『無双』と書いて『不便』と読め!
「あーあ……。またやっちゃったよ……」
拝啓。多くなかった友達と親愛なる家族へ。
俺は今、よくわからない世界にいます。
俺が死んだのは、はや一週間前ですね。
死にました。天国(?)みたいな場所に行きました。女神と名乗るお姉さんから力をもらいました。
それで、異世界転生しました。
なぜか異世界人と言葉は伝わるし、自分は強いなんて枠をぶち抜くほど強いし……。
うん、強い。というか強すぎ。
「さらば。新居のドア……」
強すぎて触るだけで家のドアがぶち壊れます。
木のドア(1代目)からはじまり、つい今ぶち壊したのが鉄のドア(19代目)。
ドアがことごとく、取っ手を引いた瞬間にバキッて取れるんですよ。
取っ手なんて名称のくせして手でもぎ取れるんですよ。
どうしてこんなことになったんですかねぇ……。
普通の生活を送りたいのに、本当にどうして――。
「もうドア修理すんのやめよ……。のれんにするか。そうだ、のれんにしよう」
セキュリティーは諦めます。というか俺自身が最強のセキュリティーなんで、最初っからいらねぇわ。
ぐだぐだ喋ったけど、とにかく俺は元気です。
心配なのは修理代がかさんでるくらいです。しかもこの世界のお金をまったく持っていないので、全てツケにしてもらっています。
はぁ……。どっかでバイトでもしないと本格的に餓死しそう。
飯は女神似のお隣さんからタダでいただいて、家は空き家を無償で貸してもらって――。
近くにいたのが情のある人たちで助かってるぜ。
とにかく頑張ってるから。心配しないでな。
俺、生きてるから。
元・凡人だった久山 双一より。
P.S. 双一なんて名前なのに無双するから矛盾してるよ。改名していい?
―――――――――――――――――――――
さて、届くはずもないメッセージを頭の中で作成したわけだが……。
本格的に金欠だ。お金がほしい。
こういうとき、なんか悪い魔王みたいなやつがいて、俺がチート能力で倒すのがお約束なんだけど……。
だから本当は国から異世界転生者として特別扱いされるはずなんだけど……。
「誰も信じないんだよな。ハイテクな物のひとつでも持ってくればよかった……」
本気を出せば器物損壊になりかねないから感情的に訴えることもできず。
事情を話しても「信じられません」の一言で門前払い。
あったけぇのは大家さんと隣人の女神様(に似ているけれど、性格も女神級なお姉さん)だけかよ、おい。
今日も今日とて生きるために金稼ぎ。
――したいのに、どこも雇ってくれねぇ。
即クビになる。
ある日の話を簡単にしよう。
俺は近くにあった飲食店で働こうと、まずは面接をしに行った。
「はじめまして、久山と言います! できればここで働かせてほしいのですが!」
「おぉ! こんなボロい店に若者がバイトに来てくれるなんて! 即刻採用ぅ!」
「マジすか! ありがとうございます!」
店主が手を差し出してきたので、俺は歓喜の握手に応じたのだった。
その瞬間――。
「あぎゃあぁぁぁぁぁ! 手がァァァアア!?」
「ひぇぇぇええ! すいません、まだ力加減がわからなくて!」
「こんな馬鹿力野郎に接客業ができるか! 帰れ! 死ね!」
別の日の話をしよう。
もういっそ、馬鹿力を売りにして肉体労働すればいいと思った俺は鉱石採掘みたいな仕事の見学をすることにした。
「はじめまして、久山と言います! 腕力には自信があるのですが、初心者でも働けますか?」
「おぉ! こんな激務に若者が興味を持ってくれるなんて! 即刻採用ぅ!」
「マジすか! 今日からよろしくおねがいします!」
親方がピッケルを差し出してきたので、俺はそれを手にしたのだった。
その瞬間――。
「あぎゃあぁぁぁぁぁ! なぜピッケルがァァァアア!?」
「ひぇぇぇええ! すいません、まだ力加減がわからなくて!」
「もういい! お前、そんなに力があるなら素手でやって来い!」
「はい! ちょっとやってみますね!」
掘るって行為をするべきなのに、どうして俺はあの時グーパンをしたのだろうか。
洞窟の中で壁に向けてグーパンが放たれた瞬間。
ドゴシャアァ、と硬いはずの石壁が砕け散って――。
「ぐわぁぁぁぁぁ! なんだァ、今の衝撃はァァァアア! まずい、このままだと崩れるぞ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい! まだ力加減がわからなくて!」
「こんな馬鹿力野郎、危険すぎるわ! 帰れ! 死ね!」
洞窟は崩れた。
ちなみに人命は無事です。ケガもなし。
その代わりクビになったけど。
ともかく、俺は働けない。
強すぎて何もできない。
もっと富、名声、力、女みたいな異世界生活できると思ったのに。
自分にあるのは力、力、力――。
アホか? アホだろ。
なんせ馬鹿力だもんな。
やかましいわアホ。誰がバカじゃボケ。
――何やってんだろ、俺。
「虚しいな……。虚無だ、虚無。こんな毎日、虚無以外の何物でもない」
働かせてくれ。
頼む。どこか馬鹿力を必要とする職場があれば……。
俺を救ってくれ。慈悲をかけてくれ。
とにかく今日も力仕事を中心に働き口を探そう。
嘆いても仕方ないからな!
