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赤と雷雨  作者: 芽生
8/11

晩夏

キーヒとエナが自分の気持にやっっっっっと気付き、その感情に名前をつける話です。

やっと両思いになりました。

 キーヒが夜明けとともに起き上がると、いかづちはまだ寝床でぐっすりと寝ていた。いかづちの頭を撫でると、身じろぎをする。いかづちは寝ぼけ眼で起き上がると、大きなあくびを一つする。そして、甘えるようにキーヒに体をくっつける。キーヒはこのように甘えてくる存在に遭遇するのは初めてなので、まだまだ戸惑うことも多い。キーヒはすぐに身支度を整えると、いかづちを抱き上げる。いかづちは抱かれると安心するのか、はちゃめちゃな動きはしないが、周囲の匂いを嗅ごうとはする。その程度なので、片手で抱いていれば食事もとれるだろうとキーヒは楽観視している。

 キーヒはいかづちを床に下ろすと食堂に向かう。その後ろをいかづちはとことことついて歩く。キーヒはいかづちがはぐれないように、時折後ろを確認しながらゆったりと歩いていた。

 キーヒといかづちが食堂に着く頃には家族が席に着いていた。キーヒも自分の席に座ると、いかづちを膝の上に乗せる。いかづちは前肢を食卓に乗せているため、行儀が悪いと叱責が飛ぶかと思いきや誰もそれを咎める者はいなかった。皆、いかづちには寛容であるらしい。

 アルデリアの使い魔が食事を持ってくると、皆でそれを食べていく。いかづちはその様子を不思議そうに眺めているだけだ。

「いかづちも食べてみるか?」

 キーヒが粥を食べさせようとしても、いかづちはあまり興味が無いようである。いかづちはアラトスから創られた武具であるので食事は必要ないのかもしれない。

 キーヒは朝餉を食べ終えると、天気の宮殿に向かう。龍神の姿で飛べば速く行けるのだが、いかづちが捕まってられないと考えてしまい人型でいかづちを抱えて行くことにした。

(俺に飛行能力があるから、いかづちも成長すれば飛べるようになるかもしれんな。それがいつになるのか、さっぱり見当もつかんが。とりあえず、気長にいかづちと付き合っていくか)

 空を飛んでいると、目まぐるしく移り変わる景色が珍しいのかきょろきょろと周囲を見ている。このような様子を見ていると、父が龍神の姿になって幼い兄弟三人を背に乗せて飛んでくれたときのことを思い出す。あのときも激しく変わる景色が面白くて、落ち着きなく見ていたことを思い出す。

(いかづちはあのときの俺と同じことをしているのだな。俺の精神性を映した存在だから、そういうところは似るのかもしれんな)

 キーヒはわずかに口元を綻ばせていると天気の宮殿に着いた。口元を真一文字に引き結ぶと、いかづちを抱いたまま天候を司る地図の間に向かう。いかづちが下りたそうにじたばたし始めたので、床に下ろすと周囲を真剣に嗅ぎ回っている。それを眺めているが、このままいかづちが好き勝手に嗅ぎ回っていると、地図の間まで行くのに時間がかかり過ぎる。そうなると、朝の鍛錬をする時間がなくなりかねない。せっかく、エナが創ってくれた剣を試せる機会なので、それを不意にしたくはないキーヒであった。

「いかづち! 向かうぞ!」

 キーヒはいかづちに声を掛けると、天気の宮殿に務める神々がいかづちとキーヒを奇異の目で見てくる。この宮殿に獣が来ることは滅多にないのと、その獣を扱っているのが角を斬ったばかりの麗しき褐色の神であるから、あまりにもちぐはぐな組み合わせに皆好奇心で見てしまうらしい。その視線を無視して、キーヒはいかづちが追いつける程度の速さで地図の間に向かう。

 そこで小間使いと各地の天気を確認しながら魔法式を組んでいく。その間もキーヒは足をぷらぷら動かしていかづちをあやしている。いかづちは動いているキーヒの足が面白いのか、その足に齧りついたり四肢で掴もうとしたりしている。小間使いはいかづちが気になるのか、キーヒの足元をちらちら見ている。キーヒはその様子が目に止まり、

「なんだ? いかづちがそんなに珍しいのか?」

「いえ、そういうわけでは……。キーヒ様が子犬を連れているのは珍しいと思いまして」

「いかづちは子狼だ! それに私のアラトスで創られた存在でもある。生体型の武具は珍しいからな。いかづちが成長するのが楽しみだ」

 キーヒは自信に満ちた顔で言い切ると、小間使いは何か言いたげに口を噤んでしまう。その様子が気に食わないので、

「なんだ? 私に何か言いたいことでもあるのか?」

「いえ、そのようなわけではありません。ただ、アラトスは成長する武具だと伺っています。それが今このような姿なら、成獣に達するまでどれほどの時間がかかるのかと思いまして」

「……貴様は前々から思っていたが存外失礼なやつだな。まあ、すぐにでも成長するだろう。私にはその切っ掛けになる存在がいるからな」

「ああ、あの『赤の一族』の娘ですね。神界ではその噂で持ちきりですよ」

「う……。そうなのか」

「あれだけ共に”花畑”に行けば目立ちますからね。あ、キーヒ様。この後は天気の会議があるので、会議の間に向かってください」

「わかった」

 キーヒはいかづちを抱えると会議の間に向かう。その後ろには小間使いが従っている。いつも会議の内容は小間使いが記録結晶に記載しているので、キーヒはそれを参考にしている。小間使いは小言が多いが、仕事はできるのでキーヒなりに重宝しているのだ。

 会議の間にはまだ神が揃っておらず、キーヒは自分の席に座っていかづちを膝に乗せる。いかづちは後肢で立ち上がると机に突っ伏して眠り始めた。

(このような寝方をして疲れないのだろうか?)

 そのような疑問が頭を過るが、動き回るよりかは良いので放っておいた。しばらくすると、他の神々も集まって会議が始まった。これから数日の天気の内容を綿密に説明されていくが、それを聞きながらキーヒは頭に叩き込んでいく。キーヒは記憶力が良いので、このような会議の話は大体覚えることが可能である。ただ、間違いがあってはならないので小間使いの記録結晶と照らし合わせることで、天気の精度を上げていくのが通例だ。

 会議が終わると、いかづちはくわっと欠伸を一つする。そして、落ちるように床に下りるとキーヒに纏わりついて帰るように促してくる。キーヒも自居で鍛錬をしたかったので、すぐに会議の間を出た。

 キーヒがいかづちを抱いて飛んで自居に戻ろうとすると、

「おーい、キーヒ! 少し時間を貰っても良いか?」

 太陽神が屈託なく笑いながら話しかけて来たので、頭を下げて太陽神を迎える。

「キュリアが私への記録結晶を今朝持ってきたときに、楽しそうにキーヒのアラトスについて語っていたのでな。その子狼がキーヒのアラトスか」

「はい、そうです。いかづちと申します」

 いかづちは太陽神を見てぱたぱたと尻尾を振っている。どうやら、警戒はしていないらしい。

「おお、私に尻尾を振ってくれるのだな。そういえば、先程の会議ではいかづちはつまらなさそうに寝ていたな。アラトスは使い手の心を映す鏡でもあるから、キーヒが本心ではつまらないと感じているのをいかづちを通して見ていたぞ」

「そそそそそそういう訳ではありませんが……!」

 キーヒは太陽神のからかいを真正面から受けてしまい、あからさまに狼狽する。確かに、キーヒはあの会議がつまらないと思っている節はある。だが、天気を司る神の一柱として責任のある立場なので義務として出ている。それで自分の役割が果たせていると思っていたが、まさかいかづちの態度でそのようなことを言われるのは盲点であった。

「まあ、良い。キーヒは体を動かす方が好きだものな。あのような会議を楽しいと思うわけがあるまいとは常々思っていたさ。だから、気にしなくて良いぞ。キーヒのアラトスも成長すれば、さぞやキーヒに似て凛々しい狼に成長するだろう。その時が楽しみだぞ。ああ、もう居に戻るところだったか。引き止めて悪かったな」

「いえ、私も太陽神と話ができまして嬉しく思います」

「そのようだな。その子狼もずっと嬉しそうに尻尾を振ってくれている」

 太陽神はひらひらと手を振ると、天気の宮殿に戻って行った。キーヒはそれを見送ると居に戻った。

 居に着くと、キーヒは庭に向かう。そこでいかづちを放すと自分は腰帯に差した鞘から剣を抜く。柄は長年扱ってきたかのように自分の手に馴染んでいる。そして、あの新年の儀式でのエナを想像しながら剣の鍛錬を行っていく。実践ではエナのような受け流す剣を扱う存在は少ないので参考になることが多い。また、個人で素振り等の型もやっていく。そのいずれもこの剣だと体と一体化しているかのようで動きやすかった。

(流石はエナだな……。このような業物を創れるとは見事なものだ)

 そのように考えながら夢中になって剣を振る。人とほぼ同じ大きさの人形を斬ってみるが、その斬れ味も鋭いものであった。このような武器なら早くエナに創ってもらえば良かったとさえ思ってしまう。

(それでも創ってもらう機会は昨日ぐらいしかなかったからな。前は戦争の準備で忙しいとのことだった。今は好き勝手にできるようでエナの顔も明るいものになっているから喜ばしいことだ)

