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イエンの街について43日目。
初ダンジョン探索とステータス画面の件で悩んで3日後。そこから7日間を休むことに決めた。理由はいろいろあるがその一つが情報収集。
クラスを習得していくタイプのゲームなら普通は習得数に上限が決まっている。それがみんな同一なのか個人ごとに違うのかは判断が付かないが何でもかんでも習得するよりはテーマを決めて、数を絞った方が効率的だろう。
まず、レベルの高さに関して。現在、イエンの街で一番高いレベルの冒険者で23。
レンが初めてのレベルアップで3つのクラスを取得したと考えると、単一のクラスで23レベルはあり得ない気がする。レンの年齢で3つもクラスを取得したということはクラス取得の条件が緩いクラスがあったり、クラス自体の数が多いと考えられる。
理由をしては23レベルでクラスを2つ所持していた場合、簡素化して考えると12レベルと11レベルのクラス構成。3つなら8レベル、8レベル、7レベル。10クラス所得していたら2レベルから3レベル程度だ。
視点を変える。
冒険者全体を考えると平均は10レベルの前半で収まるそうだ。その場合、クラスを10個取得していたなら1レベルから2レベルしか無いことになる。そうなると、トップ冒険者と平均的な冒険者の差は1レベル差しかない。だが実際の実力、身体能力などは天と地ほど離れているそうだ。
自分のレベルが上がったときはそこまで身体能力が上昇した感じはしなかったので1レベル差ではそこまで差は発生しないと感じている。結論としては10以上のクラスを取得していることは無いだろう。
ただ、取得クラスに上級クラスがあってそれを取ると一気に強くなる可能性はあるのか……その場合は、クラスを積極的に取得していく方がいいのか?
情報が足りない状態で凡人である自分が考えれるのはこの程度だろう。そもそも、頭の中だけで考えるには複雑すぎる。
まずは、クラスを絞って習得して、レベルが上がらなかったり行き詰まりを感じたら新しくクラスを取得する方向でいいだろう。それならスムーズに方向転換できる。逆の場合、総レベル上限に引っかかったら器用貧乏な微妙冒険者で終了してしまう。
情報収集としての資料室の資料に関しては分類整理から開始するようだ。分類されていない書物から目当ての書物を見つけるには一冊一冊、ある程度読まなくてはならない。その上、書物の内容が本当かどうかも分からない。時間をかけてやっていくことになるだう。
目的に沿った書物があるかどうかイヴさんに聞くことも考えたがステータス画面の秘密は命の危険を伴う。自分の情報でステータス画面の秘密に近づいてしまったらと思うと迂闊なことは出来ない。
秘密の共有は一蓮托生に繋がる。秘密を教える側としては秘密が漏れても信じた自分が悪かったと思える相手にしか教えないと決めたし、教えを受け取る側には秘密を知らなければならない特別な事情が無い限りは教えるべきでもないと判断した。
なので、イヴさんにはステータス画面の情報は言わない。そして、レンには最後の選択肢を渡した。回答は今日だ。
見慣れてきた宿屋のドアを開けると食堂の椅子にレンが座っている。
「とりあえず、上の部屋で話すぞ」
頷くレンを伴って、いつも寝起きしている二人部屋に移動する。狭い寝るだけの部屋なので椅子なんて洒落た物は無いのでベッドに腰を掛けて向かい合う。
「もう一度、繰り返しになるが……状況が変わった。俺とこのまま組んで冒険者をすると冗談抜きで厄介ごとに巻き込まれる可能性が出てきた。これは他の冒険者と組んだ時には発生しない可能性だ。レンもレベルが上がった今ならちゃんとした冒険者と組むのもそう難しくはないと思う」
イヴさんにも手を回すつもりだしな。
一旦、言葉を切る。前回とは違い考える時間を与えたのでレンの瞳にはこちらの言葉を理解している光が宿っている。
「理由は教えてくれるか?」
観察は当たっていたらしく前回の混乱であたふたするだけだった時とは違い、レンはきちんと質問をしてくる。
「レンがこれからも一緒に冒険をすることになったら話す。理由を話すだけで厄介ごとに巻き込む可能性があるからな」
「俺が迷惑ばっかりかけてるからじゃないよな?」
「当たり前だろ。前にも言ったが今でもお前はのおかげで俺は助かってる」
「……ユウジが俺のためにどうするか聞いてくれてたとは思ってたんだけど……それでも、本当は俺のことが邪魔になってって考えが出てきて……」
「あー、それはすまん。確かに、言葉が足りなかったな」
それであんまり元気が無いように見えたのか。自分基準で考えて言葉足らずな事があると怒られたのを思い出す。
反省していると向かいに座ったレンが立ち上がり正面から抱きついてくる。
「泣いてるのか?」
「泣いてねぇーし」
「レンは泣き虫だな」
「泣いてねぇーし」
「レンは甘えんぼだな」
「……ダメか?」
「……泣き止むまでだぞ」