異世界のくせに求人広告はしっかりとある。めげずに片っ端からアタックしていこう。
む? なんだこの広告?
仕事の内容欄に「強キ者、求ム」ってだけ書いてあるな。
けれど他とは比べものにならないほど稼げるぞ!
こりゃ今の俺には天職だ! すぐに向かおう!
喜びのあまり求人雑誌を引き裂いてしまったし、ダッシュで地面にヒビを入れてしまったがしょうがない。
俺、最強だもん。最強にした自称女神様が悪いんだもん。
「すいませーん! 求人見て、強いやつを雇うって書いてあったので来ましたー」
俺は目的地に到着すると、すぐさま扉をノックした。
一回だけゴン、と拳がぶつかった瞬間――。
ものすごい勢いでドアが吹っ飛んでいってそれは中にいた黒服の男に当たってしまう。
凍りつく空気。
部屋の中は黒服のゴツい男ばっかりで、一番奥からボスみたいなやつがすっごい形相で睨んでくる
ドアが命中してしまったのは黒服のうちの一人。ボスじゃなくてよかった……。
「えぇと……。仕事をしたくて、来ました……」
「ナメてんのかガキがぁあ! ぶっ殺すぞ!」
「ぎえぇえええ! ごめんなさい! わざとじゃないんです!」
この職場、絶対に悪い集団だ!
どうしよう! 一回死んだのにまた死ぬッ!
とりあえず謝ろう! 命だけはッッ!
「ごめんなさいごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
「うるせぇよ! しっかり誠意見せろボウズ!」
「せい……い?」
「土下座だよ! 頭から血が出るまで床に擦り付けんだよ! それとも死にてぇか!」
ひぃぃぃいい!
やべえぇぇぇえええ!
俺は一瞬で脚を折りたたみ、正座の姿勢になった。
そのまま思いっきり頭を下げ――。
ドグシャァアアアア――!
「な、なんだコイツ!? 頭が地面に埋まりやがったぞ!」
「ボス! このガキ、タダモノじゃねぇ!」
「ごめんなさぁあい! もっと謝るから、殺さないでくださいー!」
ゴシャ。ドゴッ。メリッ。
痛みは感じなかった。強すぎるぞ、俺の頭。
「このまま騒がれるとサツが来るかもしれない! 早くそいつをどうにかしろ!」
「おい、ボウズ! 採用だ! お前は今日からウチのファミリーの一員だぞ!」
「マジすか! 今日からよろしくおねがいします!」
よかった! 命は助かった!
攻撃力があることは知ってるけど、防御力があるかはわかんねぇもんな。
ナイフでいきなり刺されたりとかしなくてよかったぜ。
「さっそく仕事だ! 銀行からカネを奪ってこい!」
「ぎ、銀行なんてあるんですか!?」
「当たり前だろ! タンス貯金はほどほどにしておけよ!」
そこじゃないんだが。
異世界って思ったより現代的なんだなぁって。
いや、でも、銀行の歴史を遡れば、すごい昔に行き着くのでは……?
「オラ、早く行ってこい! カネをぶんどるのがお前の仕事だ!」
「でも、それ犯罪ですよね……? 異世界に来てまで犯罪行為はちょっと――」
「言うことが聞けねぇってか!? 何しに来たんだテメェ!」
頭を抱える黒服。
そうだよな。俺が働きたいって行ったのに、仕事を放棄するんだもんな。
矛盾してるよな。
「と、とりあえず、違法行為は嫌なので、今日はここらへんで帰ります。普通の仕事が入ったらまた連絡くださいね」
逃げよう。
こんな人たちとは関係を断つことが一番の最善策だ。
俺が外に出ようと背を向けると、ボスらしき男が叫んだ。
「生きて返すな! アイツはスパイに違いない! 俺たちの拠点をサツが調べるために送ったスパイだ!」
「ひえぇぇぇぇ! どうしてそうなるんスか! 違いますよ!」
「オラ! 覚悟しろ!」
黒服に胸ぐらを掴まれ、あっさりと投げ飛ばされた。
このままだと壁にぶつかる!?
