─09─ドールの記憶
この作品を手に取っていただきありがとうございます!この話が初めてだよーって方は是非1話からご覧下さい!そっちの方が多分楽しんで頂けると思います!
そして、1話から読んでくださっている方、読み続けて下さっている方々、本当にありがとうございます!
あっ!今回は少し長めです!
ではでは、本編どうぞ!
ドールさんは、ぽつりぽつりと昔の出来事を語りだした。
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──15年前(ドール視点)
娘、ソフィーが生まれ約3年。幼少期から許嫁として人生を歩んできた妻カエラと結婚して約6年。
私の人生は、公私共に順風満帆のように思われた。突然の災厄が私たち一家を襲うまでは……。
「行ってくるよ、カエラ」
その日は、私の冒険ランク昇格の表彰式の日だった。いつもの、使い慣れた戦闘用の装備ではなく、パーティーなどで着用する、公用の服を着て家をあとにした。
ギルドに着き、控え室に案内され表彰までの時間を過ごした。
──コンッコンッ
「ドールさん。表彰の準備が出来ました。どうぞ壇上まで」
「あぁ。ありがとう」
よく見知ったギルド受付の女性に促され、ギルド内に、特設で設置された壇上へ向かう。
「ドールくん。君のSランク昇格を祝して、この認定証を渡したいと思う。このギルドから、Sランク冒険者が出ることを私は誇りに思うよ。おめでとう」
現ギルド長の、ダグラスさんから表彰状を受け取った。彼も、長い間最前線で活躍する、名のある冒険家だ。
「ありがとうございます。これからもより一層精進して参ります」
その言葉に、嘘偽りは一切なかった。
名のある冒険家業一族の長男として生まれ、武の才にも恵まれ、冒険家という職業を極めた私が次に何を望むのか……それは平和だ。
近頃になって、現魔王の体が弱り始め、過激派の魔族共が、人間の世界に姿を現すことも多くなった。
世界の均衡を守るため、そして何よりも大切な家族を守るために、これからも強くなり続け、活躍し続けなければならない。
自分に課せられた責任と、再び向かい合った私は、より一層強い覚悟を強く心に刻み込んだ。
「──では皆様、この後はどうぞごゆるりと、この華やかな」
──バタン!
「魔、魔族が、魔族が攻めてきたぞー!! 」
司会の女性の声を遮り、耳に飛び込んできたのは、魔族の到来の知らせだった。
「総員!緊急招集を発令する!各自、今すぐ装備を整え魔族の処理に迎え!繰り返す!今すぐ魔族の処理に迎え! 」
数秒の沈黙を破ったのはギルド内に響き渡った、ダグラスさんの声だった。
その声で我に返った屈強な冒険者たちは、勢い激しくギルド内を後にした。きっと、各自自宅で装備を整えるのだろう。
「すまないな、ドールくん。折角の祝いの席を」
「いえいえ。これも冒険者の宿命ですから」
「君のSランク昇進後の初陣、期待しているからな」
「ご期待に添えるように頑張ります! 」
ダグラスさんとの短い会話を経て、私は急いで自宅へ帰った。
「カエラ!!魔族の襲撃だ。かなり大規模なものらしい。直ぐに装備を整えて門へ!君も一緒にこい!きっと力が必要だ! 」
カエラは私と結婚する前まで、ギルド内随一の水魔法の使い手で、ギルド内でも一目を置かれる存在だった。
結婚してから前線からは退いたが、それでも十分な戦力となりうる。
何しろ、魔族襲撃を伝えに来た兵士の焦り具合。嫌な予感がする。
「分かったわ!アズマさん。ソフィーをお願いできる? 」
アズマは、うちで雇っているメイドだ。家事全般を担ってもらっている。
「かしこまりました、旦那様、奥様。ソフィー様はお任せ下さい。どうかご武運を……」
アズマにソフィーを任せ、大急ぎで準備した私とカエラは、いざ門へと向かった。
着いてみると、そこはまるで地獄だった。
パッと見る限り、戦況は明らかにこちらが不利。これは私の力だけでは覆すことは難しいか……。
「ダグラスさん、戦況は? 」
「見ての通り宜しくない。不意打ちに見事にハマってしまったな。運搬、回復ともに滞っている。これじゃ、3時間と持たないぞ。この状況を打破できるのは君だけだ。私もやれるだけやる。お互い死ぬなよ」
「はい!ご武運を! 」
やはり、ダグラスさんに聞く限り、現状は厳しそうだな。
「あなた!私はどこに行けばいいかしら? 」
「カエラ、君は魔法部隊に加わってくれ。決して無理はするな。ダメだと思ったらすぐに下がるんだ。いいね? 」
「えぇもちろん!あなたも無理しないでね!きっと無事にまた家に戻りましょう! 」
