。


「牙猪討伐おめでとうございます。お二人とも冒険者ランク5に昇格していると思いますので確認して下さい」


イヴさんの指示に従って、ステータスを開く。冒険者ランクは5となっていた。隣のレンのステータスも同様にランク5となっていた。イヴさんもそれを確認して頷く。


「ランク5からは冒険者組合の支援が増えます。資料室の利用、魔法の購入は既に知っていると思いますがこれに加えてランク5以上のパーティーは担当職員を指名できます」

「担当?」


レンが首をかしげる。


「はい。パーティーの補助をする職員をつけることができます。例えば……」


イヴさんの長い説明が終わる。担当職員は個人差はあるものの結構いろいろなことをやってくれるようだ。パーティーにあった仕事を選んだり、パーティーの人員を紹介したり冒険者組合の延長線上の仕事だけではなく、住居の手配、管理、さらには食事の提供などよりプライベートに近いこともやってくれる職員もいるそうだ。


(冒険者組合としては、冒険者は冒険に専念して欲しいってことか?当たり前っていったら、当たり前なんだが、冒険に使う時間が増えれば戦闘回数も多くなるわけでよりレベルが上がる……支配者側は強くなるのを制限しているんだよな?少なくても冒険者組合の支店は支配者側には入っていないってことか?)


「それって組合の職員は嫌がるんじゃないの?」

「職員にも利益はあります。担当しているパーティーが良い結果を出せば組合内の評価が上がりますし、功績次第では金銭での報酬も発生します」

「へぇー。それなら、なりたい人は結構いそうだな」

「そうですね。有能な人はいくつかのパーティーの担当を行っています」

「そんなのありなの?」

「ええ。冒険者の方は担当を一人しか選べませんが、職員が了承すれば複数のパーティーを掛け持ちすることができます」

「それだと有能な人は大変そうだね。イヴねぇーちゃんも一杯指名されるんじゃない?」

「一応、冒険者からの担当指名を断ることも出来ます。私は資料室の作業もあるので全てお断りしています」

「それなら、大丈夫だな」


(いや、普通に大丈夫じゃないと思うぞ。ギスギスドロドロだと思うぞ)


女性二人の会話を聞いて、思わず心の中で突っ込んでしまう。


担当職員の仕組みは額面通りに受け止めれば、冒険者が足りない部分は職員が補い、職員には金銭と組合でのポジションで報いる。冒険者を支援するという冒険者組合の領分をもう一歩進めた、システムに見える。


ただし、実際には職員による優良な冒険者チームの争奪戦が始まるだろう。金銭と評価がかかっているなら正攻法だけでは済まなくなる可能性が高い。


悪影響は冒険者間にも波及するだろう。職員側が断ることができるなら断られた冒険者は断られていない冒険者に妬みや妬みを募らせる。選ばれた冒険者は優越感から傲慢になるかもしれない。


職員同士の関係がギスギスするのは冒険者組合としてはマイナスになるのではないかと思うが、そんな原因元を心配をするよりもそんな人間同士の戦いに巻き込まれないようにするのが肝心だ。


ベターな方法としては、担当職員を指名しないことであろう。ただし、冒険が順調に進み、深い階層に進めば職員からのアプローチはどうしても発生する。結局は問題の先送りに過ぎない。


(やはり、ベストな選択は……)


こちらの視線にイヴさんが気づく。彼女に担当して貰うことだろう。ただ、職員間の闘争に巻き込まれていない彼女を巻き込むことになったらと考えると二の足を踏んでしまう。


「担当職員はイヴさんにお願いしたいのですが……」

「……分かりました。その話をお受けします。資料室でのお仕事も手伝って貰っています。変な要求もないでしょうし」


ちらっとレンを見て、あっさりと承諾してくれる。即答といってもいい速さの返答に感謝するとともに次の言葉を口にすることに気が重くなる。


「ただ、私たちの担当職員になってしまうとイヴさんに迷惑をかけてしまうかもしれません」


イヴさんとレンが同時に小首をかしげる。どうでもいいが、この仕草はレンが良くするが、イヴさんがするのは見たことがなかった。レンからうつったのかもしれない。


「推察の域を出ない話ですが……一応、確認しますが冒険者組合の職員はみんな仲良しで、笑顔が絶えない職場ってことはないですか?」

「……いいえ。むしろ、逆な感じです」


自分の考えすぎの可能性や担当職員のシステムがあっても問題なく回ってる可能性もあったのだがあっさり希望が潰える。


「その原因の一つは担当職員のシステムだと思います」


レンが再度、小首をかしげたのに対してイヴさんはしばらく、虚空に視線を彷徨わせたあと軽く握った右手の側面で左の手の平をポンっと叩く。理解が早くて助かる。多分、導き出した答えはあっているだろうが念のためとレンにも納得できるように言葉を続ける。


「下の掲示板だと割のいい仕事は奪い合いなるだろ?それと同じで評価の高い冒険者は職員の間で取り合いになるんだよ。お金にも、出世にも繋がるからな」

「うぇ」


何かを思い出したのかレンは苦い物を食べた時のように顔をしかめる。依頼を受けることはなく魔物討伐しかやっていなかったので知らなかったがやはり依頼関連でもいろいろあるのだろう。


「奪い合う……結果として評判の良い冒険者を囲うから反感を買う……囲わなければ問題無いと考えてもいいんでしょうか?」

「囲う囲わないはあまり関係はないと思います。担当職員になること自体が問題です。限られた冒険者を奪い合う……商売敵になるんですから。単に優秀な冒険者に指名されるという妬みや嫉むもあります。……残念ですがイヴさんの言葉や行動でこの問題が解決することはありません」

「……担当職員になること自体が問題」


イヴさんの視線が虚空を彷徨う。尻込みするようなことを言った自覚はあるが事実なのだから仕方がない。後悔はない。イヴさんの判断を待つ。


「担当職員になることを引き受けましょう」

「……いいんですか?」

「はい。担当になったからと皆に知らせないといけないわけではないです。それでしばらくは大丈夫です。……その稼いだ時間でユウジさんが有言実行してくれればこの問題は解決です」

「……ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」


頭を深く下げた。




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