 炎天下の中、夢中で剣を振るっていると汗が流れ落ちてくる。その汗もキーヒの褐色の肌を艶かしく輝かせるだけであった。袖で汗を拭っていると、アルデリアの使い魔が昼餉の支度ができたと呼びに来た。キーヒは使い魔に別途冷たい水を用意するように言付けをし、食堂に向かう。いかづちもキーヒが移動し始めたので、追いかけ回していた虫を放ってその後を追う。

 食堂に着くと、冷茶を飲んで楽しげにしている母がいた。

「今日はいつにもまして上機嫌ですね、母上」

「そうねえ。可愛い子に会ってきたんですもの」

 母であるアルデリアが言う『可愛い子』とは昨日の話から推測するにエナのことだだろう。キーヒも席に着き、冷水を一気に飲むと、

「エナに入れ知恵をするという話をされてましたが、それをしてきたのですか?」

「そうよ。エナちゃんなら上手くやってくれることでしょうね」

 ころころとアルデリアは楽しそうに笑っている。キーヒはその入れ知恵が何たるかが気になってしまい、昼餉を平らげてもあまりその味を覚えていなかった。


*****


 キーヒが天気の宮殿で責務を果たしている頃、エナは職人達が詰めている工房でそれぞれの質問に答えながら技術指導を行っていた。エナは懇切丁寧に相手を尊重しながら説明するので、職人達もエナのことは工房長として尊重してくれている。ただ、職人から見れば娘ぐらいの年齢のエナが可愛らしく感じるからなのか、菓子を時折渡してくれることもある。エナはその菓子を丁重に戴くことにしている。そして、それを休憩時間に侍女に茶を淹れてもらって食べるのがたまの楽しみでもある。

 今日は職人が創った武具の評価をし、その改善点を述べていく。職人は納得したようでエナの言うとおりに改善するらしい。そのような作業をこなして、ようやく自分の工房に戻ってきた。

「さて、と……。今日は何を作ろうかな」

 材料を置いてある部屋に行くと、様々な鉱石や魔獣や龍等の爪や皮革等が置かれている。このようなものは仕入れてくることもあれば、エナ自身で取りに行くこともある。その場合は一人でふらりと行くので、父母や侍女等が心配することが多々あった。そのため、最近ではあまり行かないことが多く、専ら仕入れに頼っている。

 武具の作成依頼を受ける場合は材料を持ってきてもらうことが条件として提示しているので、神も人もそこは守ってくれているのでありがたいことである。たまに、ごねて材料を持って来ずに創らせようとする輩もいることがあるが、そういうのは毅然とした態度で門前払いしている。そういうのに恨み言を言われると、その感情がエナ自身に伝わってしまい苦しんでしまうことがあるが、最近はそのような輩もいないので安心して武具を創れるのはありがたいことだ。

 エナは素材を置いている倉庫でごそごそと物色していると、扉を叩かれる音がした。この部屋まで人が来ることは滅多にないので不審に思いながらも、

「はい」

「エナ様、私です」

 侍女の声がした。その声にはやや戸惑いの色がある気がした。エナは倉庫の扉を開けると、おどおどとした態度の侍女がいた。エナは侍女を安心させるように穏やかに笑いかけながら、

「どうしたの? 珍しくここまで来るなんて。あ! もしかして、頼んでいた焼き菓子ができたの!?」

 きらきらと瞳を煌めかせてエナが訊くと、侍女は言い難そうに、

「いえ、焼き菓子は今は他の者に任せています。実はエナ様にお客様がいらしています」

「私に客? 今日はそのような予定はなかったはずよ」

 エナも不思議そうに侍女に言う。侍女は畏れながら、

「そのお客様というのが、以前新年の儀式で衣や剣の創作を依頼した神なのです」

「ああ、アルデリア様がいらっしゃったのね。そのように怖がらなくて良いわよ。アルデリア様は気さくな神であられるから。それなら、わかった。すぐに向かうわ」

 両手をぱんぱんと叩いて埃を取ると、エナは侍女を連れ立って居に向かった。

 エナは客間に着くと、扉を軽く叩き、

「エナです。失礼いたします」

 扉を静かに開けると、アルデリアがゆったりと冷茶を飲んでいる。エナに気付いたアルデリアが(たお)やかに笑うと、

「久しぶりね、エナちゃん。年末以来かしら? 一度倒れたと聞いて心配していたのよ」

「お久しぶりです、アルデリア様。その節はご心配をかけてしまい申し訳ありません。今はもう体調も快復いたしまして順調に仕事もできています」

 エナはアルデリアの対面に座ると、静かに扉が開けられる。侍女がエナの冷茶を持ってきてくれたので、それに謝辞の言葉を述べ下がらせる。

(アルデリア様が訪ねてくることなんて滅多にないけど、どうかしたのかな? 確か、アルデリア様はキーヒ様の母君であられるとキーヒ様が仰っていたなあ)

「今日はどういったご用件ですか? 儀式で使用する武具や装身具を創るための相談でしょうか?」

「いいえ、エナちゃんと世間話とちょっとした入れ知恵をしにきたの」

「入れ知恵、ですか?

 アルデリアにふわりと柔らかく笑いながら言われてしまい、エナはアルデリアを警戒せず、鸚鵡返しに訊いてしまった。アルデリアはゆっくり頷くと、エナを安心させるように温柔な声音で、

「そう、入れ知恵。これは後でで良いわ。とりあえず、世間話からしましょう! こういう話ができる女の子が近くにいないから、とっても嬉しく思っているのよ」

 にこにこと人懐っこそうに笑うアルデリアにつられ、エナも柔らかく笑いながら、

「私ならある程度時間を工面できるので相手はできますよ。今は繁忙期ではありませんから、時間の融通はききますからね。でも、アルデリア様なら若い女神とこういう話ができるのでは?」

「それがねえ……。私、こう見えて神格の高い神だから、皆無礼がないように話してくるのでそれほど楽しめないのよ。でも、エナちゃんとの間ではそういうしがらみはないでしょ?」

「まあ、一応神と人間という隔てはありますので、尊重も崇敬もします。ただ、畏怖は感じませんね」

「そこよ! その違いよ、エナちゃん。エナちゃんがそういう考えの子で本当に良かったわ」

「それは何よりです」

 エナは冷茶を口に含んで飲み込もうとすると、アルデリアが悪戯っぽく笑いながら、

「だから、キーヒがエナちゃんのことを好きになるのもわかるわあ」

 茶を吹き出しそうになるのを必死に飲み込むが、それが気管に入ってしまいエナは盛大に噎せてしまう。

「え!? キーヒ様が私のことを好きなのですか!? あ、いわゆる友人として、ですよね?」

 エナは慌ててアルデリアに質問をしてみるが、アルデリアは優雅に笑いながら、

「違うわよー。恋人や伴侶として好ましく思っているのよ。エナちゃんは知らないでしょうけど、キーヒはエナちゃんに恋人がいると勘違いしている間、毎日の責務を果たしたら抜け殻のように過ごしていたのよ。でもね、水鏡の間でエナちゃんを見ているとき、泣いているエナちゃんを放っておけなくてキーヒはすぐに人界に行ったの。私はてっきりエナちゃんを慰めに行くと思っていたけど、エナちゃんと恋仲だと思っていた『青の一族』の人間の元に行くのだから、キーヒは本当に愚直よね。少し変わった行動をとるけど、キーヒなりにエナちゃんのことを想っているの。そこは理解してあげて」

「わかっています。キーヒ様が昨日いらっしゃって色々なことを話しました。そこでキーヒ様は私に誠意を込めて謝ってくださいましたから、私はそれだけで充分です。ただ、私もキーヒ様の前で泣き喚いてしまって迷惑をかけてしまいましたから……」

 エナは昨日のことを思い出し、羞恥で顔を赤らめる。アルデリアはエナの初々しい反応を楽しむように穏やかに笑いながら、

「でも、エナちゃんが泣いたからってキーヒは責めなかったでしょ?」

「そうですね。以前、キーヒ様が私に我儘になれと仰っていたのですが、それでどうすれば良いのかわからなかったのです。ですが、キーヒ様の前では自然と感情を表現できますし、泣くこともできます。些細なことですがそれが今できる私の精一杯の我儘なのです。誰彼構わずできるようになれば、生きていくのも楽になるのかもしれないです。ですが、まだキーヒ様のようにはいかないですね」

 エナは自分の不甲斐なさを隠すように苦笑を浮かべる。アルデリアは首を横に振って、慈愛を込めた眼差しをエナに向ける。

「確かにキーヒは頑固で我儘な部分はあるわ。それでもまっすぐな性格をしているから、あまり他の神からは嫌われていないけどね。エナちゃんがキーヒの前でそのように振る舞えているのなら、今はそれで充分だと私は思うわよ。エナちゃんはまだ若いんですもの。年長者を尊重して自分の意見を言えないことも多々あるでしょうし、そういう性格をしていると理科しているわ。だから、キーヒの前だけでも良いから心のままに自分を出せるのは素敵なことよ。その気持を大切にしてあげてね」

「はい……」

 アルデリアの言葉に涙が零れそうになる。自分の感情をこのように受け入れてくれる存在がキーヒ以外にもいてくれたのが嬉しかった。父母には育ててくれた恩があるため、父母の願いを叶えようとして自分の思いを述べることはあまりなかった。父母に嫌われないように良い子を演じてきたのだ。だが、キーヒの前ではそれをしなくて良いので、とても心地良い。だから、エナはキーヒとはできるだけ共にいたいと思うエナだった。

