表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
7/25

第7話 薬草店にて

すみません。うっかり予約忘れました(・ω・)

 結局、心配や不安も杞憂に終わり、町には簡単に入れた。

 身分証明も、入場料も無く、簡単なチェックだけで、そのまま素通りできた。多分、辺境の村から出てきたと勘違いされたようだ。

 町は、どうやら、小さいながらも交易に栄えた町のようで、通りには店の他に露天が並び、沢山の荷を持った商人や荷馬車が目立つ。

 武装した幾つかの小集団がちらほらと見られるし、旅人らしい人間が多いようだ。


 『ふむ。“冒険者”というやつだろう』


 俺の腕の中にいるクロガネが呟く。

 なんでも、“王国”が滅びた後に出てきた職業で、“王国”時代の遺跡に入ったり、魔物や野獣を退治したりすることを生業にしているらしい。


 『“王国”の遺跡は、封じられている場所が多い。まぁ、そなたなら存在そのものが“鍵”ゆえ、自由に出入りできるだろうが……』

 「そうなのか?」

 『ただ、後の時代に“王国”信奉者たちによって、遺跡にトラップや守護の魔物が置かれたと聞く。そうしたモノらが、正統な“王“たるそなたと他者を見分けれるとは思えん』

 「それは………難しそうだな。まぁ、入るつもりもないけどさ」


 城門の兵士に、薬草を買い取ってくれそうな場所を聞いたら、“ギルド”か薬草店だと、場所を教えてくれた。

 俺は、教えられた場所へと歩けば、薬草店の斜め前に、武装した人間たちが出入りする酒場らしき店を見つける。どうやら、そこが“ギルド”らしい。

 とりあえず、俺は、薬草店に入った。


 「こ、これは!」


 狭い店内に、棚や小引き出しが並ぶ奥、小さなカウンターの上に、パーカーにくるんでいた薬草類を取り出して並べる。

 小柄な店主は、それらを見た瞬間、声を上げた。


 「凄く貴重な薬草ばかりじゃないか!しかも、鮮度もいい!」


 震える手で、10本ずつに束ねた薬草を確認していく店主。その目は、キラキラと輝いていた。

 俺は、その様子を見ながら、全部出さなくて良かったと内心、息を吐いた。

 出したのは、半分ほどだ。


 「これは、まるで“聖なる存在”が採集したみたいだよ。本来、この薬草は取ったらすぐに適切な処置をしないとすぐに枯れてしまう。

 なのに、こんなに生き生きとしてるなんて……」

 「はぁ………」

 『ふむ。我も、シオンも“聖なる存在”であるゆえ、当然であろう?しかも、シオンが着ていた布にくるんでおったのだ。当分は、傷むこともあるまい』


 俺の腕の中で、クロガネがどや顔でのたまう。

 ちなみに、クロガネの“声”は本人が聞かせたいと思わない限り、俺以外には届かないらしい。


 「君が“ギルド”に行かなくて正解だよ。“ギルド”に行ってたら、二束三文で買い叩かれていただろうね。しかも、他の薬草と雑多にされてそうだ」

 「………そんなに違うんですか?」


 俺が聞くと、店主は、近くの棚から布にくるまれた薬草を取り出す。布を開くと、葉や茎の形は同じだが全体に暗い緑の薬草があった。


 「これは、これと同じものだよ」


 俺が出した明るい緑に銀色がかった茎の薬草を示す。色が違うし、鮮度も違うので、まったく別の薬草に見えた。


 「君の持ってきた薬草は、多分、聖なる場所にあっただろう?大昔の“王国”時代の遺跡を始め、聖なる場所になる薬草は、銀色とか色が変わってて、その効能も非常に高い。

 けど、普通の人が普通に採ると、1日も保たずに枯れてしまうんだ。だから、そういった薬草は、専門の薬草師にしかとれないし、非常に高価なのさ。

 たけど、これは違う」


 店主は、俺を見た。


 「私も見るのは初めてだけど、聖なる場所で聖なる存在が採ったとしか思えない。これが、採ってどのくらい経つのかは知らないけど、専門が採ってもこんなに生き生きとはしてないよ」

