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ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
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第2話 黒き獅子(1)

本日2話目。

いろいろ描写が難しい(´・ω・`)

 目を開くと、固い床の上だった。

 崩れかけた廃虚の中、少し視線をずらせば、ぽっかりと崩れ落ち、開いた穴から青空が見えた。


 俺は、頬を撫でる冷たい空気に身体を震わせた。

 顔に、肌に突き刺さる空気に反して、身体は何故か暖かく、俺は、無意識に柔らかなそれにすり寄った。

 そのまま寝返りを打って、俺は、ハタと気付く。

 ガバリと上半身を起こすと、そこは廃虚の上階だった。昨日、命からがら逃げ込んだ場所だ。


 『目覚めたか……。尊き血筋の末裔よ』


 不意に頭に響いた声に驚愕する。

 見上げれば、俺を護るかのように身体を伏せる巨大な獅子(ライオン)がいた。

 暖かいと思っていたのは、どうやらこの獅子の身体に身を寄せていたかららしい。俺は、おもわず声を上げて、獅子から距離を取った。


 一体、どこから入ってきたのだろう?

 昨夜、この祭壇に来た時点では、確かに生き物の気配1つ無かったはずだ。

 俺は、警戒と恐怖に、ぐるぐる回る思考をなんとか落ち着かせようと、深呼吸した。今、パニックになる方が、危険なのだと漠然と思う。


 俺は、改めて獅子を見た。

 真っ黒な、漆黒の毛並みが美しい獅子だ。

 だが、ただの獅子じゃない。

 3メートル近い巨体の獅子なんて、見たことがない。全身を覆う艶やかな漆黒の毛並みに、鋭い黄金の目の獅子ーーなんて格好良いんだ、なんて、一瞬見とれたけど、普通の獅子は、背中に漆黒の大きな翼なんて持っていないはずだ。


 俺は、ただただ絶句して固まった。

 人間、本当に恐怖すると声も出なくなるようだ。

 そう。目の前の生き物は、美しくも恐ろしかった。“畏敬”を抱くというのは、こんな感じかもしれない。酷く恐ろしいのに、どこか威厳があり、美しい生き物に目が離せない。


 『怯えなくてもいいぞ。そなたを傷付けるつもりはないし、出来ないからな』

 「………」


 そうは言われても……。

 呑気な獅子の言葉に、俺は、困惑する。

 確かに襲うなら、俺が寝ているうちにガブリといけばいいのだから、彼に俺を襲う意志は無いのだろう。

 だが、弱肉強食の本能的な恐怖には勝てない。

 俺は、どうすれば良いのか分からず、固まったまま、獅子を見上げた。


 「………って、あれ?言葉……?」


 ふと気付く。

 というか、誰が俺と話しているんだ?

 いやいや、頭に響く低い男性の声が、獅子のものだと自然に判断している俺がおかしい。

 だが、俺の妄想でなければ、目の前の獅子が話しているとしか思えない。

 普通、動物と話すことなんて出来ないだろう。

 なのに、目の前の黒い獅子は、普通に話している。いや、頭に響くから、実際は“話して”いるのではないのかもしれないが。


 『普通は、我の意志(ことば)が人間如きに理解できるわけがないだろう。だが、そなたは別だ。古き血を引き、聖なる力を秘めた“宝玉(オーブ)”の正統なる継承者よ。

 もう、とうの昔にいなくなってしまったとばかり思っていたが、なんたる僥倖か。

 この匂い、気配、まさしく直系の血筋。

 今までどこにいたのだ?』


 ふんふんと、俺の匂いを嗅いで、獅子は、満足そうに鼻を鳴らした。

 俺は、近づく獅子の顔におもわず身を引いた。反射的なものだ。

 いや、だって、獅子を間近に見るなんて初めてなのだ。

 襲われないと分かっていても怖いものは怖いのである。

 それと同時に、獅子の友好的な態度に先ほどまでの警戒が薄れているのを感じた。やはり、意志疎通が可能なのは、恐怖を感じる差も大きく変わるらしい。

 だが、その一方で俺は、獅子の言葉をぐるぐると反芻する。


 古い血?