 アルデリアがゆっくり冷茶を飲み、茶器を置く。そして、温容にエナに話しかける。

「話を戻すわね。エナちゃんはキーヒのことは好き?」

「親愛という点では好きなのだと思います。ですが、男の人というか恋人というかそういう意味の好きや愛はわからないのです……」

 エナは昨日キーヒに伝えた言葉を繰り返す。立派な答えが言えなくて申し訳なく思ってしまいエナは顔を伏せる。キーヒならここで夏の日差しを思わせる笑顔を浮かべてからから笑って終わりにするだろう。

 アルデリアは安心させるようにエナに問いかける。

「顔を上げて、エナちゃん」

 エナが顔を上げると慈母の笑みを浮かべているアルデリアがいた。

「エナちゃんも真面目だから、自分の感情の何たるかを理解しようとして焦っているのね。ねえ、キーヒは恋や愛の何たるかはわかるって言っていた?」

 エナは首を振る。キーヒもそのことはわからないとぼやいていたのだ。

「ああ、やっぱりそうなのね。二人共わからないのなら、話が滞ってしまうのは仕方がないわね。年の功として、キーヒがその感情を理解していると良いのだけど、あの子も無骨な面があるから、そういうことには疎いのよね。ヒューリデンやキュリアなら、そのあたりの機微をとらえることもできるでしょうが、キーヒだけはね……」

 やや遠い目をしながらアルデリアは語る。アルデリアもキーヒには手を焼いているらしい。視線をエナに戻すと、嫣然と笑いながら、

「とりあえず、キーヒがエナちゃんにきちんと謝ったようなら良かったわ。キーヒは人間を厭うから、最初は謝らないと夫ともども思っていたけど、エナちゃんの話で安心できたの。それほどキーヒはエナちゃんのことを信用し、信頼しているのでしょうね。それは僥倖だわ。ああ、そうだ。エナちゃんはキーヒのことを好きかはわからないと言っていたけど、愛してはいるの? とりあえず、男とか恋人とか取っ払って考えて答えてほしいの」

「それは……。キーヒ様を神として尊敬も崇敬もしています。また、私が父母に向ける愛情に似たものをキーヒ様に対して持っているような気がします」

「そっか。それなら、キーヒといるときはどんな気持になる?」

「どんな……」

 エナは口元に手を当てて考え込む。しばらくそのようにしていると、ようやく口を開いた。

「とても穏やかで温かく、変に緊張しなくて良いので楽ですね。それにキーヒ様に我儘になれと言われてからは、きちんと感情を出せていると思います。それも楽な要因の一つだと思います。勿論、八つ当たりのような真似はしていないですよ」

「エナちゃんは八つ当たりするような娘じゃないのは知っているから、その言葉は信じるわ。少し意地の悪い質問をするわね。もし、キーヒが他の女神や人間の娘に心奪われたとしたら、エナちゃんはどう思う?」

 エナは悲しげに瞼を伏せるが、それでも質問に律儀に答えていく。

「……そのようなことは考えたこともなかったですが、キーヒ様が選ばれたのなら素敵な方でしょうから、私は受け入れると思います。でも、もう今のような心地良い関係にはなれないかと思うと、とても辛いです……。それでも、それがキーヒ様の幸せに繋がるのなら、どんなに悲しくて辛くても私は潔く身を引きたいです……!」

 最後の方は涙声になりながらエナは答えていく。エナは零れそうになる涙を乱暴に腕で目を擦り、涙が零れないようにしていく。そのような様子のエナを見つめ、アルデリアは真剣に問う。

「それでエナちゃんは幸せになれるの?」

 エナはなんとかして答えようと口を開くが、嗚咽が漏れてしまいそうになるので何も答えられないでいる。そして、静かに涙を零していく。

「ごめんなさいね、エナちゃん。エナちゃんを泣かせたくてその質問をしたわけじゃないの」

 アルデリアは手巾を取り出してエナに渡す。エナはそれを受け取り、目元に当ててまだ泣いている。このように感情を制御できなくなるとは自分でも思ってもいなかった。だが、痛哭の涙は止められなかった。

(ああ、私はキーヒ様といることが幸せなんだ。それが崩れることが怖いんだ)

 まだ涙が溢れ出るが、それでもなんとか冷静になろうとエナは必死になる。これ以上泣いてしまってはアルデリアの迷惑になってしまうだけだ。それだけはしたくないので、深呼吸を何度か行い、興奮状態を鎮める。ようやく涙が引いたところで手巾を目元から離す。

「あ……。手巾を貸してくださってありがとうございます。私の涙で汚してしまいましたから、洗濯してお返ししますね」

「良いのよ、気にしなくて」

 アルデリアは手巾を受け取ろうとエナの方に腕を伸ばす。エナは渋々渡すと、アルデリアは手巾を懐にしまう。アルデリアの様子を見ていると、本当に気にしていないようである。このようなまっすぐな部分がキーヒに似ていてエナは好感を持てた。

「さて、エナちゃんは先程の質問には答えられなかったわね。というか、その沈黙が何よりの答えよ。それだと、キーヒも別の女を娶ったとしてもエナちゃんのことが心配になって自分の幸福を疎かにしかねないわ。だってあの子、エナちゃんが別の男と恋仲になっていると勘違いして塞ぎ込んだ挙げ句、無意識に長雨を降らせていたのよ? エナちゃんが辛そうにしているのを見たら、キーヒは最悪妻子をほっぽりだしてエナちゃんの元に行きかねないわ」

 ころころと楽しげに笑いながらアルデリアは語る。楽しく話す話題ではないとエナは思ってしまうが、長く永く生きてきたアルデリアにとっては息子の醜態は笑い話なのかもしれない。

 エナはふと、疑問に思ったことをアルデリアに尋ねる。

「あの、キーヒ様も仰っていたのですが、本当にそのようなことをされていたのですか? 私の知っているキーヒ様だとさっぱりとした性格なので、あまりそういうことをしなさそうに思ったのです」

 エナの知るキーヒは直情的で偏屈なところがあっても、快活な男神である。キーヒから直接聞いても、部屋に塞ぎ込むことが想像できないのだ。どちらかといえば、体を動かして鬱憤を晴らすのがキーヒらしいと思ってしまうのだ。

 アルデリアはふふ、と嫣然と笑う。そして、ここだけの秘密を共有するかのように、やや声を潜めて、

「実はキーヒって案外脆い部分があるのよ。だから、鬱屈すると体を動かすのも億劫になって部屋に塞ぎ込むことがあるの。ああ、小さい頃には夫の剣の鍛錬に耐えかねてね、駄々をこねて部屋に引き籠もったこともあったわね。だからね、割りと打たれ弱いのよ、キーヒは」

「そうだったのですか? 私の前では尊大な態度ですから気付かなかったです。あ、でも愚痴みたいなのはちょこちょこ言うかも」

「ふふ、それはキーヒもエナちゃんのことを信用しているから言えることなのよ。キーヒに信頼される心地良さを否定しないで大切にしてあげてね。ねえ、エナちゃんはキーヒとの間に沈黙があったとしても居心地が悪くなる気がする?」

「いいえ」

 エナは即答する。アルデリアは軽く目を見開いて、

「そうなの? 異性と沈黙があれば、普通は気不味くならない?」

「ああ、エリュイン様とはそれはあったような気がしますね。そういうときは一方的にエリュイン様が話すのですが、よくもまあそこまで話題が尽きないのだと感心したものです。あ、キーヒ様の話をしていたのに他の男性の話をしてしまい申し訳ありません」

「良いのよ。それで?」

「キーヒ様との間に沈黙があっても『今は話されたくないのかな』と思います。それで、居心地が悪く感じることはないです。沈黙なら沈黙なりに楽しめています」

「そう、それは良いことだわ」

「良いのですか? 沈黙だとキーヒ様もつまらなそうではあるのですが、だからといって場を繋ぐために無理矢理話題を作ることはお互いにしないですね。仮に私が無理して話題を作ると、キーヒ様は敏感にそれを察知して怒りますし」

「確かに、あの子ならエナちゃんがちょっとでも無理したら怒りかねないわ」

 アルデリアは苦笑する。そして、温和に笑い、

「エナちゃん。エナちゃんがキーヒに対して持っている感情は何だと思う?」

「……先程も申したとおり、親愛はあると思います。昨日、私がキーヒ様に懸想しているとエリュイン様が仰っていたとのことですが、この感情が恋に繋がっているのかはわからないです……」

 落ち込みながら話すエナを励ますようにアルデリアは優渥に語りかける。

「そう。話して思ったのはエナちゃんは恋をしていると思うの。そして、それよりも強く大らかにキーヒを愛しているという印象を受けたわ」

「そう、なのでしょうか?」

 エナは不安気である。自分の中にある渦巻いていても名前がつけられていない感情に名前をつけられそうになっているのだ。その名付けが正しいのか間違っているのかわからないため、いくらアルデリアの言葉といえども、簡単に信用して良いのかと不安に思ってしまう。アルデリアは子に諭すように、

「そうよ。エナちゃんはキーヒのことを理解し、尊重している。それは愛よ。キーヒに会うと、胸がときめいたり、気分が高揚したり、緊張したりする?」

「キーヒ様と会うと楽しくて気分が高揚しますね。最初の頃は手合わせをしなければならないかと思って緊張していましたが、それを断り続けていると諦めたのか言われなくなったので緊張もほとんどしません。先程も申しましたが、キーヒ様といると気持が穏やかになれます。それに、人の役に立たなければならないという思い込みに支配されている私でも感情を出して良いのだと思えて、少しだけ前より自分のことが好きになれています。だから、私はキーヒ様と一緒にいることが好きです」