そうして、私とカエラは別れた。
「──はぁぁああ!! 」
戦況は、一向に良くなる気配は無かった。それどころか、少しづつ押されている。
「ドールくん。これじゃあ埒が明かない。「アレ」を使ってくれ。無防備な君は、私が死んでも守ろう! 」
ダグラスさんが、言う「アレ」とは私が得意とする、火属性魔法の極大魔法のことだ。
凄まじい威力ではあるが、消費MPとため時間の長さから、かなりの手練が周りに居ないと発動できないという弱点もある。
「分かりました!どうか援助頼みます! 」
私は早速極大魔法の準備に入った。
目を閉じて、気を集中させ、魔力を貯めていく。
──よし、十分に魔力を貯め終わった。
私が目を開けた瞬間に飛び込んできたのは、ダグラスさんが、目の前で切られる瞬間だった。
その瞬間、私の中で何かが吹き飛んだ。
敵陣中央に、これまで貯めた魔力はもちろんこれからのために残しておいた魔力を使い切り、全力で放った極大魔法は、敵陣約8割を消し去った。
そして私は、意識を失った。
──ここは……家か。
見上げると、見覚えのある天井が視界に入ってきた。
「お目覚めですか、ご主人様」
アズマの声が聞こえてきた。
「あぁ、私はどれくらい眠っていた? 」
「およそ、3日ほどです」
「あの後、どうなった? 」
「ショッキングなことですので、心してお聞きください」
私は、大きく息を吸い込んだ。
「あぁ、大丈夫だ。続けてくれ」
「あの後、旦那様が残された約2割の魔族は、奥様、カエラ様を中心に殲滅、敵陣全滅が確認されました。その際、カエラ様は敵に呪いをかけられ、未だに目を覚まされません。そして、ダグラス様ですが、旦那様のお近くで発見された時にはもう息が……」
う、嘘だろ……。ダグラスさんに、カエラまで……。
「すまない。少し、1人にしてはくれないか? 」
「かしこまりました。何かあれば、またお呼びください。それと、ソフィー様につきましても、お任せ下さい。では失礼します」
私はその日、多くのものを失った。戦友であり尊敬の人であるダグラスさん。妻のカエラ。多くの冒険者仲間たち。
私は自分の無力さに打ちひしがれ、一晩中声を上げて泣いた。
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「──というわけで、妻カエラはあの日から1度も目を覚ましていないんだ。だからソフィーに兄妹もいない。今、カエラは2階の寝室で眠っているよ。いつ覚ますかも分からない、深い眠りだ」
ドールさんに、そんな壮絶な過去があったなんて……。
僕は、衝撃を受けると同時に、僕の中で引っかかっていたドールさんが持つ独特な強さのオーラの正体が何となく分かった気がした。
そして1つ気になることも出来た。
「ドールさん。この世界に、治癒的な魔法ってありますか? 」
「治癒魔法か……。あるにはあるが、未だにどの属性の魔法か分かっていないんだ」
「お忘れですか?僕は全属性の魔法の適正を持っています。ここで1つ提案というか、なんというか……」
「なんだい? 」
「僕が、その治癒魔法を習得して、何とかカエラさんの呪いとやらを解きます!その代わり、それまでの僕の生活資金を援助していただけませんか?もちろん、僕を不審に思ったり、可能性がないと判断した場合は、直ぐに断ち切って頂いて構いません!ど、どうてしょう? 」
正直、僕にできるのはこれぐらいしかないと思った。ここまで、初対面で良くしてくれたんだ。なにか恩を返さないと。
「た、確かに、君のあの魔法適正値と、全属性適性があれば可能かもしれない……。頼む!どうかその希望に乗らせてくれ! 」
「ありがとうございます!ではこれから改めてよろしくお願いします!きっとカエラさんを目覚めさせてみせます! 」
僕と、ドールさんは本日2度目の固い握手をした。1度目よりも、強く固く。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
今回は、いつもの2倍くらいのボリュームだったと思います!いかがでしたでしょうか?
前編後編に分けるのも考えたのですが、─10─を振り返り枠にしたいと思ったので無理やり詰め込みました!w(長くてごめんなさい!)
明日は、これまでのまとめ的なお話にしようと思います!
次回もどうぞよろしくお願いします!
はいはい!今回も、TwitterIDを貼らせていただきます!感想などのお礼はこちらに!
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