危ないッ――!
俺はとっさに両手を前に出した。
その両手で壁に衝突した時のダメージを緩和しようとしたのだ。
けれど、その両手は壁に到達した瞬間、壁の中を突き破っていって……。
ドバキャゴシャァ――。
建物が倒壊した。
―――――――――――――――――――――
「じゃあ君はアルバイトを求めてあの場にいたんだね?」
「はい……。まさか悪い人のいる場所とは知らず……」
どうしてこうなった?
なんで異世界に来てまで事情聴取を受けねばならんのだ?
「……で家の倒壊だけど。君、魔法使っちゃったでしょ」
「いえ、壁にぶつかりそうだったのでとっさに手を出しただけです」
「隠したい気持ちはわかるよ。街で魔法使うのも犯罪だからね。でも、今回は正当防衛になるからさ。本当のこと言ってよ」
「素手です。マジで」
睨まれている。
きっとこの警察のにーちゃんは俺がふざけていると思ってるんだろうな。
そんなことないのに。
「あのね……。こっちも仕事でやってんの。あんまり怪しいと疑われちゃうよ?」
「す・で・で・す!」
俺が少し力強く訴えると、警察のにーちゃんはついに実力行使へ移った。
「逮捕ぉぉぉおおおお! 罪状、業務妨害!」
「はぁぁぁぁぁあああ!? 待ってくれ! 俺は本当に――」
手錠をはめられそうになった俺は、つい警官の腕を握ってしまう。
自分としてはそこまで力を込めていないはずだったが……。
「うぎゃアァァァァァ! 腕がッッッ!」
「あぁ! すいません、すいません! ほら、俺、馬鹿力なんですよ!」
「いくらなんでも強すぎる! なんなんだ君は!」
「た、ただのニートです!」
「怪しい! やっぱり逮捕だな!」
ついに手錠がはまった。
まずい。破壊すればするほど怪しまれる。
もう絶対にこの手錠は壊さないようにしよう。
手錠を壊したら言い逃れできなくなるぞ。
「オラっ! さっさと歩け!」
「うわっ――」
しかし、とっさに引っ張られてしまった俺はその場でバランスを崩すことになった。
危ない、転ぶっ! ――って、さっきもこんな展開あったような。
嫌な予感がしたが前に倒れるまでは一瞬。
脳は反射的に体を守るよう命令してしまう。
バキッ――。
ズドショォォォオン――。
とっさに出た手で地面を割り、ついでにその衝撃で手錠も壊してしまった。
拳が少し埋まっている。
「ギャァァァァァアア!? なぜ地面がァァァアア!?」
「す、すいません! ちゃんと逮捕されますから、落ち着いて!」
「もういい! こんな危ないやつ、署にまで運べるか! 帰れ! 死ね!」
「えぇ……」
なんだこの世界。なんだこの体質。
俺、結局見逃してもらえたの?
嬉しいけど、本当にそれでいいのか?
というか、やっぱり職には就けなかったよ。
誰か雇ってくれないかな……。
俺は途方に暮れながらも、なんとか帰宅という選択をした。
帰路の途中は意識を失っていた。もうマジでニートのままなんじゃないかと不安だったから。
だから気がついたら家の前に立っていて――この家を見てもなんか嫌気がさすな。
ドアがなくなって入室自由となってしまった家。
実は家の中も穴だらけでボコボコだ。
全部自分の責任? 本当にそうか?
こればかりはしょうがないっていうか、自称女神様が悪いよな。
この腕力はあのアバズレ女を引っぱたくために存在してるんじゃないか。
「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛! イライラする! なんでもいいから全力でぶん殴りたい!」
この世界に来てからストレスかかりっぱなしの溜めっぱなし。
なにかで発散しないとこの世界を破壊しそうだ。
本気で何かを殴ったらどこまで壊れるんだろう。
「この鉄のドア(19代目)だったものをぶん殴っても、誰にも迷惑はかからないよな……?」
もうやっちまえ――。
頭の中で声がした。全力で、自分のために拳を出せと。
「よっしゃあ! ぶん殴ってやっぞ!」
ドアを思いっきり握ったらその部分が変形してしまった。
けれど気にする必要はない。
だってもうただのゴミだし。
俺はドアを左手で持ち、右手で狙いを定めた。
全身全霊で、ストレス発散のためにぶん殴る!