「でも、キーヒに伴侶ができると、ちょっとは悲しくなるのでしょう?」

「そう、ですね……。そこは認めます」

「その独占欲は恋であり、伴侶への愛にも繋がる感情なの。ただ、お互いに移り気しないと信頼し合えているのなら、その独占欲もなくなるでしょうけどね」

「アルデリア様はトルマ様のことを信頼しているから、トルマ様が移り気をしないと思えているのですか?」

「そうよ。夫は私に惚れ込んでいるから、私を裏切るような真似は絶対にしないわ。私も夫のことを同じように愛しているから、その信頼や信用や愛を傷つけないためにもそのようなことをするつもりはないわね。それはキーヒも一緒。キーヒは私達を見て育っているから、夫婦は信頼し合っているものだと思っているでしょうね。だから、あの子は愛し通せる伴侶を選ぶでしょう」

「愛し通せる伴侶……。それなら、私はキーヒ様に選ばれたら駄目ですね」

 エナは少し泣きそうになりながらも、強がって笑みを浮かべる。エナからそのような言葉を聞くとは思わず、アルデリアは驚愕してしまった。アルデリアは慌ててエナに尋ねると、

「どうして? エナちゃんはキーヒにとても大切にされているじゃない。あの子が自分の興味がない”花畑”に何度もエナちゃんと行ったのはエナちゃんが大切だからでしょ? だから、そこは自信持って良いのよ」

 ゆるゆるとエナは頭を振る。エナは諦観が込められた強張った声音で、

「……私は『赤の一族』であり、『赤の魔石』から直接創られた人の形をした人ではない歪な存在です。そのような私が神であるキー費様を愛しても良いのでしょうか? 恋しく思っても良いのでしょうか? 私はそうは思いません。『赤の魔石』の一存で消し飛ぶような命です。それに、私はまだキーヒ様に話していませんが得体の知れない何かに蝕まれつつあります。その恐怖にもいつか負けてしまうでしょう。だから、私はキーヒ様と一緒になれません。だって、必ずキーヒ様を悲しませますから」

 エナはまた涙が零れそうになったので俯いてしまう。それでも、アルデリアは根気良くエナに言葉を渡していく。

「エナちゃんはそのことをずっと悩んでいたのね。でも、キーヒと一緒にいることを諦めたくもないのでしょ?」

 エナは黙ったまま首肯する。顔を上げると、エナの瞳には涙の膜が貼られており、今にも溢れんばかりであった。

「でも……! キーヒ様を傷つけたくないのです……。一緒にいたいですけど、私が私でなくなりそうで怖いのです! そのような醜い姿をキーヒ様には見せたくない……! 私はもう、幸せになれないのです……!」

 ぼろぼろと涙を零すエナの隣にアルデリアは座ると、その体を優しく抱きしめる。泣きじゃくるエナをあやすように背中を優しく撫でてくれるのがエナにとっては嬉しかった。

 エナはアルデリアの肩に顔を埋めて泣き続けた。そうされてもアルデリアはエナを抱きしめたままなので、エナが存分に泣くまで待つつもりらしい。このような気遣いをされて申し訳なく思うと同時に随喜でもあった。神に慰められる人間など、どれほどいるのだろうか。エナは間違いなく神に寵愛されている。それに感謝はすれど、尊大になるつもりはなかった。

 泣くのが落ち着いたので、エナはアルデリアからゆっくりと離れる。アルデリアは心配そうにエナの顔を覗き込むと、

「エナちゃんがどのような存在であれど、エナちゃんに心が、魂が宿っているから私はエナちゃんが恋や愛を諦めることなんてないと思っているのよ。だから、幸せになっても良いの。そういうことは諦めないでね」

「ですが……」

「エナちゃんに私がどれだけ言葉をかけようと、キーヒの一言には負けるかもしれない。私はエナちゃんの中にある恋や愛を受け入れて、大切に育んでほしいと思っているわ。だって、そういう感情を大切にしている子は皆生き生きとしていて綺麗だもの。エナちゃんも今でも充分可愛らしくて綺麗だけど、もっともっと綺麗になってほしいわ。そうすれば、キーヒもエナちゃんのことをさらに惚れ込むでしょうからね!」

「そういうものなのでしょうか? 私、見た目はそんなに上等ではないですよ。私より綺麗な娘は多いですし、女神様は皆綺麗ですから私は見劣りしますよ」

「そんなことはないわよ! キーヒもエナちゃんのことを可愛らしく思っているわよ! それに、内面が輝いている子は皆魅力的になるものよ。エナちゃんは内面がとても素直であるから、私も可愛がっている部分はあるわね、そうだ、エナちゃんだってキーヒに会うときは小奇麗にするでしょ? キーヒもエナちゃんに会いに行くときはあの子なりに身嗜みを整えているのよ、実は」

 エナはアルデリアから視線を逸らす。実のところ、キーヒは昼餉の後にすぐに来るため、髪等を綺麗に整える暇がないのだ。本音を言えば、綺麗に髪を結いたいのだが、キーヒを待たせるのも心苦しいのでそれができないでいる。

 アルデリアはエナの無言の様子で色々察したらしい。

「ごめんなさいね。キーヒのせいでそういう時間がとれないのね。あの子、せっかちだから、それをエナちゃんにも強要しているとは思い至らなかったわ……。あ、そうだ! 簡単なものなら私にもできるから今からやる?」

「いえ、アルデリア様のお手を煩わせるわけにはいかないので大丈夫です。髪を梳くだけでも違いますから。いつもは慌ただしくそうしていますが、それでキーヒ様に失望されたことはないので、このままでも良いかなと思っています」

「そう? それなら、もし神界に来ることがあるなら我が家にいらっしゃいな。そのときは結ってあげるから。キーヒも可愛らしくなったエナちゃんを見たいでしょうし!」

「それでは、そのときはお願いしますね」

 エナもアルデリアの雰囲気に呑まれたのか、柔らかく笑えるようになっていた。アルデリアは思いついたように。

「ああ、そうだ。さっき話していたエナちゃんの苦悩だけど、それは自分からキーヒに話せそう? 難しいなら私からキーヒに伝えるわよ」

「それは自分で話したいと思います。ですが、今はキーヒ様と一緒にいられることを楽しみたいです。これも我儘かもしれないですが……。人の役に立ちたいのに人が苦手という話はしたんですけどね。そのとき、あまりキーヒ様は良い顔をされなかったですから……」

「キーヒは人間を厭うから、エナちゃんの話を聞いてその感情が湧き出してしまったんでしょうね。とりあえず、わかったわ。エナちゃんが話せると思う機会があるときに話してあげてね。キーヒなりに力になってくれるだろうから。ただ、一つだけ約束して」

「何でしょうか?」

「エナちゃんの話だと、場合によっては取り返しがつかないことになりかねないわ。だから、そうならない前にキーヒに話してあげてね。あの子だってエナちゃんが壊れていくのを見たくないでしょうから」

「わかりました……」

 エナはアルデリアの言葉に頷く。アルデリアはふふ、と少女のように笑うと、

「ああ、本題の入れ知恵のことを忘れていたわ。あのね、エナちゃん。キーヒにこう訊いてごらんなさいな。『私といるとどのような気持になりますか?』って。エナちゃんは自分の感情のなんたるかを理解したでしょ?」

「はい。このキーヒ様に抱いている感情が恋や愛に連なるものだとわかりました。キーヒ様にその質問をして私と同じような感情を持っているかどうかの確認をするということですよね?」

「そうよ。エナちゃんは理解力があるから話が早いわ。何かキーヒがぐだぐだ言ってきても、色々質問して良いからね。それで感情を言語化していくのが目的だから。キーヒが変なことを言ってきても根気良く話を聞いてあげてちょうだい」

「わかりました」

「それでは私はこれで御暇(おいとま)するわ」

 アルデリアが椅子から立ち上がると、エナも見送るために立ち上がる。エナもそれなりの身長がある方だが、アルデリアも同じぐらいの背丈をしている。アルデリアはエナを抱きしめると、

「貴女のこれからの未来に幸が多からんことを」

 そう言うとにこりと温和に笑う。そして、エナから離れて神界への門を創ると、

「それじゃ、またね、エナちゃん。今度は髪の毛弄らせてね。エナちゃんの髪は綺麗だから弄っていて楽しそうだもの」

「そうですね。神界に行くことがあれば伺いますね」

「ああ、そうだ言い忘れていた。話がちょっと戻るけど、恋も愛も両立できることは理解してね。これは私の経験談だけど、私は夫のトルマのことを伴侶として愛しているし、昔程ではないけど乙女心を持ってトルマに恋をしている気持もあるの。私はその両方を受け入れて夫を大切にしているわ。だから、そこは気にしなくて良いの。エナちゃんがキーヒを大切に想うのならそれで充分よ。これは欲深い話だけど、そんなエナちゃんがキーヒの伴侶になってくれたら私はとても嬉しいの。なにせ、キーヒのことをまっすぐ愛して、キーヒに愛され、お互いに尊重しているんですもの。これほど嬉しいことはないわ。でも、そこは二人の気持次第だから、私の言葉はあまり気にしないでね」

