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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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挿話 鍛冶師のダンドン

ユウジとレンが店から出ていくのを見届けたダンドンは再度壊れた槍に目を落とす。


所々、刃こぼれしている個所は固い部分、骨などに当たったのだろうか。全体的に刃が潰れ、歪んだのは激突の衝撃だろうか。ただの鉄で出来た穂ではあるが作った本人としては己の未熟に恥じ入る状態だ。


ただ、これをつぶさに観察すれば牙猪の内部構造を考察できるかもしれない。そうすれば、牙猪に特化した武器を作れるかもしれない。……まぁ、観察して得た知識は無駄にはならないだろう。


穂と柄を繋ぐ口金は穂の惨状を鑑みればよく壊れなかったと思う。鉄製の槍を使う冒険者のレベルでここまでの槍に負荷がが生じる腕力を持つものは皆無だ。量産品なら問題は起こらないに違いない。


柄の木製部分。こちらも目に見える破損はないが内部はどうなっているか分からない。変化を感じ取ろうとしていると指先にわずかにへこんでいる個所を発見する。ダンドンが指でなぞっていくと予想通り手の形にへこんでいることが分かった。原因は牙猪に槍を突き刺した際に槍を手放さないようにとユウジが強く握りしめたためだろう。


試しにダンドンも利き手で柄を強く握りしめるがへこみは出来ない。もちろん、命の危険が迫ったときの力と試すために握りしめたのでは力の入り方も変わってくるが同じ状況になったとしても結果は変わらないとダンドンは思う。


力に優れている種族、ドワーフの鍛冶師にも勝る握力を持つ駆け出し冒険者。ユウジのように剣や槍などの近接武器を持って前線で戦う冒険者で中級の者が全力で握れば同程度にへこみが出来るだろうか。


「天才の1レベルと凡人の1レベルは格差がある」


ダンドンの姉の言葉である。典型的な家父長制で基本は長男が全てにおいて優先されるドワーフ社会で女性の身でありながら才を腐らせなかった姉。四男であるダンドンが故郷を離れて鍛冶師の仕事に就き、続けられているのは彼女の存在も大きい。


聞いた当時はそんなものかと思う程度だったが実物を見た後だと何とも表現しづらい気持ちが渦巻く。ただ、ダンドンにとってそんなことは些細な事ではある。大事なのはユウジが強くなればなるほどダンドンの鍛冶師としての技量を上げることができることだ。


ユウジが強くなれば希少な素材を持ってく来てくれるかもしれない。それで武器を作れる。作った武器は強くなったユウジが使えばさらに強くなりそれに見合った素材をまた持ち込んでくれる。かみ合った歯車がグルグルと回るようにこの関係が成立すればと強く願う。


もちろん、容易に実現するものではないとダンドンも分かってはいるが投資する価値は十分あると判断した。判断したからこそのユウジ専用の槍の作成と先渡しという博打にも見える投資だ。後悔はしていない。ただ……


「しばらくは晩酌無しじゃな……」



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