 「…………はぁ、そうなんですか」


 そこまで違うのかと、俺は、内心、冷や汗がだらだらと流れるのを感じた。

 クロガネは、呑気に欠伸をしている。

 ということは、今後、今持っている薬草を売るのは非常にまずいのではないだろうか。


 「まぁ、深くは聞かないさ。君にも、多分、事情があるんだろう」

 「た、助かります」


 肩を竦めて言った店主に、俺は、おもわず礼を言った。店主は、俺の持ってきた薬草をチェックし終えると、なにやらゴソゴソし始めた。


 「ああ、これ以上は出さないでくれよ。こっちも、対価が払えないのは辛いからね」


 そう言いながら、店主は、カウンターの上に、金貨の入った小袋やらなんやらと幾つかの袋を置いた。そして、中の物を取り出して数えだす。


 「金貨20枚と銀貨10枚、後は大銅貨と銅貨ね。それと、こっちは傷薬とか一般的に使われる薬で、あと解毒薬と回復薬、こっちはガーゼとか包帯とか応急セットね。

 本当は、もっと価値があるんだが、うちじゃあ、この辺りが限界でね。悪い」

 「あ、いや、大丈夫です」

 「お金は、一般的にパン1つなら銅貨2枚くらいだね。食事なら、大銅貨1枚。宿泊なら、まぁ、銀貨2、3枚辺りが妥当かな?

 銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨30枚で金貨1枚と同じだ。金貨の上に白金貨ってのもあるけど、滅多に見るもんじゃないよ」

 『ふむ。分かっているな……』


 淡々と説明し始めた店主に、クロガネが唸る。

 何も言わないで、説明までしてくれる店主に、俺は、内心で感謝した。

 さらに、服や道具などを購入するならと、服屋や雑貨屋やお勧めね宿などまで教えてくれ、お金や薬を入れておく布製の鞄までくれた。


 「ありがとうございます」

 「いやいや、こちらこそ、凄いものを貰ったからね。逆に申し訳ないくらいだよ」


 俺が改めて礼を言うと、店主は首を横に振って苦笑した。

 聞けば、俺の採った薬草類は、今の時代では王族でもなかなか手に入らない貴重なものになるらしい。だから、これだけいろいろしてもらっても、まだ、対価としては店主の方が遥かに儲けていることになるそうだ。


 『ふむ。300年前なら、そこそこ高く売れる程度の品でしかないのだかな』


 クロガネが、不思議そうに言った。


 「そうそう、“ギルド”に登録した方が身分証明にもなるけど、この町のギルドはお勧めできないよ。もし、登録するなら、[イオーリス]まで行った方がいいね。

 あと、ひょっとして、まだ、薬草があるなら、同じく[イオーリス]にある[カジェルノア薬草店]に行きなよ。あそこの婆さんなら、喜んで買ってくれるさ」

 「分かりました」


 俺は、店主に再度礼を言うと、店を出た。

 とりあえず、お金も手に入ったし、日も暮れているので、店主が言っていた宿屋に向かう。

 買い物は、明日だ。

 大半がクロガネに乗っていたし、途中で休んだりしたのだが、なんとなく疲れた。


 『しかし、予想以上に金が手に入ったな』

 「うん。正直、ありがたいよ。旅に必要な薬とかも貰えたし、当分は、お金に困らずに済むかな」


 宿屋は、薬草店の紹介ということで多少安くしてくれ、朝夕食付きで1泊銀貨2枚と大銅貨5枚だった。とりあえず、3泊することにして、部屋に入る。

 やや狭い部屋は、それでも清潔でベッドも思ったよりも固くなかった。


 「明日は買い物かな。旅をするなら、いろいろ必要だろうし」

 『ふむ。それは楽しみだな』


 ベッドの上に寝転がった俺のそばで、丸くなったクロガネが、尻尾をくねらせる。

 300年近くあの神殿跡にいたので、いろいろ見れるのが楽しいらしい。


 「あと、[イオーリス]だっけ?

 大きな街らしいから、そこを当分の目的地にするのはいいかもしれないな」

 『ふむ。大きな街なら、“王国”のことも、“宝玉”のことも分かるかもしれぬな』

 「まぁ、クロガネが言うなら、調べてもいいけどさ………」


 俺自身についての手がかりになるなら、調べるのも悪くはないが、どうも乗り気ではない。

 疑うわけではないが、クロガネが、俺を“聖なる存在”とかなんとか言うのも、あまり信じたくないのだ。

 自分がまるで、“人間”ではないような感じがして、漠然と不安になる。


 「ま、今はやるべきことをやるか……」


 俺は、あえて見ないように、考えてないように“それ“から逸らして、呟く。

 いずれは向き合うべきこととはいえ、今は、現状を改善する方が先だ。

 なにせ、ついさっきまで、無一文で文化的とは言えない環境に身を置いていたのだ。


 「とりあえず、風呂に入りたい……」


 ふと、思いついて俺が言うと、クロガネが同意するように「にゃあ…」と鳴いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