5-4
レンが泣き止んだ後は探索を切り上げ帰ることにした。
大泣きした後の気恥ずかしさからか強がろうとしていたが再度、頭を撫でるとしぶしぶのていで帰還することを了承した。
その判断は間違いなかったようでどうにか頑張ってダンジョンを出たはいいがすぐにレンはうつらうつらし始める。冒険者協会に着いた時には夢の世界に旅立っていた。受付にイヴさんがいてくれたことはこのうえない幸運で武器と盾を頼み込んで預かって貰いレンを背負って帰ることが出来た。
そして、レンを隣のベットに寝かせてようやく一息付けた。いろいろなことがあった日で自分もさっさと横になりたいのだがそうも行かない。
レンのステータス画面を見たときの違和感というか降って湧いたイメージ。それを確かめなくてはいけない。
念のため、窓を閉め外から見えないようにする。
「ライト」
唱えると枕元の机の上のランプに光が灯る。日常品として使われる魔法の品で明かりの持続時間や光量を増幅してくれるそうだ。電気で動く卓上ライトと遜色ない明るさがある。
眩しさでレンが起きてこないないことを確認して、自分のベッドに腰掛ける。
「ステータス。オープン」
目の前に映像が投影される。そう、映像が投影されている。何もない空間がまるで液晶画面のようになっている。
ゆっくりと右手の人差し指を突き出し、その液晶画面に触れる。もちろん、実際には何もない空間。指先に液晶画面の硬さを感じることはない。それでも、液晶画面に触れていると思われる場所で人差し指を左に移動する。
……画面が変わった。
タッチパネル方式なのか……いや、引っかかるのはそこじゃない。こんな単純な仕掛けを誰も教えてくれなかったこと……か?
混乱しそうになったので、一つ一つ考えていくことにする。
まずは危ないと感じることから考えていこう。これの仕組みや有用性は後でも問題は無いはずだ。
この魔法を冒険者にかけている冒険者組合が一画面だけでなく更に情報が続くことを知らない場合と知っていて教えない場合。
知っていて冒険者には教えない場合はこれが悪用される可能性があるからか?いや、悪用まで行かなくても都合が悪いからか?
とあえず、移動後の画面から推測出来るかもしれない。意識を画面に向ける。
名前や所属の画面から移動した画面はクラスと一行目に記載され、その下にいくつかの項目。
二行目には、ソルジャーと記載され、右側に1と表示されている。
三行目には、高密度魔素体質と記載され、ソルジャーと同様に右側に1の表示。
高密度魔素体質はよく分からないが、戦士と体質をたすと2になることからレベルはクラスの総数と推察できる。これなら、レンが一気にレベル3になったのもクラスを三つ一気に獲得したと考えればおかしくはない。
ゲームになぞらえて考えるならクラスを取得して、強くなっていくシステム。そういう事なら……
ソルジャーと表示された部分をダブルタップするとさらに表示画面が変化する。
一番上にはスキルの文字。
「ステータス、クローズ」
内容を精査する前に画面を閉じ、ベッドに背中から倒れ込む。
クラスが共通の物ならこの画面を見て、取得条件や有用なクラスやスキルを知識として蓄積していくことが出来る。これが世間に公開されているのならその恩恵で強い冒険者が溢れかえる返ることだろう。
結果として、社会は完全に崩壊する。
社会の秩序を担保しているのは結局は暴力だ。暴力があるから犯罪を行った者を捕まえて罰を与えることが出来る。罰があるから大多数の人間は法に従うし、それが長年続けば倫理観や良心になるだろう。
それなら、この事実を隠してるのは少なくても体制側は確定。社会の維持を行いたいと思っている者も従うだろうから冒険者組合や大商人などの富豪も支援していたもおかしくはない。
これを以前から知っているならその蓄積してきた知識を実践して体制側は想像を絶する程に強いに違いない。
ただ……。この知識を使わないのは勿体ないよな……