プロローグ〜最後の1日【前編】〜
初めまして、蒼乃 睦月と言います。
以前から、執筆をやってみたいと思っていた私が今回、遂に初投稿させて頂きました。
みなさんに楽しんで頂けたら嬉しいです。
では、本編どうぞ!
「あーー、あっちぃーー」
真夏の真昼間。一日の中で太陽が真上に昇り、最も気温が上昇する時間帯。
凰神ユウは、通っている高校の夏休みという事で自宅のリビングにあるソファーにふんぞり返り、暑い時には誰もが一生に数えられない程には口にするなんの変哲も無い愚痴をこぼしながら普段は抑えていた怠惰を一人爆発させていた。しかし、
「あぁ畜生。せっかく着替えたのに、もう汗ビッショかよ・・・。エアコンも満足にお仕事してないし、うちわで扇いでも熱風しか来ねぇ・・・。なにこれ苦行?」
絶賛、蒸し返すような暑さに苛まれていた。着替えても着替えても、数十分後には自分の意思では止めようの無い汗に濡れ、暑さに不快さを加えていた。既に洗濯機の前の籠の中には、ユウが脱いだTシャツが何枚も入っている。
少しでも気を紛らわためにテレビをつけようとリモコンに手を伸ばす。すると、横から自分の手とは別の手が割り込み、テレビのリモコンを横取りした。
「おにい、遊びに行こ!」
「・・・はぁ。なんだよトウカ。俺は今忙しいんだ。だからリモコン返して?」
リモコンを取った正体を首だけを動かして確かめると、そこにはショートカットの茶髪の少女、ユウの実の妹、トウカがリモコン片手にこちらを覗き込むように見下ろしていた。おまけに顔が近い。「顔近い」と短く告げると、顔を離しながら抗議してきた。
「えぇ〜、どこが忙しいの?私には、ソファーに寝っ転がってるだけに見えるけど?」
疑わしくそう言われ、自分の体勢を確認してみる。
「はぁ・・・。妹よ。俺は今、この身を焦がし、身体から水分を奪おうとするこの暑さという名の敵と、こうして不動の姿勢で抗っているのだ。それなのに、外に出るだと?勘弁してくれ。お兄ちゃん干からびて死んじゃう」
どうしても動きたくないユウは、ただ寝ているだけではないと訴える。端から見れば自堕落極まりない状況なのだが、それを認めない辺り、ユウは本当に外出したくないようだ。
「つーかお前。さっきも外に出かけてたろ?そんでまた外に行くって、どんだけ活発なんだよ。行きたいなら一人で行けよ」
加えて、この焼けるような日照りのだ。間違いなく体力的な意味で体を持って行かれる。そこに出ても、なお衰えない妹のスタミナと変わらない高いテンションに、一体どこからその元気が出ているのかとこっちが聞きたいくらいだ。
「もう、そんなこと言わないで一緒に遊びに行こうよー。おにい、夏休み始まってからずっとゴロゴロしてて、ぜんっぜん外行ってないじゃーん。部活引退してから更に酷いよ?」
そういえばそうだとユウは思った。
実際、ユウは高校3年性。この時期になると部活はもう引退している。必然的に外出の数は減る。
部活があれば、否応なく炎天下で大粒の汗を流しながら最後の青春、というものをやっていのかと何の気なしにそう思った。だがそれはもうない。
加えてこの暑さだ。こんな天気に外に出るなんて絶対とは言わないが、出たいとは思わない。
だから外出する理由はない、と決めつけようとしたが、先程トウカが言ったようにここ数日、まともに体を動かしていない。それこそ移動など家の中に止まっている。
流石にこれはマズイか、と考えたユウは仕方なく、ソファーに沈んでいた体を起こし、両脚を床につけ、両膝に手をついて立ち上がった。
「しゃーない。今回ばかりはトウカの言う通りだわなぁ。分かった。付き合うよ」
「やったぁ!それじゃあお兄、早く着替えてきて。私も着替えてくるから!」
その言葉を聞いたトウカは、持ち前の明るい笑顔を見せながら早口にそう言い残し、足早に自分の部屋がある二階に駆け上がっていった。