「セイッッッッッ!!!!」
俺の拳がぶつかったその瞬間。
ぶつかった地点からとんでもない熱エネルギーが放出され、ドアが蒸発。
しかし熱だけでなく、光や音も次々と世界を飲み込んでいき――。
結果――。
ビックバンが起こった。
―――――――――――――――――――――
目を開けると、そこは光に包まれた空間だった。
なんだこれは。俺はビックバンの中でも生きているというのか。
「なわけないでしょう! なんてことやらかしてくれたんですか!」
「あ、あなたは、お隣の!?」
俺にタダ飯を食べさせてくれる慈悲深いお姉さん!
忌々しい自称女神と似ているけれど、この人の優しさは本物だ。
「いいえ。誤解しているようですが、私は自称じゃなくて本当に女神だし、お隣のお姉さんは女神様そのままですよ」
「……は? 日本語喋ってます?」
「あなたこそ、ちゃんと日本語聞いてました?」
煽り返された!
でもお姉さんの辛辣なとこも好きだ! 抱いてください!
「キモっ……。あの、私、人の考えてることなんて簡単に見破れますから、あんまり私で卑猥なこと考えないでください」
「????? 裸になんてしていませんが ?????」
「無理やり疑問符を思い浮かべても無駄です。裸どころか突いてましたね」
突く?
ビリヤードの話かな。
自分で考えるなって言うわりにはめちゃくちゃ直接的な表現するんだなぁ。
「それで、話を戻しますけど。隣のお姉さん=私=女神様なのですよ。あなたを金銭的に支援しようと隣人になりすまして食を提供していました。なのに!」
女神様が空を指差した。
同じように顔を見上げてみると、そこにあったのは……。
「宇宙? あれが太陽で……。えっと、水金地火木土天海冥だから……」
「宇宙、正解です。しかしあれが太陽だという認識が間違っています」
「は? じゃあここどこスか? 俺の知ってる範囲の宇宙じゃねぇな?」
「あれは私たちがさっきまでいた場所です。あなたが本気でドアを殴ったから、今も絶賛爆発中なんですよ」
は?
俺、自分の手で宇宙の法則乱しちゃった?
やれやれ――なんて言ってる場合じゃなくなったぞ。
「あなた、また死んだんですよ。そこちゃんと反省してます? せっかく第二の人生あげたのに」
「もらったというか、押し付けられたというか……。そもそもあんたがいらんチート能力つけたのが間違いなんじゃないスかね」
「制御できないあなたが悪いです。ほんとにどうしてくれるんですか、これ」
不自然に完成してしまった光源を見て、女神様はうんざりしていた。
俺もそんな女神様を見てウンザリ……。
こっちが言いたいよ。なんてことしてくれたの。
「あの……。俺、普通に死んだほうがよかったんじゃないですかね」
皮肉たっぷりに言ってみる。
すべてお前のせいだぞ、この野郎。
伝われ、この怨念。
「いいえ、むしろチャンスです。救世主になってみませんか? 悪く言えば『償い』ですけど」
「は? これをどうしろと……」
「わかりませんよ。とにかくどうにかしてください。あなたのせいで銀河が滅びそうなので」
「銀河……? 惑星ひとつじゃなくて?」
「あなた、ビッグバンのことナメてます?」
ビッグバンとは宇宙の起源。
とりあえずやべー爆発。
あとは、えーっと……。
「絶賛爆発中のあれを『私たちがさっきまでいた場所』と表現しましたが、あれは惑星じゃないんですよ。あなたが地を踏んでいた場所そのものではなく、それが内容物だった銀河です」
「つまり、俺がぶん殴ったドアを爆心地に地球モドキが爆発して、その爆発が銀河レベルに到達していると」
「ええ。このままだと爆発は成長し続け、地球も死にます。今もなお広がる宇宙を後ろから追いかけてる感じですね」
「地球が!? 家族と友人に迷惑かけちまうじゃねぇか!」
「阻止したいでしょう? なんとかお願いします」
無茶ぶりすぎないか?
なんとかお願いしますって、それはこっちが言いたいんだが。
「とにかくあの爆発を消滅させれば勝ちなのですよ。どうにかなりませんかね」
「知るか! お前、神ならどうにかしろよ!」
「うーん……。あのクソでっかい星でも殴ればどうにかなるんじゃないですかね。ほら、爆風消火ってありますし」
「わかんねぇけどやるしかねぇ! こうなりゃヤケだ!」
俺が覚悟を決めると、またもや転生させられてしまった。
地球や地球モドキよりも劣悪な環境の星へ。
なんだかガスみたいなものが充満してるし、緑色がどこにもないし……。
しかも重力がアホほど強い。自分がチートで転生してなかったら死んでたかも。
「そんなこと気にしてる余裕ないな! いくぜぇぇぇええ!」
この拳を振るうのは、みんなを守るためだッ!
