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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
24/60

10-1

「中心が歪んじまってるな。鋳つぶして作り直した方がいい」


牙猪戦で損傷してしまった槍を色んな角度から観察していたダンドンはそう結論付けた。


「買い替えか……投擲武器とかも考えてたんだけどな」

「ユウジの槍がないと稼げないんだから仕方ないよ。ドワーフのおっちゃん。ユウジが牙猪を一発で倒したって信じた?」

「この穂を見れば信じるに値するの。……人間の小娘。何故お前がふんぞり返ってるんじゃ。それはそうとおぬしは怪我はないのだな?」

「一応、腕全体はかなり痛かったよ。打撲用の薬草を塗ったけどまだそこそこ痛いし」

「ふむ……そこでちょっと待っとれ」


そう言うとダンドンは店の奥へと引っ込む。会話の途中で退席した理由が思い当たらずレンの方を伺うがアイコンタクトが通じたレンも首を横に振る。


不思議に思いながらもダンドンの言葉に従って待っていると思いのほか早くダンドンが店の奥から戻ってくる。手には量産品とは毛色が違う槍が一本。


「何も言わずにこれを構えてみろ」


店のカウンター越しに槍を受け取り、言われるままに槍を構える。最初に感じるのは重さ。牙猪戦まで使っていた槍とは段違いに重く、柄まで金属製だと分かる。ただ、その重さに反して動作を阻害するような要素はなく、重心が座るようなどっしりとした心強さまで感じる。


「凄いなこれ。重いのにそれが煩わしくない。頼もしさすらある」

「穂先から石突まで儂が鍛えた鋼でできておる。穂は先端だけでなく両側も刃にしてある。付与は『頑丈』。文字通り壊れにくくなるが手入れは教えた通り手を抜かずにやれ」


穂に目を向ければ量産品とは異なり長く、ダンドンの説明通り両サイドは鋭い輝きが宿っている。そして、付与。金属の種類と量によって制限があるものの便利な機能をプラスしてくれる魔法の一種である。魔法なので使える者が限られており簡単な付与でもかかっている装備品は値段が跳ね上がる。


俺用に作ってくれたのはダンドンの言葉から何となく分かった。ただし、言わなければならないこともある。


「あー。凄いのは持っただけで分かるし、多分俺のために作ってくれたのは想像がつくんだが……俺の手持ちじゃ絶対に買えないぞ?」

「それは分かっておる」


自分で言い出したのだが、即答されると少し傷付く。即答したダンドンは咳払いを一つ。


「いくつかの条件を承諾してくれるのなら代金は後払いの形で構わん」

「後払いなら凄い助かるが……条件は?」

「一つ目は支払いはダンジョンで出る魔石払いにして貰う」

「一応、魔石をどうするかは拾った冒険者の自由にしていいってことにはなってるが……魔石を売ったお金で生活してるんだから全部は無理だぞ」

「そこら辺も理解しとる。魔石を組合に持っていくか儂に持ってくるかはそっちが決めてよい。ただし、儂が欲しいものは伝えるからそれはできる限りもってこい。あと、お前が魔石を持ち込んでることは誰にも言わん。儂だって冒険者組合に目をつかられたくはないわ」

「ちなみに、好奇心から聞くんだが魔石を手に入れてどうするんだ?」

「お主よくそんなことさらっと聞けるの……まぁ、よい。付与するために使う。他言無用だぞ」

「魔石の種類で付与できる種類が変わる感じか?」

「察しがいいな。だから、ある程度の種類が欲しいし、数が出回らない魔石も欲しい。ちなみに、その槍に付与した『頑丈』は牙猪の魔石を使っておる。あまり出回らない魔石を使ったんじゃから感謝するんじゃぞ」


思わずレンの方を見る。今回もアイコンタクトは成功したようでこちらの意図をくんで頷いてくれる。


「牙猪の魔石は昨日拾ったんだがいるか?」

「ほぉ、やはりお主は持っとるの。だが、残念ながら牙猪の魔石の値段が分からん」

「値段が分からない?これに使った魔石は冒険者組合から買ったんじゃないのか?」

「その槍に使った魔石は確かに冒険者組合から買った。……魔石の値段なんじゃが、お主が冒険者組合に売った値段と同じ値段で買い取りたい」

「冒険者組合が売ってる方が高いのは分かるがそこまで上乗せされてない可能性もあるぞ?」


ダンドンは無言で首を横に振る。何か確信があるのだろうが無言なのが悲哀を誘う。


(俺が組合に売る値段とダンドンが組合から買う値段に差があればある程ダンドンの利益にも繋がる。逆に言えば、差がないとダンドンの利益は少なく、リスクだけが増えると思うんだが……そこは実際に分かってからにするか)


「了解。今度来た時にでも牙猪の値段は伝えとく。あと、知ってる魔石の値段は……」


最初は口頭で説明しようとしたが折角ならば情報は多い方がいいだろうとダンジョンの階層ごとに出る魔物の種類も追加して紙に書いて渡す。


「予想よりぼったくれておったわい……」

「……下の階層の魔石も都合できるように頑張るよ」


出会って初めてだと断言できるぐらい小さな声で絞り出すように言う。


(暴利を貪ってる可能性もあるけど全量買い取りの仲買は結構コストかかることもあるから迂闊なこと言えないんだよな。お世話になってるし)


「で、他の条件は?」


お茶を濁すようなコメントをして、さっさと次の話題に移るように促す。


「そうじゃの……あとは、儂が作った物は儂が買い取るからよそには売らないこと。ダンジョンで面白いものを拾ったら儂にも見せること。武器は儂から買え。……こんなとこかの?」

「なんだそれ。今、適当に考えただろ?……というか、そんなことでいいのか?俺の方が利益が多いと言うかダンドンのリスクが大きすぎると思うぞ?お前だって分かってると思うが、俺が返済前に死ぬ可能性だってあるんだぞ?」

「お主は根本を勘違いしとる。この契約で儂が一番欲しいのは金ではなく付与に関する素材じゃ。ドワーフの忠言に『よい鍛冶にはよい素材。よい素材はよい取引先』というのがある。恩に思うなら早く強くなってよい素材を持ってこい」


ダンドンの言葉を反芻する。俺がダンドンの立場で考えるならこれは投資だ。上手くいけば中長期的に魔石が割安で手に入り、武器を買ってくれる顧客も手に入る。


これ以上うだうだ言うのも野暮である。下心があるとは言え、ようやく『冒険者』と認めらた程度の駆け出しにこの槍を投資してもよいと思って貰えたのだ働きで答えるのが筋だろう。


「分かった。ありがたくこの槍は使わせてもらう。条件も了解した。契約成立だ」




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