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この世界でいきていこう  作者: 三文茶筆
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1日目挿話 イヴさんとユウジさん(1-2)

彼を初めて見たのはとある昼下がり。


同僚の病欠で休日にも関わらず、出勤要請が来たのだ。


一日中、部屋に籠って本を読む予定だったのだが断る口実も思いつかず、あえなく出勤となったのだ。


ただ、振り返ってみるにいやいやでも出勤した自分を褒め、病欠した同僚には感謝したい。


話が脱線したので軌道修正。


いつの間にか扉を潜ったのか見知らぬ男。身嗜みは旅装ということを加味した場合は得点は高いが、容姿は良くもなく悪くもない顔に中肉中背。初見の印象は兎に角、凡庸な男であった。


そんな彼への印象は彼の一言目で覆る。


「冒険者登録をしたいのですが大丈夫ですか?」


落ち着いた口調に、丁寧な言葉遣い。そして、声質。


自分の内に湧き上がる言葉にならない何か。


誤解無き様に言っておくが私はハーフエルフなので、他の人間より聴覚に優れている。なので、声に対して並々ならぬ関心と興味があるだけである。人を評価する上で声の良し悪しは重要である。


その私が評価するに彼の声は過去十指に入る。


ただ、それだけではない。


その優秀な声質に合致した、口調に丁寧な言葉遣い。その組み合わせの妙は……。


「はい こちらで登録できますよ」


いろいろ思考が暴走しそうだったのを止める。こういう時は表情の変化が表に出にくいことに感謝する。


女性である自分が男の声一つで心を興奮したなど知られたら恥ずかしすぎる。


その後、事務的に会話をするが彼の態度は変わらずに丁寧であった。これが依然読んだ本に書かれていた紳士的な態度なのかもしれない。


スタンプの魔法が発動する。ステータスを確認するとレベル1。0では無いので魔物を倒した経験は嘘では無いみたい。魔物との戦闘経験がありレベルも0では無いので、冒険者ランク3で間違いない。


パーティーの要望を聞くに慎重な性格らしい。一人で活動するのは魔物より同じ冒険者を警戒しているのかも知れない。


こういう人物は短時間で中級まで伸びていくことが多い。それ以上は、運や才能が必要になるけど。


宿の紹介を頼まれたので叔父の宿屋をすすめることにしよう。彼ならば滞納などの迷惑はかけてこないだろう。


「冒険に関する資料などは見れたりしますか?」


その言葉の意味が一瞬、理解しがたく硬直してしまう。理解をしたらしたで更に返答に困ってしまう。


冒険に関しての情報、主にダンジョンに関しての情報などは各支部の裁量で蓄積している。そして、この情報は組合に貢献している冒険者が開示を求めてきたとき始めて開示していいこととなっている。


彼は登録してばかりの初心者冒険者であり不適である。


ただ、逃したくはない。


ここに勤めて初めてとなる資料を欲した冒険者。


普通は読み書きなど出来ても資料を、本を読むなど思いつかない。そう、普通ではなく本に慣れ親しんできた者の考え。


そう考えると彼の紳士的態度も上流階級のなせるわざなのかもしれない。上流階級なら本を嗜んでいても不思議ではない。


もしかしたら、本について語り合える同好の士を得ることが出来るかもしれない。


職務と私事で揺れる内心を悟られるぬように手元に視線を落とし、叔父の宿屋までの地図を書く。


結局、地図が完成するまでどうするかを決められず、彼に地図を渡す。


「ありがとうございます」


自らのどんくささに落ち込んでいると優しい笑顔と変わらない柔らかな声色と丁寧な言葉遣いでお礼を言われる。


彼の、ユウジの事は忘れないようにしようと心に決めた。



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