「そんなに嬉しいかねぇ?ま、折角の夏休みだし。少しは長期休みらしいことしてみるか」
そう独り言を零したユウは、トウカと同じく二階に上って自室に向かった。
ユウを遊びに誘うことに成功したトウカは、リビングにユウを残して二階の自室に戻り、部屋着から外出用の服に着替えるために服を選んでいた。
「さってと、何着ようかな〜?あぁでも、おにいは適当に涼しい恰好で来るだろうし、私もそんな感じにしよっかな」
そう考えたトウカは薄手の生地の服を探し、上下二着を選んだ。選んだ服を着て、部屋にある姿見でおかしな所はないかと確認。
そして玄関に向かおうと自室のドアの取っ手に手をかけようとしたところで、トウカは動きを止めた。
そして、
「・・・うん。分かってる。これが最後なんだもんね。・・・大丈夫。寂しいし、悲しいけど、おにいが助かるなら、私はいい。お父さんとお母さんも同じ気持ちだっただろうしね」
部屋にはトウカ以外誰もいない。
しかし、トウカは誰かに話すように言葉を紡ぐ。ユウと話していた時とは違い、声は小さく、明るい声音ではない。悲しみと覚悟が入り混じったような声で、静かに最後を口にする。
「・・・お兄ちゃん」
ただ、兄のことを呟くだけだったが、その一言はすんなりとは口に出せず、絞り出すようにしてようやく声に出せた。
だが、それも知らないうちに込み上げてきていた涙に遮られ、少しでも他の音が混じればその陰に隠れてしまいそうな程、とても小さなものだった。
部屋に戻ったユウは少しでも涼しいように薄着の衣服を適当に選んで着た。
選んだのは白の半袖Tシャツにベージュの短パン。相手が妹ではない異性であれば少しは着る物に気を配るが、今回はその相手だ。
取り出した二着を着用し、一階の玄関に向かうと先に着替え終わていたトウカが待っていた。
「あ。おにい、おそーい」
「そんなに時間経ってないだろ?どんだけ楽しみなんだよお前。散歩前の犬か」
トウカの急かす言葉に反論しながら、ユウは靴を履いていた。
そのトウカの服装は、黒のリボンが巻かれたストローハット、白のノースリーブにフリルの付いたのトップスとジーンズ生地のショートパンツ。そして茶色のショルダーバッグにヒールの低い同色のサンダルを履いていた。
涼しげな装いと、こちらにいつもの明るい笑顔見せるトウカを見て、ユウは内心「平和だねぇ」などと何故ここで使うのか分からない言葉を零していた。
しかし、ユウはいつものトウカとは違う点がある事に気づいた。
「なぁ、トウカ。お前、目が赤くないか?」
「へ?!そ、そう?おにいの気のせいじゃないかな?そ、それよりほら!早く行こ?」
「うーん、そうか?まぁお前がそう言うならいいけど・・・」
明らかにいつもと違うトウカの様子に疑問をもったユウだったが、トウカぎ先に玄関を出てしまったために、それ以上追求はしなかった。
「うっわ・・・。やっぱあちい・・・」
玄関を出た瞬間のユウの第一声はこれだった。
分かってはいたが、室内以上に強い暑さを感じた。今すぐにでも家の中に戻りたいと思ったユウだったが、なんにせよ暑いことに変わりない。
「ほらおにい?そんなこと言っても暑さは変わんないんだから。諦めて遊びに行くよー!」
「へいへい。行きますともー」
それに、トウカの誘いに乗ったのは自分だ。観念してついて行くしかないと割り切って、トウカについて行った。
「そういやトウカ。今朝は何しに行ったんだよ?街の店が開く時間ジャストくらいに出て行ったろ?」
「んー?知りたい?」
「・・・まぁ、そこそこに。帰ってきたら大きめの袋持って、なんか冷蔵庫に入れてたみたいだし。それにあんなにご機嫌な鼻歌まで歌ってたら気にもなる」
勿体振って話そうとしないトウカに、回りくどいと思いながらも興味があると伝える。