「わかりました」

 エナは少し考え込む。自分はキーヒのことを親愛以上に伴侶としての愛情を持っていたらしい。すれ違いもあったが、それも和解できた。キーヒはエナとならば話してくれるので、そこで理解を互いに深めることができる。だから、これからもできるだけ言葉で伝えることを心がけることをエナは決心した。

「私、キーヒ様のことを好きになって良かったんですね。あ、勿論神様としても好きですよ。ただ、私自身のことで怖いことがありますが、そこもちゃんとキーヒ様に伝えます。キーヒ様は私の恐怖を知ったら困るでしょうが、共に解決の道を探してくれると思いますから。ただ、あの質問をするのは少し怖いですけどね。キーヒ様に大切に思われていないのなら悲しくて泣くかもしれないですし」

「あのね、エナちゃん。キーヒは私達と違って人間を厭う子なの。その子がエナちゃんのことで一喜一憂しているのだから大丈夫よ」

「そういうものなのですか?」

「そういうものなの。キーヒは絶対にエナちゃんを傷つけることは言わないから安心して。女神である私の太鼓判があるから信じられるでしょ?」

「そうですね」

 くすりとエナから笑みが溢れる。そして、一人と一柱は朗らかに笑うと別れた。

(さて、私は焼き菓子作りを手伝いに行くか)

 エナは足取り軽く台所に向かった。


*****


 家族で昼餉を食べていると、アルデリアがいつも以上に上機嫌であることに怪訝に思いながらも箸を進めていく。他の家族はアルデリアの様子に違和感がないらしく、いつもの和やかな食事風景である。ただ、アルデリアが言っていた『入れ知恵』がどのようなものなのか見当もつかないので、キーヒはただただ不安であった。

 昼餉が終わると、キーヒは庭に出て人界への門を創る。それを見かけたアルデリアが慌ててキーヒの元に来ると、快活に笑いながら、

「キーヒ、エナちゃんからの質問には真面目に答えなさいよ」

「ああ、入れ知恵云々の話ですよね。俺はエナからの質問には誠意を持って答えるつもりですよ。あ、エナに変なことを吹き込んでいないですよね? エナは真面目だから言葉通りに実行しかねないですよ」

「そんなエナちゃんを困らせるようなことを吹き込むわけないじゃない。そこは安心して。ほら、早く行かないとエナちゃんが待っているわよ」

「わかっています。それでは行ってきます」

 キーヒは龍神の姿になると、いかづちを背に乗せて門を潜って人界にむかった。飛ぶのには龍神の姿が都合が良いのだが、いかづちが落ちそうになったら爪が食い込まないように抱きかかえることも念頭に置いている。だが、いかづちはしっかりとキーヒに捕まっているのか落ちる気配はなかった。天気の宮殿に行くときに過保護になって抱きかかえていたが、これからは龍神の姿になり背に乗せても大丈夫だろう。そちらの方が飛びやすいのでありがたいことだ。

 人界に出ると、キーヒはエナの居を目指す。エナの居の結界を抜けると、エナが包みを持って木陰でキーヒが来るのを待っていた。キーヒの姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくるを見るだけで胸に温かなものがじわりと広がっていく。

「こんにちは、キーヒ様。あ、この子も連れてきたのですね」

 キーヒから見えていないが、ひゅんひゅん鼻を鳴らす声が聞こえてくるので、いかづちはエナに甘えているのかもしれない。それが少しだけ面白くなかったが、それを態度に出すのも神の沽券に関わるので平静を保ちながら、

「ああ、いかづちのことか。我のアラトスだから、できるだけ側に置いていた方が良いと思ってな」

「いかづちという名前をつけられたのですね。キーヒ様らしい名付けです」

「褒め言葉として受け取っておこう。さて、それでは(なれ)が話していた湖に行くか」

「はい。ここからは結構離れているのですが、歩いていきますか?」

「離れているのなら、このまま(なれ)が我の背に乗れば良いではないか」

「え、良いのですか?」

 エナは驚嘆の声を上げる。キーヒは当たり前のことを告げるように、

「構わんとも。それに以前も(なれ)は我の背に乗っていたではないか」

「そうですが……」

 エナは信心深い娘であるので、未だに神の背に乗ることに躊躇いがあるのかもしれない。だが、キーヒからしたらエナに乗ってもらうのは抵抗がないのを伝えているのだが、なかなかそれが伝わらないのでキーヒはままならない気分になってしまった。

「我が良いと言っているのだから、良いのだ! (なれ)は我の背中だけに乗っていれば良い! 我は(なれ)が乗ることは全く気にしておらず、嫌悪も何もない! だから、遠慮するな!」

 キーヒは轟音が響くような声音でエナに詰め寄る。エナはその迫力に押されていたが、何故か仕様がないといった風に笑うと、

「キーヒ様がそこまで仰るなら、これからは遠慮せずに乗らせていただきますね。神であられるキーヒ様の背に私が乗ることでキーヒ様が他の神様から何か言われるのかと心配していたのです」

「そんなことか。もし、他の神が愚痴愚痴とそのことを言ってきたら、我が許可を出したことを伝えるから(なれ)が気にすることはない」

「そうですか。わかりました」

「ああ、そうだ。いかづちが落ちないように抱いてもらっていても良いか?」

「あ、はい。わかりました」

 エナはいかづちをキーヒの背から抱き上げると自分の腕の中に収める。焼き菓子を包んだ布と一緒に抱えているからなのか、興味深そうにいかづちは焼き菓子の匂いを布越しに嗅いでいる。エナは困惑した声音で、

「あ、気になるだろうけど、まだ食べないでね。後で皆で食べるものだから」

 子狼であるいかづちにそのような言葉が届いたのかはわからないが、

「きゃん!」

 嬉しそうにいかづちは一声鳴き、エナにべったりと甘えている。そのような様子を微笑ましさ七割、妬み三割で見てしまっていたキーヒであった。

(何故、俺が自分のアラトスに嫉妬しないといけないのだ。エナも相手が小さいからか手加減もしているからか? わからんが、なんとなく悔しいぞ……)

 心の中にちくりと痛む蟠りを抱えつつ、キーヒは体勢を低くしてエナが乗りやすいようにする。エナがキーヒに座るとゆっくり空高く舞い上がる。エナはキーヒの能力で落ちないでいるが、やや不安定ではあるらしくキーヒの(たてがみ)にしっかり捕まっている。

 かなり高いところまで上昇すると、この街を一望できる程である。キーヒが都市を囲む外壁の外側にあるが、ある程度街に近い湖を見つける。

「なあ、あそこに見える湖のことか? 木々に囲まれているから涼しげではあるが」

「そうです。あそこです」

「わかった。しっかり鬣に捕まっとれ」

 キーヒはその湖に向かって風のように飛んでいく。その速さは馬よりも何倍も速いため、すぐに辿り着いた。キーヒは周囲を警戒するが、獣の気配や賊の侵入もなさそうなので、体勢を低くしてエナが下りやすくする。

 エナは下りると、湖の側の木陰に入る。この時間帯だと直射日光が眩しく、暑くなるので少しでも涼しいところに行きたかったのだろう。そして、そこに抱いていたいかづちをそっと下ろす。いかづちは初めての地なので、興味津々に周囲を嗅ぎ回り始めた。エナとキーヒはそれを眺めていた。

 エナは横座りになると、その隣に菓子の包みを置いた。そして、キーヒはエナの膝の上に顎を乗せる。エナは驚いたが、キーヒを退けるような真似はしなかった。ただ、真剣な声音で、

「あの、キーヒ様」

「なんだ?」

「膝の上に顎を乗せられるのは良いのですが、膝から顎がはみ出してるのは良いのでしょうか?」

「ああ、構わん。ただ、我がこうしたいからしているだけだ。(なれ)が迷惑だと思うのなら、すぐに顎を乗せるのをやめて人型になるが」

「迷惑だなんて思っていません! むしろ、嬉しいです……」

 最後の方は頬をほんのり染め上げながら熱の籠もった声音でエナは言った。

(ん? エナがこのような声音になるのは珍しいな。だが、疲れている様子はなさそうだが、少し目が腫れていないか? 何があったのか訊いて良いものだろうか?)