 聖なる力?

 宝玉の継承者?


 なにその、いかにも重大そうな言葉の羅列は。

 厄介な匂いがするキーワードばかりだ。


 俺は、善良な一般人だ。

 うん。……いや、記憶がないけど。

 ないけど、なんとなく、そんな重要人物っぽい人間じゃないのは、確かだ。


 「いや、ええと、俺にも分からない事だらけなんだが……」

 『ふむ。そなた、信じてないな』

 「信じてないもなにも、俺には、ここで昨夜、目覚める前の記憶が一切無いからな。自分が“誰か”も分からないのに、なにを根拠に“信じる”んだ?」

 『なんと………!』 


 俺の口から皮肉げ言葉が出た。その自嘲めいた言葉に、俺自身が驚いた。

 獅子も驚いたように目を見開く。

 そして、何かを確認するかのように、のそりと上半身を動かし、俺の身体に近寄り、くんくんと俺の身体に鼻を押し当てて匂いを嗅ぎ出した。

 俺は、獅子の突然の行動に悲鳴を上げそうになった。

 意志疎通が可能とはいえ、獰猛さが見え隠れする巨体が怖くないはずがない。

 だが、敵意はないのは分かる。

 

 くんかくんかと、鼻を押し付けられ、グルル………と獅子が唸れば、まるで、襲われているようだ。実際はじゃれつくように獅子の身体が寄りかかってきて、重いのとくすぐったいだけだが。

 俺は、悲鳴を上げるのを必死で堪えた。


 『む………これは、微かだが、強力な封じの跡があるな。それと、この世界ではない力の残滓………』

 「なにか分かるのか?」


 獅子の呟きに俺は少し期待する。

 俺から離れた獅子は、深く息を吐いて、『分からん』と、鼻を鳴らした。


 『おそらく、何らかの強い干渉を持って、そなたの“記憶”は封じられているようだか、正直、まったく分からん』

 「つまり、意味がないと………?」

 『まぁ、そうだが……な。すまない』


 獅子は、しょんぼりと頭を落とした。

 その仕草は、巨体に似合わず、妙に可愛らしい。

 ……まぁ、所詮“猫”だしな……

 俺は、溜息を吐いた。


 「謝る必要はないさ。そんなに簡単に分かるものじゃないって、なんとなく予想はしていたからな。

 それより、これからどうするかだよな」


 俺が獅子を慰めるように言うと、獅子は、少し落ち込んだ様子だったが、今度は不思議そうな顔をした。

 先ほどから思っていたが、随分と人間臭い仕草をする獅子だ。

 感情表現が分かりやすすぎる。


 『“宝玉(オーブ)を集めるのではないのか?』

 「オーブ?」

 『そうだ。“神”が生み出した7つの力の“宝玉”(オーブ)だ。そなたは、その正統なる継承者。“宝玉”は、真の主の元になければ、その真価を発揮はしない。

 そなたは、それを集める義務がある』

 「………と言われてもな」


 俺は肩を竦めた。

 先ほどから、そういえば“宝玉”とかなんとか言っていたな。

 いや、関わると面倒臭いからってスル―していたわけではない。断じて。


 「その前に、俺自身、何一つ分からない事だらけな上に、今は生き残るかどうかの方が優先だろう。

 なにせ、俺は無一文どころか、なんの道具も持っていないんだ。町に行こうにも、森を抜ける必要があるし、俺には身を守る術すらない」

 『ふむ、だが………』


 獅子が何かを言いかけたが、ぐぎゅるるる~……と盛大な音が、辺りに響いた。

 獅子は、その音に、器用に片眉をあげて俺を見た。

 俺は、腹に手を当てる。

 ちょっと頬が熱いのは、スル―だ。

 昨夜、目が覚めてから、あれほど運動して、今まで何も食べていないのだ。腹が空腹を訴えるのは、当然というものだ。


 『………確かに、優先すべき事はあるようだな………』

 

 納得したように呟いた獅子に、俺は、少し居たたまれずに乾いた笑いを向けた。



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