「ふふーん♪ヒ・ミ・ツ☆」
「こいつ・・・」
しかし返事は、望んだものではなかった。悪戯を考えついた子供よろしく、笑顔ではぐらかされた。こうなるとトウカが素直に口を割らないことを分かっていたユウは、溜息を一つついて歩みを進めた。
炎天下の中、トウカの誘いに乗ったユウは暑さに辟易としながら歩いていると、ふと、行き先を聞いていないことに気づいた。
連れ出した当人に聞いてみると「なーいしょっ」と笑顔で軽く返事をされただけだった。
何処に行くのか気になりながらもトウカの後をついて行くと、いつの間にか街中まで移動してきていた。自宅から街中までは、自転車を使えば数十分で着くが、歩いて行くには遠い。
一体どこまで行くのか質問しようとしたところでトウカが遂に足を止めた。
「着いたよ」
そう言われて、トウカの視線の先を追うとそこにあったのは・・・・・・
「ゲーセン?」
そう。目の前にあったのは、クレーンゲームやホッケーといった多種多様なアーケードゲームが揃うゲームセンターだった。
「そそ!おにいと来たのだいぶ前だし。久しぶりに兄妹で遊ぶなら、やっぱここでしょ!」
「そんなお約束聞いたことないけど・・・。でも、確かに来るのは久しぶりだし、俺も本気出すかな?」
「お?普段はまったくやる気がないおにいが遂に・・・!」
「サラッと失礼なこと言ってると置いてくぞー」
「ああ!ちょっと待ってよ、おにい〜」
連れて来られたユウが、連れてきたトウカを先導するという立場逆転の展開が起きたが、二人は揃って店内へと入り、兄妹水入らずの死闘を繰り広げるのであった。
二人がゲームセンターで遊び始めて早一時間。二人は時間を忘れ、久しく疎遠だった娯楽施設に没頭していた。
だが、当初はノリノリのテンションでトウカと遊んでいたユウは、時間が経つにつれて、トウカの衰えず、溢れるパッションパワーに圧倒されていた。
「ねえねえ、おにい!次アレやろ?アレ!」
「ちょ、分かったから引っ張んなって!つうか、そろそろ手持ち金がヤバいんだが・・・」
それもそうだ。この時間まで数分の休みを少しずつ挟みながらも、連続でプレイしていた。
レースゲームにシューティングゲーム、対戦型格闘ゲーム、ダンスゲーム、ストラックアウト。これらは互いにプレイする前にジャンケンをして、負けた方がお金を出す形式だったが、定番のクレーンゲームはトウカのお願いで、ユウがお金を出していた。本当なら断るところだが、ここに連れてきてもらった立場のユウは、これを聞き入れた。
一体何をやるのかと対象のゲームのガラスケースの中を見てみると、中に入っていた景品は猫を模したキャラクター物のぬいぐるみだった。
そういえば、猫系のグッズで部屋を埋めるほどにトウカは猫好きだったな、と思い出しながらプレイを始めたが、中々上手くクレーンで掴むことができない。
ぬいぐるみに苦戦すること約二十分。既に投入金額は千円を軽く超えていた。取れそうで取れない場面を何度も繰り返していたが、何とか目的を達成することができた。
「まったく・・・。ぬいぐるみとは言え、猫がいたらテンションMAXかよ。猫好きは恐ろしいわ」
「そう言うおにいだって動物モノのテレビで猫出る度に食いついてるじゃん。人のこと言えないと思うよ?」
「部屋中、猫グッズいっぱいのトウカに言われたくないね」
「えっへへ。そうでした。でも、ありがと」
そう満面の笑みで言われると、こっちも金をかけて取った甲斐はあったかなと思うユウだが、懐が寒波に見舞われていることに変わりはない。「次で最後な」と言うとトウカは首を縦に振った。その時のトウカの表情は、何故か少し、悲しげに見えた。
まただ。ここに来てから、なんか変なんだよな、こいつ。ここに来る前といい、どうしたんだか・・・。自宅の玄関の事もあって再度疑問に思ったが、質問しても「何でもないよ」と言われそうだったので口にはしなかった。