 キーヒが思案に暮れていると、エナが心配そうに、

「あの、もしかしたら暑かったですか? それなら居まで戻りますか?」

「いや、ここは湖の側の木陰だから涼しいぞ。……なあ、いくつか訊いても構わんか?」

「はい」

(なれ)の目が腫れているように見受けられるのだが、どうかしたのか? 何か辛いことがあったのか?」

「ああ、これですか」

 エナは微苦笑を浮かべながら目元を抑える。

「実は今日アルデリア様と話しているときに泣いてしまって……」

「な、母上が(なれ)に何か無礼なことを言ったのか!? いや、母上に限ってそのようなことはしないとは思うが」

「いえ、私の悩みというか痛苦を吐露したら、感情がないまぜになって涙が零れたのです。アルデリア様は私のことを慰めてくださったので嬉しかったですよ」

「そうか……」

 キーヒは一拍置き、エナに寄り添うかのように、

(なれ)のその痛苦を我には話してくれないのか?」

「それは……」

 エナはどう答えようかと悩んでいるようである。ちらりとエナを見上げると、エナはこちらを見て今にも涙を零しそうな表情をしていた。

「まだ、話したくないです。でも、話せる機会というか、話す勇気が湧いたらキーヒ様に伝えます」

「わかった。それなら追及はすまい。だが、必ず話してくれると約束してくれ」

「はい、約束します。取り返しがつかないことにならないうちにキーヒ様に話すようにとアルデリア様にも仰せつかっていますから」

「そうか。(なれ)はまだ遠慮ばかりするからな。もっと我儘になれと何度も言っているだろう」

「今は私の我儘が叶って嬉しいですよ」

「ここに我と来るのが我儘なのか? それは頼みだろうから違うと思うぞ」

「そうかもしれないですが、ずっとキーヒ様と一緒にここに来たかったですもの。それにこのように触れ合えるのも嬉しいですから良いのです」

 エナはキーヒの鬣を指で優しく梳いていく。

「まあ、(なれ)がそれで良いのなら構わんがな。我も(なれ)に触れられると心地良い」

 キーヒも気持良さそうに目を閉じる。そこにいかづちがキーヒの鼻先に自分の鼻先を押し当ててきた。キーヒが面倒そうに目を開けると、構ってほしいと言わんばかりにいかづちは目を煌めかせて尻尾を千切れるかと思うほど振っている。億劫そうにキーヒは欠伸をすると、

「いかづちは暑いのに元気だな。我は暑くて辛く感じるぞ」

「ああ、キーヒ様の体が少し日向に出ていますものね。それならキーヒ様は湖で水浴びをされますか? それともこちらに少し詰めますか?」

「いや、それも面倒だから(なれ)の膝の上にいる。詰める場所もないしな」

「そうですか。あ、それなら焼き菓子を食べませんか?」

 エナは隣に置いた包みを広げると、いくつもの焼き菓子が出てくる。いかづちがそれを嗅ごうとすると、

「いかづちはこれ分けるから嗅ぐのはやめてね」

 エナは焼き菓子を一つ取り、半分に割る。その片方をいかづちの口元に持っていくと、いかづちは不思議そうに食べていく。そして、はじめての甘味だったからなのか衝撃を受けたらしく、口の周りをぺろぺろと必死に舐め回している。エナは残りの半分を口に放り込んで咀嚼していく。そして、持ってきた水筒で喉を潤す。エナが菓子を食べて満面の笑みを浮かべていたので、キーヒも少し菓子に興味が湧いた。

「なあ、我の口の中にも菓子を入れてくれんか? 今の状態では上手く菓子を取れんからな」

「わかりました」

 キーヒが口を開けると、鋭い牙が美しく並んでいる。キーヒはその鋭さを特段気にしていないが、エナも牙に怖気づかずにキーヒの舌の上に菓子を乗せる。エナが手を引いたのを確認してからキーヒは口を閉じて咀嚼する。そして、飲み込んでから快活に、

「美味いな。形が悪くとも、菓子は美味ければどうとでもなるな」

 エナがその言葉を聞いて、あからさまに落ち込んでしまった。キーヒは慌てて、

「どうした!? 腹が痛いのか? 気分が悪いのか? すぐに医者に行くか?」

 ぷいっと横を向いてエナは不満たっぷりの言葉をキーヒに投げつけた。

「その形が悪い菓子は全部私が作ったものです。ええ、私はこういうことが不器用ですから。生地は侍女と作りましたから、味は美味しいでしょうね」

「いや、(なれ)を貶すために言ったのではないぞ!」

 キーヒは慌てて弁明すると、エナはくすりと微苦笑を口元に刻むと、

「わかっていますよ。キーヒ様らしい言葉だなと思っただけですから。それにしても、私が不機嫌な態度を見せるだけで、そのように狼狽されるとは思っていませんでした」

「……仕方がなかろう。(なれ)のことを我なりに大切に思っているのだから」

 今度はキーヒが口を尖らせる番であった。エナのことで心がこれ程乱されるとは思いもよらなかったが、それでもどこか心地良かった。

 いかづちはエナから貰った菓子が余程美味かったのか、菓子の方に行こうとするのをエナが抱えて阻止する。片手でいかづちを抱き、もう片方の手で菓子を取り、器用に片手で菓子を割るといかづちの口元に菓子を持っていく。いかづちは喜びながら菓子を食べると、もっとほしいと言わんばかりに体をエナが持つ菓子の方へ伸ばしていく。

 エナはその様子が微笑ましく感じたのか、春陽のような温かな笑みを浮かべ、

「いかづちは素直に美味しいと体で表現してくれますね」

「そうだな。……なあ、我にも菓子をくれんか。(なれ)の手に割ったのがあるから、それを口に入れてくれ」

「え、でもキーヒ様なら一つ食べられるのではないのですか?」

(なれ)の手に既にあるなら、それを食べたい。割ったのが手にあると、他の菓子は取れんだろ」

 さも当然のように言われてしまい、エナは少し戸惑いながらも割った菓子をキーヒの口の中に入れる。キーヒは黙って咀嚼し、飲み込む。エナも菓子を取り、齧るといかづちが下りたそうにしていたので下ろす。いかづちはキーヒの鼻先に自分の鼻を当てたり、キーヒの口の回りを舐めていく。どうやら、いかづちなりにキーヒに甘えたいようである。キーヒはいかづちを邪険に扱うこともできないので、されるがままである。それを見てエナもころころと可愛らしく笑ってくれたので、キーヒは満更でもなかった。

 皆で菓子を食べ、菓子がなくなるとエナは丁寧に包みを畳む。いかづちはキーヒの体にぴったりとくっついて寝ている。菓子を食べ、キーヒで遊んだので満足したらしい。キーヒは一つ息を吐くと、

「やれやれ……。やっといかづちも落ち着いて寝たか」

 キーヒはエナの膝の上で一つ欠伸をすると、うつらうつらしてきたので目を閉じる。エナはそのようなキーヒの鬣を撫でながら遠慮がちに、

「あの、キーヒ様。一つ質問をしても宜しいでしょうか?」

「なんだ?」

 キーヒが片目を開けてエナを見上げると、少し強張った表情をしている。

(何か良くないことを訊こうとしているのか? エナがこのような表情をしているのは珍しいな)

 何かを言おうとして口を開くが、言葉になかなかできないのかエナはすぐに口を閉じてしまう。暑いからなのか、エナの顔が少しだけ紅潮しているように見える。

「どうした? 暑いから戻りたいのか?」

「そうじゃないです!」

 エナにしては珍しく声を荒げる。そこには苛つきを感じなかったので、エナがどうしたいのか皆目見当がつかないキーヒは困惑してしまう。

「なあ、何を訊きたいのだ? (なれ)の質問なら、どのようなものでも答えるつもりだぞ」

 エナはその言葉を聞いて、深呼吸をする。そして、意を決したのか真剣な面持ちで、

「キーヒ様は私といるときはどのような気持になりますか?」

 そのような漠然とした質問をしてきたので拍子抜けしたキーヒであった。だが、このような質問を真面目にするのがエナらしくもある。キーヒもエナの質問を真面目に考えようとする。

(だが、どうと言われても漠然としたものだからな……)

 そして、丁度良さそうな例えも思いつたいので、それを喋ることにした。

「その質問が母上からの入れ知恵なのだな?」

「そうです。でも、キーヒ様が答えたくないのなら、答えてくださらなくても大丈夫ですよ」

 やや落ち込みながらそのように言うものだからか、キーヒはエナの不安を吹き飛ばすようにからからと笑いながら、

「母上らしい質問だと思っただけだから、(なれ)が気にすることはない。そうだな……。半球体の入れ物に湯が溜まっておってな、何も考えないでその中に仰向けで浮かんでいるような感じだな」

「どういうことです?」

 聡明なエナでもキーヒのこの比喩の意味がわからなかったらしい。困惑を隠さずに訊いてきた。自分にとって会心の比喩を使ったのに伝わらなかったことに少し後悔しつつも、キーヒはエナの困惑を解消させようと誠意を込め、

「端的に言えば、(なれ)といると心地が良いということだな。気負いしなくても良いから楽に過ごせる」

「そうなのですね」

 そう言ってエナは考え込む。

(なんだ? 何か考えることがあるのか?)

 キーヒとしてはその言葉だけで充分であると思っていたが、どうやらエナはそうではないらしい。エナは考え事をしながらも、優しくキーヒの鬣を指で梳いていく。そして、そのまま穏やかに、

「キーヒ様は私に恋仲の男性がいると勘違いされて部屋に篭もられていましたが、それは何故ですか?」

「う……。まあ、そうだな。(なれ)に恋仲の人間がいることに我は落胆してしまったのだと思う。ああ、今ならそう思える。この場には我と(なれ)と寝ているいかづちしかいないから言えるのだが、(なれ)の笑顔は我だけのものだという自負があったのだ。それが覆されてしまい、諦観と失意に囚われてしまったのだと思う」

「そうですか……。でも、エリュイン様とは本当に何もないですからね。だって、エリュイン様、どこか胡散臭いんですもの。そういう信頼できない方と恋仲にはなりたくないですよ」

「はははは!」

 エナの言葉に気が晴れて大笑してしまうキーヒだった。その笑い声にいかづちがむくりと起き上がったが、またすぐ眠ってしまう。いかづちを起こしたことにばつが悪くなるが、それでもキーヒは喉をくつくつと鳴らしながら、

(なれ)からしたら、あの男は胡散臭いのだな。我からしたら、本音を隠して空虚の言葉を羅列しているように感じられた。だから、我も信頼はしようとは思えない男ではあったな。まあ、あの男なりに(なれ)に思うところはあるようだが、それは(なれ)に伝わっていないようだ。そう考えると、なんだかんだで臆病な男なのだろう」