父、母、友、3日前くらいに見かけた野良猫、異様に鳴き声がうるせぇ近所によくいる鳥――。
あと、愛する地球のためにも!
俺は、やるべきことがあるんだぁぁぁぁあああ!
「セイッッッッッッヤァァァァァァァァ!!!!!!」
重力の勢いもあってか、人生史上最大速度で拳が振り下ろされた。
やはりそこでもとんでもないエネルギーが放出され――。
というか強すぎて放出が間に合わなかった。
拳が振り下ろされた一点に重力が集中。
圧縮に圧縮を続け――。
なんか原子核同士が重なったり、電子やら陽子やらが中性子になり。
そんな意味わからん現象がとてつもない速さで発生したりしなかったりで星の核が爆発した。
超新星爆発。俺は拳ひとつでこの星の生涯にエンドマークをつけてやったのだ。
よし! これの衝撃で爆発1号機が弱まってくれればいいんだが……。
あれ? もしかしてこれ、余計に宇宙の終焉を早めてね?
俺、どうしてこんなことしてるんだっけ。
第二の爆発を起こしても、その爆発が地球を飲み込むんじゃないか。
こんなことに意味はあるのか。
自分が強すぎてだいぶ思考が狂ってきたぞ。
「ま、いっか。とにかくやれることはやったよ」
やりきった。
そう思っていた俺だったが――。
星の生涯はまだ幕を下ろしていなかった!
この星の質量が大きすぎるせいで超新星爆発後も強大な重力によって核が圧縮され――。
ついには星が永遠に収縮を始めたのだ!!!!!!
やがて星は人間が理解できる領域、事象の地平面さえも凌駕する小ささへと圧縮。
今もなお圧縮をやめず、すべてを飲み込む闇へ。光さえ通さぬ漆黒へ。
万物を虚構へと引きずり込む入り口へ――。
ブラックホールの誕生であるッッッッ!!!!!!!!!!!
ここからは一瞬だった。
星は俺を飲み込み、最初に俺が起こした銀河の爆発も飲み込み、いくつもの星々を飲み込み……。
さらには時空さえも歪めてしまって、時間が凄まじい長さへと伸ばされていく。
ずっと伸びていく……。永遠に伸びていく……。
永遠に、永遠に――。
―――――――――――――――――――――
拝啓。多くなかった友達と親愛なる家族へ。
俺は今、よくわからない世界にいます。
俺が死んだのは、はや三千七百二十九年前ですね。そっちではまだ一秒も経過していない感じでしょうか。
死にました。天国(?)みたいな場所に行きました。ビッグバンを止めようとブラックホールをつくりました。
それで、飲み込まれました。
なぜか永遠に時間は進まないし、というかまず時間を観測できないし……。
うん、意味がわからない。意味不明な世界ですよ、ブラックホールって。
なんだよ、永遠に星が圧縮って。
どこかで終われよ。
なに? なんで重力がバカ強いと時空まで歪んじゃうわけ? 相対性理論?
わけがわからない。
ともかく、今の自分にできることは何もありません。
なんせブラックホールに飲まれたんだから。
けれど、ひとつだけ伝えたいことがあります。
ブラックホールはバカ重力がデカイし、俺はバカ腕力が強かった。
どっちも加減がききません。暴走します。
無双って、すっごい不便です。ただそれだけ。
人生、何事も普通が一番だね。
皆さんも『ほどほど』に気をつけて生きてみてください。
心の余裕ほど最高の財産はないですよ。
P.S. だから無双させないように双一って名前にしてくれたのかな。改名しないでおいてよかった。
お読みいただきありがとうございます!
宇宙についての知識はないのでブラックホール生成だとかの解説は適当に聞き流していただけると幸いです。
テンションとノリに任せて錬成した文章なので……。
突然の暑さにイラッときて書き始めたのですが、今となっては涼しくなってきちゃいました。
宇宙編くらいから冷静です。つまり宇宙編はエセテンションなので、見破れた方々は天才!
最近は気候もそうですが、コロナや地震で不安要素がいっぱいですね。
そんなときにこそ、やっぱり『ほどほど』がいいかなぁって思うのですよ。
もうほどほどなんて考える余裕もねぇよ!
――って人がいたらごめんなさい! 地面にめり込むくらい土下座するんで許してください……。
ともかく皆さん、お元気で!
健康だけは気をつけてくださいね!