そして、トウカが指し示した方向に進むと、そこにあったのは「プリクラ」だった。
「ゲームセンターの締めと言えば、やっぱりプリクラでしょ!」
そんなに意気揚々と言われても、とユウは零しながらも、分からなくはないとも思った。
自分も昔の友人と久しぶりに遊びに出かけた時は、最後にゲームセンターに来て、思い出残しにプリクラを撮っていた。
しかし、兄妹でプリクラというのは撮ったことが一度もない。夏休みの思い出の一つにしては不思議な感じがするが、トウカと久しぶりにここまで遊び倒したのだ。他に嫌がる理由はどこにもなかったユウはトウカの後を追い、プリクラの撮影機の中に入った。
「それじゃあここのお金は、私が出すね?」
「ん?ジャンケンしなくていいのか?」
「うん。さっき、おにいにはぬいぐるみ取って貰ったし、ここは私に出させて?」
そう言うとトウカは、自分の財布からプリクラ代を出そうとした。
「いや待った」
「え?」
しかし、ユウはトウカの動きを静止させた。どうしたのか聞こうとしたトウカの口よりも先に、ユウがプリクラ代を機器に投入していた。
「え、ちょ、おにい?私が出すって言ったのに・・・」
ユウのいきなりの行動に動揺しているトウカだが、当人は特に気にすることもなく百円玉を投入していく。
少しの間返答が無かったが、お金を入れ終えると返事をしてくれた。
「あーなんて言うか、お礼、かな?」
「お礼?」
一体、何に対するお礼なのかトウカは分からずにいると、ユウが続きを口にした。
「今日、俺を外に連れ出してくれただろ?ここ最近、マジで出歩いてなかったし、気分的にも参ってたところだったんだ。お前が居なかったら、本当に家で寝っ転がってるだけだっただろうし。それに・・・」
「それに?」
「お礼とは関係ないけどよ。・・・なんかお前、ここに来てからたまーにだけど、悲しそうな顔してたからさ」
「・・・!」
そう言われたトウカは、一瞬だが動揺を露わにした。幸い、ユウがこちらを見ていないために気付かれてはいないが、無意識に気持ちが顔に出ていたことに驚愕していた。
無理もない。これから起こる展開を、トウカは知っている。それを理解した上で、ユウをこうして外に連れ出した。
ーーもう二度と、兄には会えないかもしれない。
産まれてからずっと、家に帰れば必ず出迎えてくれた兄に。
いつも自分の見方をしてくれた兄に。
めんどくさがり屋で、適当な所があるが、誰よりも自分を心配してくれて、嫌だ嫌だと口では言っても他の人を放っておけない、優しい兄に。
今にも泣きそうな妹を他所に、ユウは言葉を続ける。
「まぁでも、何があったかは詳しくは聞かねえ。でも、耐えきれなくなったらいつでも相談しろよ?こんなダラけた俺だけど、曲がりなりにもお前の兄なんだし。俺じゃなくても、父さんや母さんにでもいい。友達でもいい。だからあんまり、一人で溜め込むなよ?」
その一言ひとことが、兄の声が、トウカの胸に響く。
そして、ようやくこちらを向いたユウが最後を口にした。
「俺は、お前の味方だ」
その言葉聞いた途端、遂にトウカは涙を堪えることができなかった。
それに気づいたユウは、一瞬動揺したが、すぐにトウカを慰めるように頭に手を置き、優しく撫でた。
大きく、暖かいその手は、これから先の結末を忘れさせる程に、ひどく心地よかった。
「・・・ありがと。お兄ちゃん。」
いかがだったでしょうか?
まだプロローグの段階で前後編というのは、あまり好みじゃない方が多いと思います。
しかし、私としては、結構大事な場面だと解釈していますので、今回前後編という形を取らせていただきました。
更新ですが、作者の事情で遅くなりがちなことが多いと思いますが、誠心誠意、作成していきますので何卒よろしくお願いします!