「キーヒ様にはエリュイン様がそのように見えたのですね。私はキーヒ様といると、私はキーヒ様の裏表のないまっすぐな言葉が心地良くて、それに縋ってしまう部分があります」

 キーヒはエナの言葉に応じるように自信に満ちた声音で、

「我は神であるからな。虚偽や欺瞞の言葉を使うつもりはない。それに、だ。(なれ)が我に縋りたいのなら、縋っても良いぞ。(なれ)に頼りにされるのは本望だ」

 その言葉でエナの頬にほんのり朱が差す。そのような反応が返ってくるとは思ってもいなかったので、キーヒは怪訝に思ってしまう。

「やはり、どこか調子が悪いのではないのか? (なれ)の居に戻るか?」

 首をもたげてキーヒは心配そうにエナの顔を覗き込む。エナは慌てて首を振り、キーヒを安心させるように温柔に言葉を紡ぐ。

「いえ、大丈夫です。キーヒ様の言葉にとても安心できました」

「そうか。それならば良いが、(なれ)は無理をしやすいから疲れたらすぐに言うのだぞ」

 キーヒは再びエナの膝の上に顎を乗せる。そのキーヒの瞳をじっと見つめながら、

「あの、キーヒ様」

「なんだ?」

「仮に私に恋仲となる男性が現れたら、キーヒ様はまた部屋に引き篭もるのですか?」

「……それも母上の入れ知恵か?」

 キーヒはエナが自分の心の内に深く入り込んでくる質問をしてくることを意外に思い、これもアルデリアの考えでもあるのかと疑心を持ってしまった。それでも、エナはキーヒの瞳から視線を逸らさずに、

「いいえ。私がお尋ねしたいと思ったから訊いたのです」

「そうか」

 キーヒはエナの膝の上に顎を乗せる心地良さを噛み締めつつ、エナの質問にどのように応じるか思案する。エナのことなので自分の言葉を鵜呑みにするだろう。

(それにエナに嘘をつけば俺が良心の呵責で落ち込みかねない。基本的に嘘をつかないで生きてきたから、嘘を言葉に乗せるのはできんな。だから、思うがままに答えるしかないか)

 そのように結論づけ、キーヒは自分の幼稚さに自嘲してしまったため、ややぶっきらぼうに返答する。

(なれ)の言う通り、また落胆しかねないな。それで数日部屋に引き篭もるだろうが、(なれ)が決めたことだ。それなら我は(なれ)の決断を尊重しようではないか。なんなら、(なれ)の一族の守り神になってやっても良いとも考えておる。だがな、正直に言えば良い気分はせん」

 その言葉を聞き、エナはキーヒの鬣ではなく、鱗に覆われた額を愛おしそうに撫でていく。キーヒはそのように触れられるとは思ってもいなかったので驚いて目を見開くが、その手付きに敬愛や情愛を感じられた。だから、エナが撫でたいのなら、そのようにさせておこうと思えた。そして、この感情をエナに伝えなければならないと使命感が湧き、

(なれ)にこのように撫でられると気分が良いな」

「それは良かったです。……先程の質問をして思ったのですけど、キーヒ様も私と同じ気持なのですね」

「どういう意味だ?」

 ちらりと上目遣いでエナの瞳を覗き込む。エナは吹っ切れたかのように清々しくも慈愛に満ちた瞳でキーヒの瞳を見つめ返す。そして、その瞳の感情を声音に乗せると、

「私のことを尊重し、信用してくれていることです。そして、私に伴侶としての愛情を持っているのだなって」

「は、伴侶!?」

 キーヒは素っ頓狂な声を出してしまう。そして、首を再度もたげると、まじまじとエナを見てくる。その瞳には戸惑いが色濃く刻まれているが、エナは静謐にキーヒを見つめる。

「いや、我は(なれ)のことをそのように思っては……」

 キーヒにしては珍しくもごもごと弱気な発言をしてしまう。

(突然、伴侶と言われても俺はこの感情のなんたるかを理解していないのだぞ。エナも何故このようなことを言うのか……)

 混乱してしまい、キーヒは何も言えなくなってしまう。

「それなら何故、長い間部屋に篭もられていたのですか?」

「それは……」

 静かなエナの質問にキーヒは答えられなかった。キーヒは少し俯き、自問自答をする。

(俺自身もわからないというのが正直な感想ではあるのだが。エナと恋仲の存在がいることを妬ましく思ってしまっていたのかもしれない。なにせ、エナの笑顔を独占できないことにも落胆していたからな。だが、このような浅ましい感情をエナに見せたら失望されるかもしれん。それは……、正直嫌だな)

 エナはキーヒの瞳を覗き込み、安堵させるように笑ってくれる。そして、落ち着いた声音で励ましてきた。

「キーヒ様。キーヒ様は神であられるので、気を張られていることが多いでしょうが、私はキーヒ様がどのようなことを仰られても受け入れますよ。それで責めたり嗤ったりしません。だから、キーヒ様の気持を教えてください」

「……我は(なれ)が我以外に親しみを込めて笑うのが嫌なのだ。(なれ)の春の日向のような温かな笑顔を独占したいと思ってしまっておる。このような浅ましい感情は神としてはあってはならないものだと思うのだがな」

「それは違うと思います! 私だって、キーヒ様が綺麗な女神様とか娘とかを娶られたら、寂しくもありますし、辛くもなりますし、悲しくもなります! だって、私はキーヒ様といるのが好きですもの! だから、その感情は否定しなくて良いんです!」

「そうなのか?」

 エナの必死な物言いが珍しいため、キーヒは素直に自分の疑問を投げかけられた。エナは一つ頷くと、

「はい。そのような感情を持ってしまうとアルデリア様に伝えましたところ、アルデリア様は私の感情を否定しないで受け入れてくださいました。そして、アルデリア様は私の場合、恋よりも愛の方が強いとも仰せられていましたが、愛も恋も両立できる感情であるから否定しなくて良いとも教えてくださいました。私は自分が『赤の魔石』から創られたから、他の人間の役に立つようにそのような感情とは無縁に生きなければならないと思っていたのですが、そうしなくても良いとも仰せられました。だから、私はその感情を受け入れています」

「そうか……。(なれ)は我よりも芯が強いのかもしれんな。そのように他の者が述べる言葉を素直に受け入れられるのは輝かしい程の美徳だ」

「そのように褒めでくださって嬉しいです」

 エナは深呼吸をすると、慈愛の笑みを浮かべる。

「私はキーヒ様のことを愛しています。それは親愛もありますし、伴侶というか恋人に対する感情もあります。勿論、キーヒ様のことを尊重しておりますし、何よりキーヒ様と一緒にいられる時間が好きです。あ、キーヒ様のことが好きだという感情も勿論ありますよ。愛と好きの違いはまだあまりわかっていないですが、両方の感情が私の中にあるのは信じられます。私もですが、キーヒ様が他の方と生きることを選ばれたら苦悶を感じることでしょう。それでも、キーヒ様がそのように選ばれたのなら、私はキーヒ様の選択を尊重したいです。欲を言えば、キーヒ様が私を選んでくだされば嬉しく思います。このような欲が生まれるのは伴侶としての好きや愛があるからだとアルデリア様の話を聞き、そのように理解しました。もしかしたら、曲解している可能性もありますけどね」

 最後は苦笑していたが、自分よりもずっと年若いエナが自分の感情を正面から向き合っているというのに、キーヒは今の心地良さを壊したくないために、自分の感情を蔑ろにしてきたのが今までの有様なのではないかと思い至る。

(俺は神だから年だけはとっているが、エナに比べれば幼稚と言わざるをえない。だからなのか、その純真さに惹かれているのかもしれん)

 いかづちがエナとキーヒの間の空気が緊迫していると感じたのか、起き上がると心配そうに一人と一柱の間を行ったり来たりしている。キーヒは爪が食い込まないようにいかづちを抱える。いかづちはそれでもエナやキーヒを心配そうに見ている。キーヒはエナが気持を吐露したのだから、自分も感情を理解して話すべきだと思えた。キーヒはエナが少し不安げにしていたので、柔和に語りかける。

「心配するな、いかづち。我も腹を括った。(なれ)の話を聞いていると、我も(なれ)の生き方を尊重しているつもりだ。(なれ)は我の言葉を守り、少しは我儘もなっておるものな。まあ、その我儘も我からしたら、まだ可愛げのあるものだが。何度も言っておるが、(なれ)と共にいられると心地良く感じている。それに、(なれ)に恋仲の人間がいると勘違いして部屋に篭もっていたことを考慮すれば、我も伴侶や恋仲として(なれ)のことを好ましく、そして愛しているのだろうな。そう考えると、自分の感情の辻褄が合う」

「それなら私達は両思いですね」

 晴れ晴れとした笑顔でエナが相槌を打つ。嬉々とした声音だったので、よっぽど喜悦を感じたのだろう。キーヒも溌剌に笑いながら、

「そうだな。これからは我らの関係を発展させることになるだろうが、基本的にはこのように過ごせれば良いと思っている」

「私もです」

 その時である。もぞもぞといかづちが体に何か異変があったのか身じろぎをしている。キーヒに抱かれていれば大人しいいかづちがこのようにすることに違和感を持ち、

「どうした、いかづち?」

「ひゃん!」

 一声鳴いたかと思うとキーヒの手から落ちると、ぶるぶると体を振る。その際にいかづちの体から雷が周囲にばらまかれるように走った。咄嗟にキーヒはエナを庇い、防御壁を創る。防御壁を灼くように雷が当たりそれが破壊されかけたので、幾重にも防御壁を作り出す。それに魔法も一通り使えるキーヒは喫驚する。

(俺は雨と雷轟の神であるから魔法も得意であるが、それで創った防御壁を灼き壊す程の威力はアラトスだからか。……ん?)

 そのように考えていると、いかづちの変化に気付く。いかづちは先程までは生まれたばかりの子狼のようであったが、今では体が二回り以上は大きくなっており、やんちゃさが増した顔つきになっている気がする。毛並みも黒く、艶やかな紫の光沢があるものになっている。

「何故、いかづちの体が成長したのだ?」

 いかづちは嬉しそうにキーヒの体にしがみついてくる。そして、尻尾も千切れんばかりに振っているから、いかづちはとりあえず機嫌は良いらしい。キーヒの口から漏れた疑問にあっさりとエナは答える。

「キーヒ様が精神的に成長したから、いかづちも成長したのだと思いますよ。自分の中にある感情を認め、それを名付けたからかと」

「そういうことが精神的に成長することに繋がるのか?」

「繋がりますとも。現に私のアラトスも容量が増えてますから」

「容量?」

「はい。仮面で入出力できる数が増えています。あ、できたらキーヒ様の能力も入力しておきたいのですが、宜しいですか?」

「仕組みはわからんが、構わんぞ。どうすれば良いのだ?」

「キーヒ様の血をこの仮面に一滴垂らしてくだされば、それ大丈夫です」

「わかった」

 エナの手の中にはいつの間にか真紅の何も装飾が施されていない仮面があった。キーヒは人型になると、腰に差した剣を鞘から抜く。その刃で指を浅く斬ると、エナの仮面に血を垂らす。すると、仮面はかたちをぐにゃりと変え、その色合いも変わる。それも一瞬のことで、仮面は龍を模した形になり、色艶はキーヒの鱗のように黒くありながらも紫の光沢があった。

 エナはその仮面を愛おしそうに撫でる。そのような動作でも胸が温かくなるのだから、キーヒはエナに対して愛情があるのは確かである。エナはキーヒの方を向き、にこりと笑う。

「これで大丈夫です。ありがとうございます」

 丁寧にエナが頭を下げると、キーヒも満足そうに頷く。ふと、疑問が湧いたのでエナに尋ねてみる。

「我の能力をその仮面で扱えるとのことだったな? 具体的にはどのような能力なのだ?」

「そうですね。キーヒ様は雨と雷轟の神であられるので、雨を降らせたり、水や雷を使役できたりするはずです。他にも剣の技能に秀でておりますので、剣を扱うのに長けると思います。」

「ああ、確かに我もそのようなことはできるな。わかった。だが、そのような仮面を使う機会があるとは思えんがな。(なれ)は戦場に行くことはないだろう?」

「ないですけど、キーヒ様との繋がりというか加護が身近なものに宿っているとわかるので安心できますから……」

「そうか。野暮なことを訊いてすまなかった」

「いいえ。気になることですもの。訊きたくなるのはわかります」

「そのように言ってもらえると安心できる。そろそろ日も傾いてきたから戻るとするか」

 キーヒは龍神の姿に戻ると、体勢を低くしてエナが乗りやすくする。エナは大きくなったいかづちを抱き、菓子を包んでいた布を懐に仕舞うとキーヒに跨る。

「私達は乗れました。いかづちが大きくなったので抱くのはちょっと大変ですけど、まだ抱けますから安心してください」

「わかった。それでは(なれ)の居に向かうぞ」

 キーヒは高度を上げると、エナといかづちが風の影響を受けないように防御壁で守りつつエナの居に向かった。

 エナの居に着くと、庭に向かいエナを下ろすために地面に着くかと思うぐらいキーヒは体を下げる。エナはそのおかげで下りやすかったが、申し訳なさそうに、

「キーヒ様にそのように気遣わせてすみません……」

「気にすることはない。我が好きでやっているからな」

 新緑を照らす太陽のような明るい声音で言われて、エナは安堵したように笑う。

「我もそろそろ神界に戻るから、背にいかづちを乗せてくれ」

「はい」

 エナはキーヒの背にいかづちを乗せると、いかづちは名残惜しそうにエナを見る。エナはいかづちの頭を撫でると、諦めたのかいかづちはキーヒの背にぴったりとくっついた。

 いかづちの気配を背中で感じたので、キーヒは神界への門を創る。そこを潜ろうとしたとき、

「あの、キーヒ様」

「どうした? 明日も来るつもりだぞ」

 エナが緊張した面持ちでキーヒを見ている。去り際は笑ってくれることが多いので不審に思うキーヒであった。エナは夕日に照らされながらも、それでも感情が昂ぶっているのか顔が赤くなっている。そして、意を決したのか、

「キーヒ様が私に飽きられるまで、キーヒ様のお側にいても良いですか? 私は人間と同じように年を取り、老いさらばえます。そのようになってしまえばキーヒ様も私に飽きられるかもしれないと思ってしまいまして……。それまではこのように話したり、どこかに行ったり、ゆっくり過ごせたりできたら嬉しいです」

「なんだ。そのようなことか」

 キーヒは拍子抜けしてしまった。もっと重大なことを言われるのかと身構えていたが、エナの不安を理解した。エナはこの時間を尊いものだと思い、大切にしたいのだ。だが、自分とエナとの間に寿命の壁がある。年老いて、少女の華やかさと瑞々しさがなくなれば飽きられてしまうと思い込んでいるのだ。それならば、キーヒがかける言葉は決まっている。

 キーヒは鼻先をエナの額にくっつけ、すぐに離れる。そして、エナが楽観できるように荘厳で自信に満ちた声で語りかける。

(なれ)が年を召しても我は側にいる。そのように我の気持は固まっているのだ。このまま進めば(なれ)と婚姻することになるだろう。それを今すぐ決断するには我も両親や兄弟に(なれ)との関係を話さなければならない。それもすぐに話せるだろうが、(なれ)はそれでも構わんのか?」

「どういうことです? 私はキーヒ様と一緒になれるのは喜ばしく思っていますよ」

(なれ)を娶ることになれば、(なれ)は神界に行くことになるだろう。人界との決別、いや、そこまではしなくとも、人界でしたいことがあるのではないのか? (なれ)のやりたいことがあるのなら、我はそれをしてほしいと思う。我は(なれ)に比べたら寿命があるから、いくらでも待てる。このように話す時間もあれば心地良く過ごせるだろう。だが、(なれ)の寿命は我に比べたら儚いものだ。(なれ)には後悔なく生きてほしいと思っている」

「キーヒ様はやはりお優しいのですね。そこはもう少し家族とも話してみます。でも、その前にもしかしたら、キーヒ様に呆れられてしまってお側にいることができなくなるかもしれませんが……」

「なんだ? (なれ)は我と離れたいのか?」

 エナが悲しげに目を伏せるので、キーヒはその顔を覗き込んで良いのか悩んでしまった。エナは絞り出すように、

「離れたくはないです……! けど……!」

「なるほど。その懊悩が(なれ)の痛苦に繋がる話なのだな。それを話してくれるまで、我は(なれ)を娶ることはせん。婚姻関係になるのなら、お互いに蟠りがない方が良かろう。(なれ)が話してくれるまで我は待つからな。母上からもそれを話すように言われているのだろう?」

「はい……。取り返しがつかないことになる前に話すようにと仰せでした」

「取り返しがつかない、とは物騒だな。早く(なれ)が話してくれれば良いのだが、そのような気分にもならんのだろう? それならば、我は待つだけだ。なに、(なれ)が何を言おうとも、我は(なれ)を受け入れる」

「ありがとうございます、キーヒ様……!」

 涙が零れたからなのか、エナは両手で顔を覆って嗚咽を漏らす。キーヒは龍神の姿から人型になると、左手でいかづちを抱える。そして、右手でエナの頬に触れる。

「我は(なれ)の話をいくらでも聞く気がある。そこは信じてくれるな?」

 こくんとエナは頷く。キーヒはその反応だけで満足する。

(エナはまだ俺に遠慮しているというか、嫌われることを忌避しているな。話してくれると言っているのだから、そこを信用して気長に待つしかない。だが、どのようなことを言われてもエナの言葉は信じるがな)

 そのように思案すると、柔和にエナに向けて言葉を告げる。

「それでは我は神界に戻る。ああ、そうだ。通信符を用意してもらえるか。我と(なれ)との間で使うものなので、秘匿性が強いものが良い」

「わかりました。明日も昼餉の後にいらっしゃるのですか?」

「そのつもりだ」

「それではお待ちしておりますね。そのときには通信符を用意しておきます」

 キーヒは右手でエナの頭をぽんと軽く叩いてから、神界への門を潜った。

(さて、エナと恋仲になったが、これからどうすれば良いのだ? 俺はそういう恋愛ごとに疎いからさっぱりわからんぞ。いつもどおりにしていれば良いのか?)

 そのようなことをぐるぐると考え込みながら居に戻り、自室に入る。いかづちは籠の中に入って寝ようとするが、少し小さく感じるらしく体を丸めて寝始めた。

「お前は良いな。気楽に過ごせて」

 そのようにぼやきながら、キーヒは窓から夜が降りてくるのを眺めていた。

今までで一番長い話です。

このまま行くと、全部で20万字超えそうですね。

もうすぐ完結するので、それまでは書ききりたいと思います。

がんばれ、私。

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